【一の扉⑩】010)ニーアの秘密とウェザーの推理
私たちが砂山だと思っていたのは、サンドワームの身体の上だった。
明らかに私を獲物と見定めてよだれを垂らすサンドワーム。
私は恐怖でその身を固くする。サンドワームの背後の方でシグルやフィルさんがこちらへ駆けてくるのが見えるが、私と同じくサンドワームが起き上がった時に弾き飛ばされており、まして砂の上で思うように近づけていない。
絶望と、サンドワームに睨まれて恐怖で声もあげられない私の前に、敢然と躍り出る小さな影があった。「ハルウ!」長い胴を私を守るようにくるりと回したハルウが「クウウウウウウウウ」と巨大なサンドワームを威嚇する。
「ダメっ!」私は反射的にハルウを胸にかき抱く。ギュッと目を瞑ると、身体の中心に渦巻くものを感じる。「あ、これ、、、」私が考えるのと、サンドワームが私に突っ込んできたのはほとんど同時だった。
「ああっ!!」というフィルさんの悲鳴に近い声を、私はサンドワームの頭上で聞く。また空の上だ。「うわわっ」空中で抱いていたハルウを離してしまわないように気をつけて落下、そのままサンドワームの身体にぶつかって跳ねて、再び砂の上に投げ出される。
「ふぎゃっ」我ながら情けない声を出して砂の上を転がると、身体中再び砂まみれ。それでもなるべく早く立ち上がって逃げようとした私は、そこで初めて異変に気付いた。
サンドワームが動かないのだ。いや、違う。サンドワームは私に襲いかかった勢いで砂の中へと潜り込もうとしているようなのだけど、動かないというか、徐々に後退、正確には引っ張り出されつつあるのだ。
何事かとサンドワームの尻尾の方を見ると、そこには衝撃的な状況が目に飛び込んできた。
フィルさんがサンドワームの尻尾をつかんで、一人で巨大なサンドワームと綱引きをしている。しかもフィルさんのほうが優勢なようで、サンドワームの身体ははち切れんばかりになりながら、ジリジリと引きずり出されて行く。
「ふうううううううう!!!!」
ここでフィルさんが声を張り上げる。可愛らしい声だけど、ど迫力という奇妙な絵面に、危険だということも忘れてつい見いってしてしまう。
するとフィルさんの体がぐんと沈み、サンドワームが空中へと飛び上がった! 尻尾を掴んだまま、グルングルンとサンドワームを振り回すフィルさん。私は一体何を見ているのだろう?
「たあああああああ!!!」
気合い一閃、フィルさんが尻尾を離すとサンドワームの巨体は遥か彼方に飛ばされて、どおんと大きな音を立てて砂の上に転がる。
しばらくピクピクと痙攣していたが、よろよろと動き出すと、フィルさんから逃げるように砂の中へと消えて行った。
その場にへたり込んで、呆然とサンドワームが逃げる姿を眺めていた私に「おい、大丈夫か!」と駆け寄ってきたシグル。
青い顔をしたまま「うん、、、」と答えるも、私はそのまま不意に意識を失った。
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「あれ、、、、?」
気がつけば私はテントの中に寝かされていた。起き上がって手をグーパーし、体が動くことを確認すると、もぞもぞとテントを抜け出す。
「うわあ!! すごい!!」
テントから這い出た私の目の前には、キラキラと光る沢山のセレイアの木。まるで手の届くところに星空があるみたい。1本1本のセレイアの木がとても大きく、明るさも教会にあった苗とは比べものにならない。
「あ、起きた。大丈夫?」
幻想的な光景に目を奪われていると、後ろから声が飛んできた。声のする方を向くと、焚き火を囲んでウェザーたちがこちらを見ている。
「丁度いいね、今、夕食ができるところだよ」というウェザーの視線の先、本当にシグルが炊事当番をしていて、シグルには悪いけれど少し笑ってしまった。
「ごめんね、迷惑かけて、、、」
私がウェザーの横に座ると、ハルウが駆け寄ってきてくれる。私がハルウを抱き上げて「ハルウ、無事でよかった、、、」と胸をなでおろすと、ハルウは嬉しそうに「キュイ」と鳴いた。
その様子を見てから、ウェザーが口を開く。
「いや、気にしないでいいよ。それよりもハルウを助けてくれてありがとう。。。。それと、聞きたいことがあるのだけど、、」
ウェザーの聞きたいことはわかる。
「私の”ギフト”の事だよね、、、?」
「そうだね、、、あれがギフトなら」
これ以上は隠せないだろう。私は腹を括ってウェザーに向き直る。けれど、やっぱりすぐに下を向いてしまい、それでも早口にまくし立てた。
「私は瞬間移動? ができるの。あ、でもね、コントロールが出来なくて、必ずできるモノでもなくて、有効範囲も狭くて、移動距離も短くて、その上一回使ったらこんな風に倒れちゃうこともあるの、、、」
私が必要以上にデメリットを並び立てたのには理由がある。
本来、ギフトは何らかの神の加護を受けたものとされる。例えばシグルなら炎の神フレイアの加護を。風船に入れる空気を圧縮した人は、風の神シルファか、空の神アリエラの加護を受けているのだろう。
幼い頃、エルグ教は無限回廊を作った神を信仰しているのに、加護が他の神様なのはなんで? と大人に聞いた事がある。無限回廊を作ったのが大神であり、他の神は大神の配下なのだと教わった。
ギフトがどの加護を得ているかは、幼少の頃の洗礼式で分かるのだけど、ごく稀に、私のような加護不明の能力というものが生まれることがある。
能力の内容はともかくとして、ちゃんとした加護が得られなかった者は、一段下に見られることが多々あった。
それでも能力が有用であれば重宝されるのだが、私の場合は発動が不安定な上、使い勝手が悪いこともあり正直馬鹿にされてきた。
にも関わらず、密室に入ることのできる能力だからと、セレイアの苗を枯らした容疑者として疑いの目を向けられたのは理不尽だ。
だから私は、他の人にギフトの事を伝えるのに抵抗がある。それに今回の場合、瞬間移動が不安定なものと分かってもらえなければウェザーたちにも「やっぱり君がやったんじゃないの?」と疑われる可能性は充分にあった。
それだけは避けたかったので秘密にしていたのだけど、かえって不信感を煽ってしまったかもしれない。
私がおそろおそるウェザーを見ると、ウェザーは優しげな目で私を見つめていた。
「あの、、、私がセレイアの苗を枯らしたんじゃ、、ないよ、、、」
それでも不安がぬぐいきれない私は、そのように口にする。
「ああ、なるほど、疑われるのを心配していたのか」と納得顔のウェザーは、
「今回の件、だいたい犯人はわかっているから、別にニーアのことは疑っていないよ」
と、当然のように口にした。




