あの娘はウェンディさん
「イーサン様おはようございます。」
「イー、おはよう。」
「あぁ二人ともおはよう♪」
クッキーを見詰めて無表情だったイーサン様は私達に気が付くとパッと人好きのする笑顔になった。
「ねぇ、さっきのって昨日保健室に連れていった方?」
「うん。Bクラスのウェンディちゃん。」
「ウェンディさんって仰るのね。」
「ボクもさっき知ったの。」
話ながら三人で校舎に入った。
下駄箱のところにあるゴミ箱にイーサン様はさっきウェンディさんからもらったクッキーを放り込んだ。
「ちょっと!イーサン様!何で捨てたの!?」
びっくりして声を出せばにっこりと笑ったイーサン様が
「だってボク、よく知りもしない相手から貰った食べ物なんて気味悪くて。」
その気持ちも分かるけど…。
でもウェンディさんがなんか気の毒…。
「確かにほぼ初対面で手作りクッキーは私も捨てるな。まぁ私はシルが作った物以外甘いものは食べないが。」
いや、ヨハンには聞いてないし。
「うーん…。でもせめて家で捨てるとか…。」
「え~?やだよぉ。そんな得体の知れない物帰りまで持ってるなんて。」
そんなやり取りをしつつ四階の教室まで歩いた。
教室ではアンドリュー殿下とグルマン様が談笑していた。
「「シルフィー!おはよう!」」
二人が元気よく声をかけてくれた。
「おはようございます。殿下にグルマン様。」
「もうシルフィーはいい加減俺のことアンディって呼べよ。」
「流石にそれは出来ないです。」
「じゃあせめてアンドリュー。」
今日はやけにしつこいし、譲る気もなさそうだ。
「ではアンドリュー様でいいですか?」
「おう!他の奴等が名前なのに俺だけ殿下はやっぱり気になるからな。」
にっこりと笑う。
「何度も言うが、シルは私の婚約者ですからね!」
ヨハンがそう言うと、
「分かってる分かってる~」
って笑って席につく。
「そういえばイー、いつもより来るの遅かったけど、何かあったか?」
アンドリュー様がそう訊ねれば、肩をすくませたイーサン様が「別に?」って答えたから、私は門の前であったことと、貰ったクッキーを捨てたことを話した。
「でも何も学校で捨てることなくないですか?」
私がそう言うと、アンドリュー殿下は
「シルは人を信じすぎなんだよ。」
と仰った。
意味がわからずに首をかしげると、呆れたように溜め息を吐いて
「俺達貴族は、平和に見えていつどこで殺されてもおかしくないのは分かるか?」
私はハッとした。
確かにそうだ。
いくら貴族で、聖人君子であったとしても、誰の恨みも買わずに生きているとは限らない。
ましてや王族であるアンドリュー様なんかは特にその危険が身近であった筈だ。
「その通りです…。私の考えが甘かった様で、イーサン様には嫌な思いをさせてしまいましたね。申し訳ございません。」
イーサン様に向き直り謝罪すると、にっこり笑って
「シルフィーはその素直なところが魅力だと思うから、気にしないでね♪そんなところも好きだからさぁ♪」
さらっと好きとか言わないで欲しい。
カッと顔に熱が籠るのを感じる。
それから耳元で私だけに聞こえるように
「シルフィーはボクの家の領地で起きた毒薬事件、知ってるでしょ?」
そう囁かれて自己嫌悪に陥る。
そう…。
フォッカチオ伯爵領で起きた事件…。
思い出すだけで胸糞が悪い。
あれからイーサン様は毒薬に人一倍過敏になったのだ。
「ごめんなさい!」
ガバッと頭を下げると
「だから良いって言ったじゃん♪シルフィーは笑ってるのが一番可愛いよ♪」
って軽い調子で流して私の頭をポンと撫でてアンドリュー様の隣の席に座った。
一連の流れを見ていたヨハンは不機嫌そうに私の頭を撫で擦り「私の婚約者なのに…。」とブツブツ呟いていた。
例のフォッカチオ伯爵領の事件はヨハンも一緒に解決したことだから、イーサン様の気持ちも分かるし、私の気持ちも分かるから、本当だったら割って入りたかっただろうけど我慢してくれた。
その優しいヨハンの気持ちもありがたくてヨハンの手をぎゅっと握ったら、優しい笑顔で微笑んでそっと手を握り返してくれた。
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