カフェデート
ヨハネス様が鬱陶しい…。
昨日私が一日屋敷に居なかったのがグリッシーニ領にグルマン様と一緒に行っていたからだと聞いて暗黒オーラを出してる。
二人で行った訳でもなく、現地集合現地解散だし、ましてやビジネスの話なんだけど自分に知らせずに行ったから怒ってる。
そんなのまでいちいち許可取らないといけないの?
お父様と一緒にグリッシーニ伯爵邸に伺って、話が纏まったから現地視察をしに各々の馬車で現地に向かって、現地で解散したんだよ?
どこにも嫉妬要素ないじゃん。
今日も皆来てるけど、ヨハネス様が近付くなオーラ出して私から離れないから、仕方なく機嫌を取ることに…。
私は文句言われる様なことはしてないから不本意なんだけど、アンドリュー殿下達に頼まれて渋々よ。
屋敷にいても空気が重いから、ヨハネス様を二号店のカフェに連れていくことにした。
うちの馬車で行こうとしたら、ヨハネス様が辺境伯家の馬車で行くって言うからそっちに乗せて貰った。
二人で出掛けるって言ったら急にキリッとしちゃって分かりやすい性格だわ。
きっとデートだと思ってる。
それで自分家の馬車で私をエスコートしたいっぽい。
こういうちょっと単純なところは好きかな。
だいぶ毒されてる?
馬車に乗ると隣にぴったりとくっついて座ってきた。
そして有無を言わさずに手まで繋いで。
はぁ…。
小さくため息を吐くと焦ったようにこちらを伺ってきたから
「ヨハネス様、私に言いたいことがあるならはっきり仰ってください。」
と切り出すと肩をプルプルと震わせて小さい声で語りだした。
「昨日、カスクルート邸に着いたらルーカスに今日はシルはグルマンの所に行ってるって聞いたんだ。ちゃんと理由も聞いたけど、グルマンまでシルの魅力に気付いてしまうのではと怖くて堪らなかったんだ。」
グルマン様はヨハネス様をあれ程慕っているし、私を好きになる要素なんてないと思うけど…。
「それにいつカスクルート邸に行っても他のやつらがいるせいでシルと二人で話す機会がなくて、殿下やイーもシルを狙ってるし、私の婚約者なのに…。」
確かに今はヨハネス様の婚約者なのに、皆がいるおかげで最近は二人になることは滅多にないわね。
でもこれって普通、彼女側が不満に思って彼氏に言うパターンじゃない?
ヨハネス様、女々しいのが嫌いって設定なのに自分が女々しくなっちゃってる。
前みたいに婚約者の時間を設けるようにしないと爆発しそうね。
まだ何か細々ブツブツ言ってるけど、このままじゃヨハネス様にとっても良くないから軌道修正しないと。
「ヨハネス様、私はヨハネス様の婚約者です。それは事実なのですから強気でいていただかないと。」
「しかし、学校入学時にどうなるか…。」
「ヨハネス様は仰いましたね?私の心を射止めると。それは嘘だったのですか?」
「嘘ではない!他の誰にもシルの婚約者の座は渡さないし、絶対好きになってもらう!」
私の手を握る力が強くなったけど、必死な姿に少し胸が打たれる。
握られていない方の手をその上にそっと重ねて、
「それなら、もっと自信を持ってください。今私は他の誰でもないヨハネス様、貴方の婚約者ですよ。」
「しかし、皆がシルを狙っている…。」
「それはヨハネス様が守って下されば済む話ではないですか?」
ハッとした顔でこちらを伺っているヨハネス様に今日だけしか言わないけど私の気持ちを伝える。
「これは一度しか言わないので、しっかり聞いておいてください。」
私の空気が変わったのを感じたのか手を離して、正面の席に座り直したヨハネス様は緊張したように返事をする。
「分かった。」
私も覚悟を決めて口を開く。
