湖の妖精(中)
蓮の花の中を覗くとぼんやりとした光の中に小さな妖精が眠っていた。
この間孤児院で紹介された妖精よりも断然に小さい。
人間にしたら数ヶ月位の赤ちゃんのような風貌である。
大体は生まれて数時間~数日でこの間の孤児院の妖精のような幼児位の姿に育つ。
それなのにもう一月は経過しているにも関わらず赤ちゃんのままなのだ。
人間にに当てはめると発育不全。
妖精はどこから栄養を摂るか。
ナンシーは自然からのエネルギーで生きていると言っていた。
ということはこの妖精の担当地域であるこの湖周辺にエネルギーを阻害するような何かがあるのかもしれない。
ナンシーに妖精の赤ちゃんに触れてもいいか訊ね、許可を得たので抱き上げた。
といっても本当に手のひらにのせても小さい位で、うっかり湖に落としてしまっては大変なので、慎重に手のひらで包むようにして抱き寄せる。
ヨハネス様も心配そうに見ている。
ナンシーが妖精の赤ちゃんの額に口付けるように言ってきた。
それが何の為になるのかは分からなかったけれど、言われた通りにする。
ヨハネス様の顔が一瞬強ばったが、そんなの知った事ではない。
私が口付けると不思議なことにこの湖の先代の妖精が私達の前に現れた。
亡くなった妖精が現れたことに私もナンシーも驚いたが、先代の湖の妖精はあまり長くは具現化できないからと用件を手短に教えてくれた。
ヨハネス様もトンプソンさんも妖精の言葉は聞こえない(トンプソンさんには見えてもいない)ので私が通訳をする。
この湖の周辺にある林にどうやら不法投棄をしている者がいるらしい。
それは薬品などで殺された動物の死骸。
土に還すにも汚染物質が土壌に残ってこのままではいずれ湖まで汚染されてしまうということらしい。
湖が汚染されてしまえば、この周辺の生態系にも影響が出る。
それを先代は嘆いたまま亡くなった。
そう言うと先代は消えていった。
新しく生まれた湖の妖精が育たず目覚めないのは先代の憂いが深く関わっているらしい。
それにしてもうちの領地で不法投棄なんて、やってくれるじゃない!
一刻も早く不法投棄された死骸を見付けて犯人を特定しなければならない。
この妖精の赤ちゃんは長くてもあと1ヶ月が山場らしく、それまでに私達は犯人を探さなければならない。
今日その不法投棄された死骸を回収したとしても、犯人が捕まらない限り、同じことが繰り返されるだろう。
先代の憂いが晴れなければこの土地は死を迎える。
赤ちゃんの妖精を持っていたハンカチで包んで、蓮の花の中に戻した。
やるべきことは決まった。
今日は周辺を散策して、屋敷に戻り次第お父様に報告して対策しなければならない。
不法投棄された死骸の回収や捜査にはヨハネス様も協力してくださることになったので、心強かった。
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