【八の扉⑨】099)チームニーア、快進撃!
地下2階はトラップゾーン。
「ふーん。なるほど、なるほど。あ、その壁触らないでよね。天井が落ちてくるよ」
「ああ、なるほど。面白いこと考えるね〜。でもざーんねん」
「いやいや、こんな子供騙しに引っかかるやついないでしょ。あ、ニーアちゃんは騙されそうだから近づかないでね」
楽しそうに次々と罠を解除してゆくレジー。私たちはただ後ろについて歩いてゆくだけだ。
「噂には聞いていましたが、大したものですね」ダクウェルが感心しながらレジーを眺めている。
「レジーって有名なの?」
「有名なのはレジー自身というか、レジーの師匠に当たる人ですね。”破壊僧”ドゥーニーの最初で最後の弟子ですから」
「、、あら、懐かしい名前ね。そう。それであの若さであの技術を。納得したわ。もしかしてジュニオールは知っていたのかしら?」と、ロビーさんは凄く納得が行った風だ。
「まぁ、ドゥーニーと約束しましたからね。危なっかしいあの娘さんを見守ってほしいと」
「、、、、まさかとは思うけれど、冒険者家業を辞めてカジノ経営に乗り出したのって、あの娘のためかしら?」ロビーさんの言葉にジュニオールさんは
「さて、ね」とだけ答える。
なんだか、私が聞いて良いのか分からない話を聞きながら、地下2階もあっという間に突破する。
そして3階。
現れたのはブラッディウルフ。ギラギラした目、始終涎の垂れる剥き出しの牙。噛まれるどころか、傷一つでも付けば何やら悪い病気にかかりそうだ。
さらにその数が尋常ではない。群れを成し、唸り声を上げながら私たちの方へと進んでくる。いつでも襲い掛かれる準備は万端といった感じだ。
沢山のブラッディウルフの攻勢を傷付かぬように、気を使いながら凌がなければならない。
、、、、多分。本来であれば。
「グオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〜〜ん」
フラージュが吠えた。
その迫力たるや、私ですら首をすくめるほどの迫力だった。
「その獣もまた、とんでもないわね」ロビーさんが呆れる。
回廊内に響く残響が、完全に消える頃にはブラッディウルフの姿は一匹残らず消えていた。
いや、一匹だけ残っている。耳を伏せて、床にへばりついてガタガタと震えている。その一匹もフラージュが一歩足を踏み出しただけで、壁にぶつかりながら逃げ出した。
こうして何事もないままに、地下3階も突破したのである。
そうして地下4階。いまだに帰還の扉は見つからないけれど、まだ1日も経っていないので焦る必要はない。
そもそも私たちはこの迷宮で10日間を過ごさないといけないのだ。じっくり攻略すればいい。
地下4階で現れたのは目玉だけの魔物。イビルアイというらしい。それが天井にびっしりと張り付いている。ものすごく気持ち悪い。
っていうかこの迷宮、とにかく物量でなんとかしようとしてくるなぁ。
「物量で攻めるのは戦略の基本でしょう?」とロビーさんがどちらの味方か分からない解説をしてくれたが、なんの足しにもならない。
ロビーさんの補足はともかく、ここまで私は特に何もしていない。敷いてあげれば、レジーにお願いしてマッピングの役割を譲ってもらった程度だ。
そのマップも迷宮という割にはさして複雑でなく。むしろ目印のない屋外よりも描きやすいくらいだ。いくら心構えのテストだろうとあたりを付けたとはいえ、流石にみんなに頼り切りである。ここらで私も何か活躍したい。うまい方法は浮かばないけれど。
イビルアイはその目玉から麻痺光線を打ち出し、動けなくなったところで触手を絡み付かせて生気を絞りとるらしい。
どうしようかとうんうん唸っていると、ジュニオールさんがスッと前にでる。
「ここは私がやりましょう。ここまで何もしてませんからね。料金分くらいは働かないと」
いうなりナイフを取り出すと、何やら呪文のような文言の書かれた紙をくくりつける。それをイビルアイが群がる天井に投げつけ、天井に刺さったのを確認すると、小さく何かを呟いた。
その瞬間である。天井を刺さったナイフを中心に、小さな旋風が巻き起こったかと思えば、それはすぐに暴風へ、そして竜巻へと変わる。
