ピロシキマウンテン(後)
何で私はこんなところにいるんだろう…。
場違い感が半端ない。
王城の一室に私はいた。
勿論一人なんてことはなく、お父様もメリッサもいる。
そして目の前には国王陛下に宰相閣下、国軍の総司令官などという重鎮揃い。
第一王子殿下に第二王子殿下の姿もある。
アンドリュー殿下に至ってはこっそりウィンクをかましてきた。
この重圧の中で正気か?と問いたい。
何故私までお父様と一緒に呼ばれているかと言えば、子爵家の裏家業を知っているから。
そして、それとなくシュトレンからの侵入経路を見付けたから。
これはナンシーと渓谷周辺の妖精が教えてくれたからすぐに見付けることが出来たんだけど、お父様とヨハネス様しかその事実は知らない。
あくまでも、ブリオッシュ辺境伯には私は何も知らないで婚約者の元に遊びに来て、たまたま怪しい地下通路への隠し扉を見付けただけだと思って貰ってる。
国王達にはもしかしたら子供目線で探せば侵入経路を見付けるお手伝いが出来るかもしれないという風に装って出掛けた。
まさか妖精に教えてもらえるから行きましたなんて言えないしね。
そしてこの国家機密会議の場にはブリオッシュ辺境伯もグリッシーニ伯爵も呼ばれていない。
カスクルート子爵家はあくまでも商業や事業を営む事業家なのだ。
諜報部だということは伏せねばならない。
これに関してはヨハネス様も知る由もない。
妖精の水晶を守り、雪崩さえ防ぐことが出来れば良いと思っていた私はまさか再び隣国が絡む大事に発展するとは思っていなかった。
ゲームでも来年起こる雪崩が人災だったということしか明かされておらず、戦争があったなんて語られていない。
ということは戦争は起こらないのでは?
一瞬頭を過るがきっと恐らく、攻め入られる前に未然に防いだからゲームの内容に影響がなかったのだろう。
お父様率いる諜報部や国王が攻め込まれるまで気付かない訳がないもの。
それでもこんなに早く気付くことが出来たのは、犠牲が最小限に抑えられる可能性が高く有難いことだった。
子爵家を継ぐのは弟のルーカスだけど、当主であるお父様が私にも秘密を打ち明けたこと、そしていずれは二人に家業を引き継ぐことを国王陛下に正式に発表する為にこの会議に参加することになった。
ただのモブもここまで来たら引き返せない…。
まず、お父様とヨハネス様にしか打ち明けていない妖精の守っている水晶のことだが、それはヴァイツェンブロートでも公にしたくないことだ。
公になれば、今回防いでもまた狙う輩が現れるのは明白である。
なので、例のシュトレンの絵本の通りに宝が出たことにした。
絵本にはどんな宝が眠っているかなどの細かな描写がなかったのも幸いして、ナンシーの生まれた水晶の代わりになるならと、ナンシーが幾つかの水晶を持ってきてくれたのだ。
それを国王に納め、ピロシキマウンテンのお宝が発見されたこと、洞穴にある水晶は国王に納めた物が全てで、掘り進めると雪崩が起きて危険な為塞いだこと、国王命令により入山禁止の通達を広めた。
密入国者達もその噂を耳にすれば、引き上げるだろう。
そして密入国者達が引き上げる瞬間をブリオッシュ辺境伯率いる辺境部隊が捕獲する作戦だ。
その後はグリッシーニ伯爵により山の麓に見張り台を建てさせて、麓の村人達に入山するものがいないかを見張らせることになった。
そしてトントン拍子に話が進み、行商人に紛れた暗殺部隊がシュトレン国城に乗り込み、国王を捕縛することに成功した。
ずっと友好国として交流を深めていた両国だったが一昨年シュトレン国王が崩御し、息子であった王太子が13才という若さで後を継いでから親交が途絶えていることはヴァイツェンブロート国王の耳にも入っていた。
諜報部の調べによると、若きシュトレン国王は、母君である前国王の側室を、宰相により幽閉され人質に取られているらしい。
それ故にシュトレン国王は宰相の傀儡にならざるを得ない状況にあることが分かった。
ヴァイツェンブロート国に連れてこられたシュトレン国王は泣きながら母を助けて欲しいと懇願した。
戦争は起こさないこと、ヴァイツェンブロートの属国として従うことを条件に、前国王の側妃救出部隊が送り込まれ、無事に救出。
調べれば調べるほど、宰相は自分の都合の良い国政を行っていた。
更に一昨年崩御した前国王の死因は世間的には病死とされていたが、毒殺された可能性が高かった。
恐らく、若き国王を据えてシュトレンを意のままにしようと企んでいたのだろう。
