何で来たの?リターンズ
シュトレンは隣国の名前です。
湖の妖精の件も片付き、まだ少し暗い気持ちを引き摺っていたけれど黒幕である隣国シュトレンの侯爵も侯爵家が取り潰され処刑、共犯者である侯爵の元使用人(ヴァイツェンブロート国のフォッカチオ伯爵領の工場長の娘に婿入りした)バルトも捕まり処刑されたし、工場の毒物研究施設は解体し、以前の様に優良な薬品工場に戻った。
工場長は車椅子ではあるけれど、娘さんと一緒に工場を見回り、的確に指示を出していて寝たきりの時のことを思うとすごく生き生きしている。
娘さんは、まさか旦那さんがそんな嗜好の持ち主で裏で残忍なことをしていたということ、結婚は工場を乗っ取るためだったこと、父親に毒を盛り不自由な身体にしたことを受け入れるのに時間がかかったけれど、父親が毒を盛られなくなり少なくともベッドでの寝たきりから脱することが出来た為、前を向いて進むことにした。
娘さんが落ち込んでいる間、工場長の代わりを務めた副工場長の青年と後に恋に落ち、末永く暮らしたのはまた別のお話。
湖の妖精が目覚めさせたお礼に私の頬にキスをしてくれたんだけど、それが加護だったらしくてまたチートを手に入れてしまったようだ。
蓮の花の効能である浄化。
本来なら蓮花茶のように美肌とかに関係してる浄化作用だと思うんだけど、このチートは汚染された物(者)に対する浄化だそう。
人の心を浄化することが出来るのならカウンセラーやセラピストにでもなろうかしら?
まあ悪目立ちしたくないし、あまり使う機会もないだろうからこのチートのことは誰にも言わないことにした。
ただ、こっそり不法投棄されていた死骸が埋められていた林の浄化は行ったけどね。
私もいつまでも落ち込んではいられないし、週に一度の孤児院訪問に行くことにした。
いつものように、子供達へのお土産のパンを作りルーと一緒に馬車に乗り、孤児院に向かう。
ヨハネス様の馬車があるのはいつものことなので、もう驚かない。
しかし、今日は更に二台の馬車が止まっていた。
一台はヨハネス様の馬車に似ているけれど、家紋が違う。
そしてもう一台はとても豪華で、貴族でも高位な者しか乗ることが許されないような馬車だった。
嫌な予感が頭を過るけれど、重い足取りで孤児院の扉を開く。
「やぁ、シルフィーヌ嬢!」
扉を勢い良く閉める。
今の金髪に青い目のチャラそうな青年は…。
思考が停止していると扉が開かれ、腕を引かれる。
既視感。
私の腕を引いたのはヨハネス様だった。
しかし、先程声をかけてきたのは第二王子であるアンドリュー殿下で、その隣には赤い短髪に青い目のフォッカチオ伯爵子息のイーサン様がいた。
なんでいるんですか?
あの家紋が違う馬車はフォッカチオ伯爵家の物で、凄く豪華な馬車は王家の物だったのだ。
王家の紋章がなかったのは、一応お忍びで来ているからということらしいけど、あんな豪華な馬車のどこがお忍びなのか分からない。
取り敢えず殿下に失礼がないように、(もう遅いけどさっきのはなかったことにして)淑女の礼をする。
ヨハネス様の幼馴染みであるイーサン様が、この間の事件を切っ掛けに同じ次男ということでアンドリュー殿下と交流を深め、ヨハネス様から私の孤児院のボランティアのことを聞いて興味を持ち、行ってみようかって軽いノリで来たらしい。
いやいやいや、迷惑だから!
そんな軽いノリで来ないで欲しいし、二人とも忙しいんじゃないの?
イーサン様は次男で家督を継がない為、薬学の勉強はしているけれど、騎士団に所属するべく毎日鍛練をしているらしい。
アンドリュー殿下は俺なんかいなくても何とかなるから、やることもやってるしたまの息抜き位自由にさせてもらってると自虐混じりに仰っていた。
イーサン様はお兄さんにいつも大切な物を横取りされるから強い執着を持つようになるし、アンドリュー殿下もいつも優秀な第一王子と比べられて、自身も優秀なのにいくら頑張っても所詮第一王子のスペアだという気持ちでひねくれてしまう。
ゲームでは学校に入学する頃にはすっかり歪んだ性格になってしまう二人だけれど、現実では似たような境遇で同じ年ということもあり、すっかり意気投合して仲良くなったみたい。
誰にも相談することの出来なかった心の闇を二人は打ち明け合い、交流を深めていけるなら素敵だと思った。
それとここにいることは別だけど。
ヨハネス様が余計なことを言うから来てしまった訳で、帰ってとも言えず無言でヨハネス様を睨み付ける。
ヨハネス様はやっぱり頬を赤く染めて喜んでいる。
相変わらずの反応に辟易してタメ息を吐く。
「シルフィーヌ嬢って長いからシルフィって呼んでもいいか?」
ってアンドリュー殿下が言う。
突然馴れ馴れしくないですか?