風の勢いに天井から引き剥がされるイビルアイは、竜巻の中でぶつかり合い、すり潰されてゆく。
こう、なんといっていいのか、、、、えぐい。
しばし暴れた小さな竜巻が消えた頃には、床にはイビルアイだった残骸が転がっていた。
地下4階はこれで終了である。
そして地下5階。
「あった」
ロビーさんのいう通り、私たちが最初に出てきた場所の真下と思われるところに、帰還の扉があった。これで一安心だ。
「呆れた。ここまで1日かかっていないなんて、、、」ロビーさんが両手を広げ、首を振った。
「運が良かったです」と私は返す。運が良かったのだ。それに、無限回廊の奥の扉というほどの難易度はなかったように思う。
「、、、そうね。この扉はみんな5階までに無事に帰ってくる扉。ある意味では当たり、そしてある意味ではハズレ。そうはいっても、普通はこんな簡単には5階まで来れないと思うけれど」
「ある意味、ハズレ。。。ですか?」
「ええ。ここまでに持って帰りたい宝はあったかしら?」
「言われてみれば、、、」ここまでに目にしたのは特徴のない通路と、イビルアイの残骸くらいだ。
「危険を覚悟で飛び込んだ割には、、、って扉よねぇ」
「この迷宮って、ここで終わりなんですか?」
「いいえ。でも、ここから先には進めないのよ。多分、こっちね」
ここで初めてロビーさんが先導をして、私たちを迷宮の先へと誘う。
帰還の扉があった部屋から少し進んだ場所にあったのは、道の終わりだ。
行き止まりという意味ではない。ある場所からすこんと床が無くなって穴が口を開いているのだ。
通路の暗さも相まって、底は確認できない。私の横から暗闇を覗き込んだレジーがコインを放り込んだけれど、音が返ってくる事はなかった。
「落ちないように気をつけてね。それで、多分その先の地下に行く方法は、あそこ」
ロビーさんが指差した先には、小さな灯りが灯っていた。目を凝らせばうっすらとだけど地面も見える。ただ、遠い。跳躍でなんとかなるという距離ではない。
「天井も低いし、壁につかまれる場所はないわ。空でも飛べなければこの穴を飛び越えるのは無理。だからどのパーティーも地下5階で引き返しているのよ」
「飛べる人とかいなかったんですか?」
「飛べるって? 空を? そんなギフト、聞いた事ないけど?」
聞いておいてなんだけど、確かに私も人が空を飛んでいるのを、、、あ、この間飛んだ、いや、あれは投げ飛ばされたというのが正しいか。
「、、、、、なんか、スイッチみたいなものがある」レジーが明かりの方をじっと見ながら呟いた。
「そんなの見える? 私には見えないけど、、、」
「私の視力を舐めないでもらいないなー。で、ニーアちゃん。行ける?」
「うん。私も考えてた。多分大丈夫だと思う」そう言いながらニーア棒を取り出す。
「うん。じゃあ頼むね」
「分かった。もし何にもなかったら次に”跳ぶ”まで少し時間かかるけれど、一緒に行く?」
「当たり前でしょ? ニーアちゃんだけ行ってさどうするのさ。犬っころも付いてくる気満々だよ」
「よし、じゃあ。3人で行こう。。。。失敗したらごめん」
「それだけは勘弁してね」
話がまとまったので、私はロビーさんの方を向くと
「ちょっと行ってきます。皆さんはここで待っていてください」と伝える。
「行ってくる? どこへ行くのかしら?」
「ちょっと”向こうまで”。ダクウェル、悪いけど説明は任せていい?」
「私も一緒に行きたいところですが、仕方ありません。せめて、これを」ダクウェルは小さな炎の糸を編んで、行き先を照らしてくれた。
「ちょっと! まさか!」
止めようとするロビーさんに、私は笑顔で「それじゃあ行ってきます!」と言い残すと、ロビーさんの視界から消えた。
いつもご一読いただきありがとうございます。99話目です。つまり明日は100話です。筆者にとって3作品目の100話到達となります。皆様が読んでくれるから、コツコツと続けてこれました。感謝感謝でございます。
執筆の苦労で言えば今作が一番苦戦しておりますが、ちゃんと終わらせることができるように頑張りますので宜しければお付き合いくださいませ。