黒幕である宰相を筆頭に、シュトレン国王を利用していた者達を芋づる式に引きずり出し、主犯である宰相一家は処刑され、共犯だった者達は爵位を返上させて罪の重いものは幽閉し、比較的罪の軽いものは国外追放された。
その他の関係貴族は一段階爵位を降格。
五年の期限を設けて、その間に良い領地経営や国益になる働きが認められた場合に限り元の爵位に戻すこととした。
若きシュトレン国王にはしっかりとした後見人が必要だ。
そこで、ヴァイツェンブロート国の公爵であるクロワッサン公爵の娘を嫁がせることにした。
シュトレン国王の正妻にはシュトレン国の宰相の娘がついていたが、今回の事件により一族諸共娘も処刑されたので丁度良かったのだ。
シュトレン国王より5才年上だが、才女で善き支えになるだろう。
20才である彼女は一度嫁いだのだけれど、流行り病で夫を亡くした未亡人で、実家であるクロワッサン公爵家に戻ってきていた。
このクロワッサン公爵をシュトレン国王の後見人として宰相に就けることにし、定期的にヴァイツェンブロートへ報告することとした。
属国になったことで今まで以上に輸出入が盛んになり、シュトレンにとっても良い結果に治まった。
これをきっかけに、私のパン屋も数年後にシュトレン進出することになる。
ブリオッシュ辺境伯とグリッシーニ伯爵の功績を認められ、昨年取り潰しになったシュトレンの侯爵家の領地を半分ずつ貰うことになった。
カスクルート子爵家に関しては表立っての諜報部としての功績を明かすことが出来ない為、私がたまたま侵入経路を見付けたということで褒美を賜ることになった。
国王に何が良いか聞かれたので、ピロシキマウンテンの入山許可を願い出た。
何故かと聞かれたら妖精に会いに行くからって理由だけど、勿論言えないからカスクルート子爵領には雪がなく、一度で良いから雪に触れてみたいということを話した。
話でしか聞いたことのない雪に触れることが、ピロシキマウンテンへの入山が禁止になった今、もう経験することが出来ないのなら、どうしても行ってみたいとお願いした。
それだけで良いのか聞かれたけど、私は妖精達の様子が見られたらそれで十分なので
「もしもう一つの願いが許されるのなら、カスクルート家のパン屋さんをご贔屓くださいね。」
と営業スマイルで言うとアンドリュー殿下が吹き出した。
大真面目なのに解せない。
そして必ず父と一緒に行くことを条件に入山許可が降りた。
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ナンシーとお父様と一緒にピロシキマウンテンを登る。
普通に探していたら妖精達が結界を張って守る洞窟など見付かる訳がない。
密入国者達はどれだけの執念で探すつもりだったのだろうか。
実際ゲームでは探しだしてそれが原因で妖精達が怒り、雪崩が起きていたからすごい執念だと思う。
こんなに辺り一面真っ白で、たまに吹雪も吹く。
私だったら数時間でギブアップだ。
ナンシーの案内で洞窟がある辺りまで行く。
結界があるから見ることは出来ないけれど、ここでナンシーが生まれたそうだ。
結界を守る四人の妖精が代わる代わるやって来て、私にお礼を言う。
そして去り際に頬にキスを落としていく。
すると今まで見えなかった結界と、それに守られている洞窟が現れた。
ずっとそこにあったらしい洞窟の中に案内される。
お父様には見えていない。
妖精達は私だけを連れて行きたい様で、少しの間お父様にはここで待っていてもらうことにした。
洞窟の中に入ると沢山の水晶があってキラキラと輝いている。
光などない洞窟なのに十分明るく、とても神秘的だった。
真ん中の一際大きな水晶がナンシーの生まれた女王の為の水晶で、その周りにある四つの水晶が結界を張る妖精達の物だそうだ。
それ以外の水晶は採っても問題がないからと、国王に納める用の水晶はここから調達したらしい。
私にも採って良いと言ってくれたけれど、ここにあって輝いているのが良いと思ったから遠慮した。
するとナンシーは小さな水晶の欠片をくれた。
ナンシーが生まれた水晶の欠片で、どうしても受け取って欲しいと言われて、これだけ有り難く頂戴することにした。
そしてやっぱりさっきのキスは妖精達の加護で、結界を張るチートを手に入れてしまった。
魔法など存在しないこの世界では、これも誰にも明かすことが出来ないなと益々秘密が多くなり、妖精達の好意は有難いけれどちょっとだけ辟易した。
そしてもうこの山に人が入ることは滅多にないから安心して欲しいと妖精達に告げて山を降りた。
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