喋ったのあのお茶会の時以来ですよね?
私が固まっているとヨハネス様がそれを拒んだ。
「殿下、シルは私の婚約者ですよ?あまり馴れ馴れしくされては困ります。」
いや、どさくさに紛れてお前も私のこと″シル″って呼び出したじゃんか。
何?
マウント取ってるつもり?
耳元でこっそり小さな声で『私のことはヨハンと呼んでね?』って囁いてくるし。
面倒な男だほんと。
「ヨハネスがシルフィーヌ嬢のことをシルって呼ぶなら俺もシルって呼びたいわ。」
「これは婚約者だけが呼ぶことの出来る愛称なので、ご遠慮ください。」
何か火花がバチバチしてる。
面倒臭くなったので、
「私のことはシルフィーヌでもシルフィーでも好きにお呼びください。」
と告げると、『じゃあ俺のことは″アンディ″って呼んでね。』とウィンクをかましてきた。
チャラいわぁ。
王子のことを婚約者でもなんでもない私が愛称で呼ぶ訳にもいかないし、これは聞かなかったことにして殿下呼びを徹底しようと決意。
イーサン様も『ボクもシルフィーって呼びたいから、″イー″って呼んでよ。』って言ってきたけど、私の横の奴が物凄い顔でイーサン様を睨んでいるからイーサン様も呼び名は変えないと決意。
何で私がヨハネス様にこんな気を使わないといけないのか分からないけれど、この間の湖の妖精の件ではショックを受ける私を支えてくれて、協力してくれたから、少しだけ友人として歩み寄ってもいいかもと思ったのだ。
孤児院の院長は急な第二王子の訪問に慌てていたけれど、あくまでも私的なお忍びの訪問だから気にしないようにとのことで、手土産に新しい読み書きの教本をたくさん寄付してくれた。
いい奴じゃん。
イーサン様も孤児院に置き薬を設置してくれた。
定期的に中身を補充してくれるらしい。
定期的にってことはまた来るってこと?ってちょっと思ったけど、この人もいい奴じゃん。
ヨハネス様はいつも辺境伯領で獲れる獣の肉を差し入れしてくれる。
変態だけどいい奴。
何故カスクルート子爵領の孤児院にたくさんの子供が集まるのかといったら、ヴァイツェンブロート国にある孤児院はこの孤児院だけだからだ。
国内に一軒しかない孤児院なので、年々人数が増えてきて手狭になってきている。
子爵領にあるのは、お父様の裏の仕事にも関係しているらしい。
孤児が拐われたり利用されたりするのを防ぐ上でも、しっかりとした領主の元におかなければならない。
その為孤児院は国営ということは伏せてあくまでもカスクルート子爵が運営しているように見せている。
国王陛下より、この間の隣国絡みの事件の解決の褒美は何が良いか聞かれた私は、孤児院の増築と子供達の世話をする人材の派遣をお願いした。
今は孤児院の裏手に別の棟を作り始めていて、渡り廊下で繋げることになった。
話は戻るけど、今日も私は孤児院の子供達にお勉強を教える為にやって来たから、殿下達には悪いけど、構ってる暇はない。
ルーには殿下と一緒に小さい子供達に絵本の読み聞かせをしてもらって、ヨハネス様には大きい男の子達の勉強と剣術の稽古をイーサン様と一緒にやってもらうように指示を出す。
殿下もイーサン様もまさか手伝えと言われると思っていなかったのか不満を口にするし、ヨハネス様は一人で良いって文句言って煩かったから、
「殿下とイーサン様はこちらに遊びにいらしたんですか?生憎、私達はこちらに遊びに来ているのではなく、お勉強を教えに来ているのです。もし、ご不満でしたらどうぞお帰りください。」
とニッコリ笑顔で言うと驚いていたけれど、『分かった。手伝う。』と引き受けて下さった。
「それからヨハネス様、一人でやるよりも幼馴染みで騎士を目指しているイーサン様が一緒の方が子供達の剣術の鍛練に良いと思うのです。人数が多いので二人で教えていただけたら私も嬉しいです。」
「シルが嬉しいと思ってくれるのならイーサンと一緒でも良い。」