「ヨハネス様、最初こそ脅されて婚約者になり嫌だと思っていましたが、今ではヨハネス様の婚約者である事を嫌だとは思っていません。そもそも婚約者など作るつもりはありませんでしたから、婚約破棄を望んでいましたが、仮に婚約が白紙に戻った後、他の殿方が婚約者になるというのは想像がつきません。まだはっきり好きとは言えませんが、少なくとも私の中でヨハネス様はうちに集まっている殿下達より優先順位が上です。殿下達は私にとって弟の様な幼なじみ的な存在だと思っています。なので入学時にどうなるかはヨハネス様次第だと思いますよ?」
俯いて話を聞いていたヨハネス様が、パッと顔を上げて私の手を取る。
「脈なしだと思っていたけど、期待しても良いと言うことですか?」
イエスと言ってくれって顔に書いてあるような表情で真っ直ぐ見つめてくる。
「そうですね、少なくとも少し絆されている自分に私も驚いています。」
ギュッと抱き付いてきたヨハネス様に
「でも、私は落ち着いた大人の様な男性が好きです。もっとどっしりと構えてください。」
と囁く。
普段、すごく落ち着いていて冷静なヨハネス様だけど私のこととなると狭小になるから自分で言うのもなんだけど、愛されているとは思う。
ストレートにバンバンぶつけてくるし、私も鈍い訳じゃないから、これだけ愛情表現されてたら少しは情が湧くのも仕方無いと思う。
「シルに認めて貰えるようにもっと男らしくなる!」
必死で可愛いなって最近は思ってしまうからもう後戻りは出来ないんだけどね。
それでもキモい部分はキモいって思うけど、嫌いかって言われたら嫌いではないし、本当だいぶ絆されてる。
馬車が止まり、二号店に着いたと御者さんが伝えてくれたからヨハネス様のエスコートで外に出る。
そのまま手を繋いで店内へ入り、カフェを利用すると伝えて席に着く。
この店のオススメはシナモンロールだけど、ヨハネス様は甘いものが得意じゃないからベーグルサンドと紅茶、食後に甘さ控え目のチーズマフィンと珈琲を頼んだ。
私はサンドイッチとミルクティで食後にシナモンロールとカフェオレを注文。
二人きりで食事をするのは初めてかもしれない。
婚約者の交流としてお茶をすることはあったけど、毎日来るようになってからは他の皆がいて二人になることはなかった。
これは私は何とも思ってなかったんだけど、今思えばヨハネス様への配慮が足りなかったなって反省…。
カフェではグリッシーニ伯爵との共同ビジネスの話や他愛のない話をして、すっかり機嫌の直ったヨハネス様は年相応の美少年の顔だった。
まだ10才だと言うのに、婚約者のことで悩むなんて元の世界にいた頃では考えられないけど今はこの世界で生きているし、受け止めなければならないなと考えさせられる。
帰りの馬車の中で細長い箱を渡された。
中を開けてみると、綺麗な紫色の宝石が四つ葉のクローバーの形になっている可愛らしいネックレスが入っていた。
本当だったら指輪を贈りたいけど、成長で指のサイズも変わるだろうし、私の言ったパン作りの時に外すことを考えたらいつもつけて貰えるネックレスが良いと思ったと言ってくれた。
素直に嬉しくて早速ヨハネス様に着けて貰った。
屋敷に戻ると他の方達にヨハネス様は改めて自分が私の婚約者だから絶対に譲らないと宣言した。
アンドリュー殿下達も何か言ってたけど、ヨハネス様は気にしないことにしたみたい。
そうそう、そのまま女々しいのは卒業しましょうね。
頑張ったヨハネス様に私からも少しだけ歩み寄ろうと『ヨハン』と呼ぶと耳まで真っ赤になっていてとっても可愛らしかった。
皆の前ではヨハネス様って呼ぶけど、二人の時は『ヨハン』って呼ぶね。
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