ピロシキマウンテン(中)
今回は主人公語りではありません。
ヴァイツェンブロート国とシュトレン国の境界には険しい渓谷があり、それ以外の場所はレンガ作りではあるが、塀を築いてお互いの境界を明確にしている。
その塀に繋がる形で国境警備隊の常駐する砦が数ヶ所設けられており、侵入者は愚か、出国するのも一筋縄ではいかない。
正式に手続きを申請して行商などが行き来する際は、関所でしっかりとした検査が行われる。
そのためにまさか密入国者がいるとは到底思えなかったが、国王による諜報部からの情報で(カスクルート子爵家が諜報部なのは国家機密なので国王の諜報部隊からの情報ということになっている。)シュトレンから何者かが密入国して、ピロシキマウンテンの周辺で怪しい動きをしているとのことだった。
まだ、その密入国者の目的などは分からないけれど、ブリオッシュ辺境伯率いる辺境部隊にはシュトレンからの侵入経路を速やかに調べるという任務を任された。
鉄壁の護りと思っていた国境に穴がある。
それは国境を任されている辺境伯にとっても由々しき事態であり、許し難いことだ。
辺境伯自らが指揮をとり隈無く探る。
今までより厳しく関所でのチェックも行われ、その行商の中にメリッサが紛れていることはカスクルート子爵以外に知る者はいない。
国境の塀に隠し扉などないか、どこか登れるように細工された箇所がないかしらみ潰しに探していく。
しかしいくら探しても見付からない。
こんな時に何をしていると怒るべきだが、密入国者の侵入経路を探していることは他の領地の知ることではない為、息子であるヨハネスの婚約者がタイミング悪く国境の渓谷の見学に来てしまった。
本来ならば追い返すべきだが、息子には密入国者のことを知らせているし、もし何か見付けたらすぐに知らせるように指示を出した。
普通に探すよりももしかしたら見付かるかもしれないという淡い期待もあった。
しかし、まさか本当に辺境部隊でもないただの子供が見付けてしまったのには驚かされた。
国境の渓谷は深く険しく、落ちればまず助からない。
その為、普段近付く者もおらず警備は薄い。
そこを突かれたのだ。
シュトレンからヴァイツェンブロートまで繋がる地下通路が作られていた。
渓谷の川を渡ったところに洞穴があり、そこから徐々に上に向かって長い通路が掘られており、地上に出られるようになっていた。
また逆にこちらからシュトレンに出る為の洞穴と通路もあった。
何故それに気付けたかといえば、遊びに来ていたカスクルート子爵令嬢が乗っていた馬が無造作に積み上げられていた干し草を食べたことにより、怪しい地下扉を見付けたからだ。
偶然にしても的確で驚きを隠せなかったが、感謝しかない。
これが密入国者だけの物である筈もなく、シュトレン国による陰謀を感じざるを得ない。
すぐに国王に報告をあげ調査を続ける。
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グリッシーニ伯爵は領地のピロシキマウンテンの麓の村に来ていた。
息子のグルマンも一緒だ。
この村には息子の乳母と乳兄弟もいて、伯爵がピロシキマウンテンに行くと言うと、グルマンも同行を願い出た。
道中、グルマンには国王よりピロシキマウンテンの周辺をうろついている怪しい人物達のことを調査するように命じられたことを伝える。
その人物達がシュトレンからの密入国者である可能性が高い為、ブリオッシュ辺境伯も国境付近を調査していることなども話した。
そして今回の麓の村への訪問は決して遊びではないことを釘を刺し、それとなく何か変わったことがないかなどを村人達に聞くように促した。
グルマンは幼馴染みやその友人達と遊びながら話を聞く。
やはり少し前から余所者と思われる者達がうろついているようだ。
村の宿に止まることはないけれど、食料品や日用品を買いにきたりしているらしい。
普段この村に来る人達は旅人や行商人などで、通りがかりで寄ることはあっても、短期間のうちに何度も訪れることはない。
その時点でこの怪しい余所者達は村の近くのどこかで野営をしているのでは?と村人達も警戒していたようだ。
グリッシーニ伯爵はその話を元にピロシキマウンテンの麓周辺を探ると、何者かが野営をした形跡を発見し、直ちに国王へ報告する。
引き続きピロシキマウンテンへの警戒は続行する。
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メリッサは行商人としてシュトレンに入った。
勿論商品はカスクルート子爵家の選りすぐりの物で、シュトレン国の貴族達にも愛用されている物ばかりだ。
そして商人というのは、あちこちで情報を耳にすることも多い。
メリッサ程の美人はお誘いを受けることも多く少しばかり一緒に酒を飲めば、割かし簡単に情報が手に入る。
どうやらピロシキマウンテンには隠されたお宝があるという情報が出回っているらしい。
出所は子供が読むような絵本だが、その絵本に描かれていることが真であったことが続いていて、一部の大人達はそれを予言書と信じていてトレジャーハンターのような輩が増えたそうだ。
別の日、メリッサは貴族が集まるお茶会にて商品を紹介するように呼ばれた。
そこで商品をしっかり宣伝して売り込む。
特に今のイチオシはカスクルート領の牧場産バターで、薄いパンに塗って試食を配ればあっという間に完売した。
シュトレンで複数の商会を持っている貴族が、輸入を視野に入れた取引をしたいと申し出て、メリッサは改めてその貴族の屋敷に伺うことを約束する。
その貴族の息子がメリッサを気に入り、酒の席に呼ばれる。
メリッサ自身は酒に強く、間諜訓練の賜物で薬物耐性もある。
恐らく、睡眠薬の類いを盛られたことに気付くがこちらも自白剤を盛ったのでお互い様だろう。
酔って眠くなったフリをすれば、鼻の下を伸ばした男に個室に連れ込まれる。
ベッドに横たえられたメリッサは勿論酔ってもいなければ眠くもない為、男から情報を引き出す。
自白剤が効いた男はペラペラとシュトレンの国家機密であろう企みを話した。
男はシュトレン国軍に所属しているらしい。
そこで上層部が話していた内容をうっかり聞いてしまった。
それによると数年の内にヴァイツェンブロートへの侵入経路を増やして攻め込み、ヴァイツェンブロートをシュトレンの属国にするという内容だった。
再び男に軽い睡眠薬入りのお酒を飲ませ、さもお楽しみがあったかのように着衣やベッドを乱しておいた。
目覚めた男は酒のせいで記憶がないけれど、昨夜はメリッサと楽しい一時を過ごしたことを疑うことはないだろう。
重要なのは数年の内に戦が始まるということ。
例の予言書扱いされているという絵本も入手し、シュトレンを後にした。
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