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湖の妖精(後)

ちょっと動物実験など残酷な表現があります。

苦手な方は次話の冒頭で結果をお伝えするので、読み飛ばしていただいても大丈夫です。



林の不法投棄の死骸は、隣の領地の薬品工場から運ばれてきていた。


動物実験を繰り返して、薬を作る。


前世でも昔から普通に行われてきたことは知っているけれど、動物が可愛そう…。


私も死骸を見た。

どれも恐怖や苦痛の表情で固まっていて、毛が抜けて皮膚が爛れているもの、腫瘍でもあるのか腹が異常に膨れたもの、痩せこけて骨と皮だけの様なもの。

どれも凄惨で非人道的な実験の犠牲者だということが分かる。


その工場は表向きは病気の為の薬を作って病院に卸している優良工場であったが、メイド長のメリッサの調べによると裏側では毒物の研究、実験を行っているということだった。


最初は死骸を焼却していたようだけど、量が増えて焼いている時に出る煙などから不審に思われることを懸念して、辺りに民家もなく普段人が寄り付くことのないカスクルート子爵領の湖に目を付けたらしい。


湖に放り込まなかったのは、死骸が浮いて目に付くのを恐れ、また後ろ暗いという気持ちから隠す為に林に穴を掘って埋めたのだろう。


隣の領地も関わってくることであるため、慎重に動く必要がある。


カスクルート子爵領の隣はフォッカチオ伯爵領。

荷馬車に死骸を積んで二時間程かけて不法投棄をしに来ている。


フォッカチオ伯爵領には複数の薬品工場があり、薬草を栽培したり、薬学を学ぶ為の施設もあり、伯爵自身も薬学に通じており、薬造りは領地の誇れる事業の一つだそうだ。


そのうちの一つの工場が今回の黒幕。


フォッカチオ伯爵に協力を仰ぐ必要がある。


フォッカチオ伯爵といえば次男が攻略対象である。

お茶会で一度顔は合わせているが、私との交流はない。

ブリオッシュ辺境伯とフォッカチオ伯爵は学生の時から仲が良く、ヨハネス様と次男であるイーサン様とは所謂幼馴染みの関係だそうだ。


ブリオッシュ辺境伯を捲き込むのは申し訳ないけれど、ヨハネス様のご厚意でフォッカチオ伯爵との会談の日程などが決まった。


私の父であるカスクルート子爵が調べあげ、一つの工場に辿り着いたことを告げる。


その工場には8年前、シュトレンという隣国から工場長の娘に婿入りしたバルトという男がいる。

そして数年前からバルトが工場長の跡を継ぎ切り盛りしていて、最近怪しい動物実験をしているようだった。

その実験を知るものは数少なく、後ろ暗いことをしているのは明白だ。


この不法投棄がまさかシュトレンまでが関わってくるとは思っていなかったけれど、ここまで来てしまったら諸悪の根元を潰すまでやるしかない。


思っていたより大事に発展して驚愕したけど、その毒物が何の目的で作られているのかも突き止める必要がある。


シュトレンの名前まで上がってしまった為、ヴァイツェンブロート国王に謁見の申し入れをしなければならなくなった。


事の発端は湖の妖精であったけれど、それを伏せ、たまたまピクニックで湖を訪れた際に林の中の異臭に気付き、たくさんの動物の死骸を見付けた為に不法投棄のことを調べていたことにした。


国王との謁見には第一王子殿下と第二王子であるアンドリュー殿下もいらっしゃった。

この謁見の間に攻略対象三人がいる。

(ヨハネス様、イーサン様、アンドリュー殿下)


関わりたくないけれど、今回ばかりは仕方がない。


詳細はお父様とフォッカチオ伯爵が、見付けた経緯などを私とヨハネス様が陳述した。


もし、シュトレンがヴァイツェンブロート国を陥れようと毒物の製造を企んでいるのなら戦が始まる可能性も視野に入れて慎重に事を進める必要がある。


私は昨日まで知らなかったのだけど、カスクルート子爵家は代々表向きは事業や商会などを多数手掛ける実業家だが裏の顔はヴァイツェンブロート国の諜報部の中枢を担っていたらしい。

この事実は王家の人間と国王の周りにいる宰相や軍のトップである司令官のみが知っていることで、国家機密である。


昨晩お父様からその話を聞いて、元アサシンのトンプソンさんや元間諜のメリッサがうちにいる理由を悟った。

二人とも()ではなく現役(・・)だったけど…。

これはお母様も知らない。

何故子爵家を継ぐ訳でもない私に話してくれたのかと言えば、今回の湖の妖精の様な事がこれからもあった場合に子爵家当主であるお父様を頼ることが出来るようにとの心遣いからだった。


国命により、シュトレンへの諜報の指示を頂きメリッサ率いる間諜部隊が秘密裏に動く。


結果は、シュトレンの侯爵がバルトに出資して毒物を作らせていた。


加虐嗜好のある侯爵は孤児や身寄りのない者を拐って地下室に閉じ込め、虐待などを繰り返していた。

毒物により長い時間苦しんでいく様子を見たいという欲が出て、当時侯爵家の使用人であったバルトに、ヴァイツェンブロート国のフォッカチオ伯爵領にある工場の一人娘に婿入りするよう命じた。


このバルトという男もまた加虐嗜好があり、侯爵と共に虐待を楽しんでいた為、喜んでその命令通りに隣国に婿入りした。


数年前工場長が病に倒れ、工場を引き継ぐようになったバルト。


調べると工場長に微量の神経毒を長年に渡り盛っていたことが明らかになった。


工場長は生きてはいるもののベッドから起き上がることも出来ず寝たきりである。


そしてバルトにより、長く苦しんで死に至る毒物の動物実験が始まった。


侯爵の加虐嗜好はシュトレンでも危険視されており、侯爵家の取り潰しの切っ掛けを探っていたらしく、シュトレンの国王からの許可も下りた。


戦に発展することがないことに安堵して、フォッカチオ伯爵を筆頭にバルトの工場を取り囲み、バルトを捕縛。


工場の地下にたくさんの実験動物達。

瀕死のものや、弱っているものなど、とにかく地獄のような光景がそこには広がっていた。


すぐに工場の稼働を止め、シュトレンの侯爵とバルトの繋がりを洗いだし、侯爵はシュトレンの軍隊に取り押さえられ侯爵家は取り潰しになった。

今までの残虐な行いを鑑みて一般公開で火炙りの刑に処された。


バルトもまたヴァイツェンブロート国で断頭台にて処刑された。


これで湖の不法投棄問題は解決を迎えた。


再び湖を訪れるとニコニコしたナンシーと小さい先代の面影のある新しい湖の妖精が迎えてくれた。


ちゃんと目覚めることが出来たらしく私の元にやってくると頬にキスをしてくれて、私は安堵から膝が崩れ落ちた。

それを付き添ってくれたヨハネス様が支えてくださった。


あまりにも凄惨で残忍な事件。

ここまで大事になるとも思っていなかったし、あんなことをして喜ぶ人間がいることに驚きを隠せない。


実験の犠牲になった動物達は、国王の派遣して下さった司教により祈りを捧げられ焼却された。


どうか安らかに眠れますように。





暗い話でしたね…。

次話は、またいつもの感じに戻ります。


お読みいただいてありがとうございます!

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