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湖の妖精(前)

前中後編に分かれます。

単刀直入に言うと、今私はルーとヨハネス様と湖にいる。


何故そんなところにいるのかと言うと、話せば長いんだけど…。


いつものようにヨハネス様との交流で試作のパンを食べながらお茶をしていたら、普段は他の人がいるときには話し掛けてくることがないナンシー(妖精女王ね)が焦ったように話しかけてきた。


ルーには見えないし、声も聞こえないからナンシーが一方的に喋る分には何にも問題はないのだけれど、ヨハネス様には姿が見えるらしいので、ナンシーが私に何か話し掛けている様子は分かるらしい。


ヨハネス様は部屋の中にいる侍女達を下がらせてから私に妖精は何と言っているのかを訊ねてきた。


ナンシーもヨハネスに様は姿が見えていることに気付いているので、嫌なそぶりは見せておらず(見えないマリアンナにはすごく好意的だし)私と交流を持つようになってから人間にも興味が出て来たらしい。


基本この世界では妖精が見える人は少ないし、ましてや話したりコミュニケーションを取ったり出来るのは神様の能力(チート)がある私だけだから、お互いに意識したことがないというか無関心だったらしい。


妖精は自然界に存在するもので、その土地を豊かにする。

人間が余程の自然破壊をしない限りは大きな災害などもおこらない。


反対に妖精が住むことが出来ないような環境になった場合は土は痩せ細り、農作物は育たなくなり、干ばつや全てを流す豪雨などの自然災害に見舞われる。


ほとんどの人間には妖精は見えないから、そんな時は何故そうなったのかが分からなかったりしていたらしい。

たまたま見えた人が妖精が怒っていたと言っていて、妖精を怒らせるとその土地は死ぬという見聞が広がった。


もし、私が妖精と交流を持てることが表沙汰になれば確実に魔の手がのびてくる。

良くても国に囲われる。


その為にもこの能力(チート)は他者にはバレてはならない。

私の平穏の為にもね。


妖精女王のナンシーの加護のお陰で、妖精からの愛されチートもあるし私を人質にして妖精に力を使わせようとする奴が出てきたらヤバい。


でも今日はナンシーに連れられて湖に来ている。


ここはカスクルート子爵領にある小さな湖。

周りには森と呼ぶには小さい林のような物がある位で民家もなくとても静かな場所だ。


お茶会をしている時にやってきたナンシーは慌てていた。

新しく生まれた妖精が目覚めないらしい。

私が行ったところで何が出来る訳でもなかったけれど、一緒に来て欲しいとのことだった。


その日はもう夕方近かった為、翌日湖に向かうことになった。

そしたらヨハネス様も行くって言うから(連れていかなきゃ皆に言うって脅し付き) 仕方なく同行させることに。

領地とはいえ8才と6才の子供だけで行かせる訳にはいかないので、馬車の御者として私の能力を知る数少ない使用人の中から庭師のトンプソンさん(実は元アサシンらしく腕が立つ)が付き添ってくれることになった。

そして女性が子供とはいえ私だけなのは何かあった時に対処に困るとメイド長のメリッサ(元間諜(うかみ))が着いてきてくれた。

何故子爵家にこんな訳あり凄腕の人材がいるのかは分からないけれど、二人ともお父様に見初められてうちで働くことになったらしい。

あとはヨハネス様の従者が一人。

ケントという名の彼は私の事情を知らないので湖にはピクニックに行くと思っている。


湖までは馬車で3時間といったところで、着いたら軽く軽食をとれるように、ベーグルサンドイッチを用意した。


ベーグルはリングの形に成型して、少しだけ発酵させたらハチミツを入れた熱湯にさっと数秒潜らせて発酵を止めてから焼く。

そうすると中がモッチリとした色艶の良いほんのりハチミツの風味のするベーグルが出来上がる。

熱湯に潜らせても中までは火が通らないから、焼くまで時間を空けてしまっては中の発酵が進み結局ふんわりとしたパンになってしまうので、すぐに焼くのがオススメ。


表面に軽くオリーブオイルを塗ってゴマをたっぷり着けて焼き上げたベーグルに、レタスとトマトと厚切りのハムを挟んだ。

ハムに結構塩気があるから味付けはシンプルでオリゴさん特製のマヨネーズを少しベーグルに塗っただけ。


遊びに行く訳ではないけれど、お昼が楽しみで仕方がない。


湖に着くと、ナンシーは早く妖精の元に案内したそうだったけれど、人間は食事からエネルギーを得ていることも分かっているので大人しく私の肩に座って私達が食べ終わるのを待ってくれていた。


メリッサが用意してくれた紅茶をいただきながら湖の(ほとり)で食事。

まるでピクニックのようだ。


妖精は自然からエネルギーを摂取しているからあえて食べ物を口にする必要はないのだけれど、私が作るパンには興味があるみたいで、いつもお裾分けしている。

それでも体がすごく小さいから、一欠片(ひとかけら)だけしか食べられないけれどこの間のクリームパンのカスタードはお気に召したようだった。

今日はベーグルだからナンシーには少し固いかも?と思いつつ、一つまみの生地で具を挟んでミニチュアなサンドイッチを作ってナンシーに渡した。

ナンシーは喜んでそれを受けとるとニコニコ可愛らしく微笑みながら食べた。

それを見たヨハネス様も心なしか笑顔で、私もほっこりとした気持ちになった。


ベーグルサンドイッチは我ながらとってもよく出来ていて、ルーもヨハネス様も気に入ってくれたらしく、いずれカフェを併設したパン屋をオープンする時にメニューに加えようと思った。


食事も終わり、ナンシーに連れられて湖の畔までやってきた。


湖の真ん中にある小さな(はす)のような花がぼんやりと光っている。


あの中に生まれたばかりの妖精がいるらしい。

畔に止めてあるボートで湖の真ん中まで行く。


ボートにはトンプソンさんと私とヨハネス様が乗った。

ルーは妖精が見えないし、危ないからメリッサとケントと一緒に畔で待つ。

ルーはケントに遊んで貰って気を引いて私達が妖精と関わっていることがバレない様にする役目がある。

ルーだけでは心許ないからメリッサもいる。


ボートをトンプソンさんが漕いでくれているので、その間にまたナンシーから色々と話を聞く。


この湖の妖精が先月亡くなったらしい。

それは自然に還ることなので、悲しいことでもなんでもないのだけれどその後に新しくこの湖に生まれた妖精がもうすぐ一月(ひとつき)になるというのに目覚めないから心配で仕方がないそうだ。

大体の妖精は生まれて数時間~数日で目を覚ますのだけれど、二週間、三週間経っても目覚めない為、私に一緒に様子を見て欲しいそうだ。


かなり昔に同じように目覚めなかった妖精がいて、二月(ふたつき)程経ったある日に消滅したらしい。

そして妖精を失った土地は枯れ果てて、人どころか他の生き物も一切生きられないような地獄のような土地に変わり果てた。


自然の摂理としては仕方ないことだと思うし、ナンシーも気にしない様にしていたそうだけど、困った者がいれば他者の為に手を差しのべる人間という生き物を、私と関わるようになってから知り、自分も仲間を救えるなら救いたいと思ったようだ。


勿論そんな優しい人間ばかりじゃないことも知っているけれど、仲間を大切にする心を妖精の間にも広めていきたいと言っている。

基本的にはその土地から妖精は離れることが出来ないから他の妖精とコミュニケーションをとることは叶わないけれど、妖精女王であるナンシーが呼び掛ければ集まることは出来るらしい。


そしてボートは湖の真ん中に着いた。

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