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俺の異世界転移は災厄のスタートなんだが?

暗いのは最初だけです。

 満月の夜の下、不気味な森の中を月明かりを頼りに全力で走る1人の男がいた。


 その男の服装は、お世辞にも服とは言えない麻布1枚を体に巻いただけで靴すら履いてない無い。


 その男の体はガリガリに痩せていて、見るだけで痛々しい傷や痣が身体中に出来ていた。また、その傷や痣の半分は森に入る前から出来ていた事が伺える。


 夜の森を移動するには一切向いていない格好のために、数歩進むだけで足の裏が悲鳴をあげ、体には新しい傷が増える。


 まるで奴隷が命からがら逃げ出してきたかのような状態だ。


 ロクに栄養の取れてはないだろうその男は、ヘトヘトになりながらも無理に走っていたからか、ついには木の根に足を引っかけ、盛大に地面に転んだ。


 転んだすぐとなりは、崖でその下には流れの早い川があった。


 転ぶ方向がズレていれば落ちていたかもしれない。


「いってぇ!!はぁ...くそが......なんで俺がこんな目に...」


 実はこの男、陽田朝日はつい先月に、この異世界に転移してきた勇者だ。


 歳は22。転移する前は、必死の努力で内定を勝ち取ったホワイト大企業への就職目前だった。


 夢のSE(システムエンジニア)として活躍してやろうと息巻いていた朝日に待っていたのは...




 異世界転移と、勇者というファンタジーな職業、そして王国というブラック企業も真っ青になって裸足で逃げ出すほどのブラックな王国だった。


 王国の城の中に転移させられたかと思えば、


「魔王国がやべーから魔王を殺せ」


 と命令され、強制的に訓練というなの地獄のような拷問じみたことをやらされる。そして、少しでも手を抜けばムチで叩かれる。


 転移の際来ていた服は、高く売れそうだからと身ぐるみ剥がされ、代わりに渡されたのは麻布1枚。そっちが呼んだくせに、部屋は固く冷たい石の床に石のベットというほとんど牢屋と変わらないし、飯も毎日1食、内容は残飯。


 王国民の暮らしの方が何倍もいい生活をしているだろう。


 朝日は、すぐにでも逃げ出してやろうと考えていたが、いつも見張りがいて何も出来なかった。

勇者の職業を与えられていても、今まで朝日は一般人だったのだ。レベルもステータスもまだまだ低い。訓練された兵士には、素手では勝てないのだ。


 その結果、1ヶ月も酷い目に会い続けた。


 今夜は偶然、国王の誕生日パーティとかで兵士も酒を飲んでおり、逃げ出すスキがあり、逃亡をはかることが出来た。


 今、朝日はとにかく王国から少しでも離れようと全力で逃亡しているのだ。


 挫けそうになる心を奮い立たせながら、転んで泥だらけになった体を気合いだけで無理やり起こす。

その時、右手の小指に鈍い痛みが走った。


 嫌な予感を感じながら小指に視線を向けると、それはあらぬ方向に曲がっていた。


 ...脱臼?...骨折?


 医学の知識を持たない朝日からしたらどちらかは分からないが...転んだ時になったのは確実で...このままにしておくのは不味いことだけは分かる。


 恐る恐る変な方向に曲がった小指を摘む。それだけで鈍い痛みを感じた。


 それを正しい位置に戻そうとした時、


 ...グルルッ


 すぐ近くから獣の声が聞こえた。


 ここはファンタジーの世界だ。野生の獣どころか魔物すらいる。


 ロクに訓練も受けさせて貰えなかった朝日からすればどちらであっても命の危機には変わりない。

自分の指のことなんて後回しにして痛みを感じる手で口を塞いだ。


 さっきまでの全力疾走で荒くなっていた息を強引に沈めるためだ。


 当然ながら朝日には、見つかった時に逃げ切れるだけの力もない。


 ...バレたら死ぬ。お願いだから気づいてないないでくれ。


 そんな朝日の願いも同然ながら叶わず、木の幹の後ろ側から現れる狼の魔物。


 朝日が流す血の匂いを追ってきたのだ。息をとめたところで意味はなかった。


 このままなら確実に死ぬ。逃げても死ぬ。


 絶対絶命の状態になった朝日は...


「お前に食われて死ぬぐらいなら...少しでも生きる確率にかける!」


 そう決意して、少しずつ距離を詰めてくる狼の魔物から逃れるために崖から飛び降りた。

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