ちょっと照れたように言うヨハネス様はシル呼びを決め込んだようだ。
私はヨハネス様呼びのままだけどね(笑)
皆に指示を出した私はヨハネス様が男の子達を担当してくれて半分の時間でお勉強が済むようになったので女の子達に刺繍を教えた。
女の子達は裁縫は出来るけれど、刺繍はしたことがなかった様でそれぞれお花のモチーフを自分のハンカチに刺繍するべく挑戦している。
「じゃあ各々、お勉強頑張ってください!アンドリュー殿下、イーサン様も宜しくお願いします。ヨハネス様もルーもいつも通りでお願いしますね。」
と開始を宣言する。
「なぁ、シルフィーってあんなキャラだった?」
「いや、大人しくて礼儀正しい子だったと思ってたけど…。」
「シルは曲がったところがない素敵な女性だけど、お前達は理解しなくていい。」
「姉様はいつも正しくて優しい自慢の姉ですよ。」
4人の会話が聞こえてきたけど、取り繕うのも面倒だし、ヨハネス様と同じように素で接することに決めた。
勿論言葉遣いとかは気を付けるけどね。
せっかく自分達からやってきた人手だもん。
使わない手はないでしょ?
まぁ結果としてこれはすごく良い方向にいったんだよね。
弟のいないアンドリュー殿下は自分より小さな子供と接するのが初めてで、ルーもヨハネス様に懐いているけれど兄というものに憧れがあるのか、アンドリュー殿下にもすっかり懐いていて、小さい子供達への絵本の読み聞かせがすごく捗ったみたい。
アンドリュー殿下が意外と面倒見が良いことも分かったし、子供達も喜んでいるから私も嬉しい。
ヨハネス様とイーサン様の男の子チームはいつもより多く剣術の稽古をつけてもらえて嬉しそうだったし、イーサン様も楽しそうにしていた。
ヨハネス様はたまに私の方をチラチラ見て、褒めて欲しそうにしていたから後で軽く労う位はしようと思う。
すごくスムーズにそれぞれの役割をこなすことが出来て私も大満足だ。
女の子達で食堂のテーブルに持ってきたパンを並べて、飲み物を用意する。
準備が出来たら小さい子も男の子も呼びに行く。
皆で揃っていただきますの挨拶をしてパンを食べる。
今日のパンは子供達の好きな揚げパン。
捻ったツイストの形のパンを揚げ網の上で発酵させてから油で揚げて砂糖を塗した物。
シンプルだけど、油で揚げている分カロリーが高く、育ち盛りの子供達にはもってこいのパンだ。
甘いのが苦手な子もいるから(決してヨハネス様の為ではない)揚げる代わりにオーブンで焼き上げて、溶かしバターをたっぷり塗って砕いたナッツを塗した物も用意した。
ベタベタするけれど、バターの風味がしてナッツとバターでカロリーも高めでオススメ。
アンドリュー殿下もイーサン様も普段しないことをしてお腹が空いていた様で、美味しそうに召し上がってくれた。
食べ終わったら皆で庭に出て外遊びだ。
定番のかくれんぼでは意外とアンドリュー殿下が見付けるのが上手で、すごく盛り上がった。
帰る時間になり、素直に感謝の気持ちを伝えるとアンドリュー殿下もイーサン様も照れたように微笑んで『また来る。』と仰っていた。
いやいやいや、今日は有難かったけどもう来なくて大丈夫だよ?
これだけ色々させておいてなんだけど、攻略対象達とはあんまり関わりたくない。
まだそんな歪んでないみたいだけど、この人達ヒロインと出会うと性格変わるし怖いんだよね。
それでも、もう来ないでくださいとは言えないから微笑で誤魔化す。
ヨハネス様はそれを見て「他の男に微笑むな!」って言ってた。
私が誰に微笑もうと勝手でしょうに。
孤児院の子供達にだってパン屋のお客さんにだって微笑むし!!
ギロッて睨んだら嬉しそうにしてて、安定の気持ち悪さだわ。
お読みいただいてありがとうございます!
明日も0時と10時の二回投稿したいと思います。
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