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何で言っちゃうかな?

いつも通りに厨房でシェフとパン作りをしていると、来客の知らせがあった。


相手はヨハネス=ブリオッシュ辺境伯子息で攻略対象者。

カスクルート子爵家に何の用が?

私には関係なくない?

そう思って作業を続けようとしたら、私にも会ってみたいって言われたらしい。

えっ面倒くさい!

マリアンナに近付ける前に私も積極的にはお近づきになりたくないし。

ぶつくさ言っていたらオリゴさんに行ってこいって言われちゃった。

流石に家格が上のお貴族様に言われたら行かない訳にもいかないしね。


あっ、オリゴさんていうのは私と一緒にパン作りしてくれてるシェフのこと!

筋骨隆々で爽やかなイケオジ。

三十代半ばって言ってたかな。


ごちゃごちゃ言ってても仕方ないから、ため息を吐いてオリゴさんに後は任せて、急いで身支度を整える為に自室に戻った。

だって急だったからパン作りで汚れても良いような格好してたし、流石にこんなエプロン姿のままお客様の前に出られないわ。


今はお父様と弟のルーカスが対応してくれているらしい。

急いで着替えてお客様の待つ応接室へと向かう。


中にはお父様しかいなくて、ルーとヨハネス様の姿がなかった。

街のレストランで美味しいパンと乳脂肪で出来ているらしいバターを食べて、調べたらカスクルート家の名前が出てきた。

カスクルート家の新しい事業に興味を持ち、たまたま近くを通ったから、急ではあったけど挨拶に寄らせて貰ったということらしい。


それだったらお父様だけで良くない?


そう口に出しかけるが、お父様が続ける。


カスクルート家には自分と年の近い子供がいると聞いて、いずれ学校で会うこともあるだろうから話をしてみたいと言っていて、ルーと私も呼ばれることになったんだって。


それで今はルーが庭を案内してるから、私も庭に行くように言われた。


外に出ると綺麗に手入れされた薔薇の生垣の前にルーとヨハネス様を見掛けた。


声を掛けようとして聞こえてきたのが、

『ボクの姉上がバターもパンも考えたんです!自慢の姉上です!』

ってルーが得意気に話してる声。


うわぁ~!

何で言っちゃうかな?

私が関与しているのは内緒って言ってたじゃん!

大きなため息が出る。


それに気付いた二人が私の方を振り返る。

得意気に満面の笑みを浮かべたルーカス。

少し驚いた様子でこちらを伺うイケメン、ヨハネス様。


失礼な態度をとる訳にもいかないから、淑女らしく挨拶をした。


「遅くなってしまい申し訳ございません。お初にお目にかかります、カスクルート子爵家長女シルフィーヌでございます。」

頭を下げると、


「そんなに畏まらないで欲しい。顔を上げてくれ。」

と言われて顔を上げる。


まだ7才だというのに、落ち着いた雰囲気の美少年が私に近付いてきた。


「ブリオッシュ辺境伯の長男ヨハネスだ。シルフィーヌ嬢とは歳も同じようだし、仲良くして欲しい。」

握手を求められ思わず手を握る。


知り合いたくなかったんだから仲良くもしなくていいのに~!

心の中でさっさと帰れ!って悪態を吐いているけど、帰る様子は勿論なくてパンやバターの話になった。


色々聞かれたけど、たまたまやってみたら出来ただけですって全部のらりくらりかわす。

ルーが何か言おうとしてたけど、無言の圧力で黙らせる。

ルーには後でお仕置きが必要ね。


しばらく庭でお話をしているとメイドがお茶の用意が出来たと呼びに来たので、室内に移動した。


ナンシーが少し離れたところで楽しそうに手を振っている。

何か大変そうだけど頑張って~って言いたそうな顔。


本当に早く帰って欲しいよぉ。


先程の応接室に焼き上がったばかりのバターロールが置いてあった。

オリゴさんが気を効かせて出してくれたのだろう。

さっき二人で作っていた試作のパン。

部屋にバターの香ばしい香りが広がっている。


「こちらはシェフが作った新作のパンです。宜しかったら温かいうちに召し上がってください。」


「ありがとう。早速いただくとするよ。」


「これってさっき姉様が捏ねてたパンですよね?」


はぁあ?

だから何で言っちゃうかなぁ…。


「このパンはシルフィーヌ嬢が作った物なのか?」


「えぇ、興味があったのでシェフのお手伝いをしてみました。」

何とか平静を装いつつ答える。

そこでまたルー爆弾。


「お手伝いって、シェフが姉様のお手伝いしてるんじゃないですか。」


あちゃー…。

ルー、あんたって子は…。

まだ5才だから仕方ないかもしれないけど、喋りすぎ!!


落ち着いた様子でパンを口にしていたヨハネス様が

「こんなに美味しいパンを作ることが出来るシルフィーヌ嬢はすごい人なのだな。」

と感心したように言葉を発する。


何故かルーが得意気にしている。

後で覚えてらっしゃい?


「何故、これだけ素晴らしい事業なのに大々的にシルフィーヌ嬢の名前を出さないんだ?」


ヨハネス様が鋭く訊ねる。


隠し事をしてもきっとバレてしまう。

このヨハネス様という人は洞察力も素晴らしい方だ。

変に誤魔化すのは得策じゃない。

それにここには余計なことを喋ってしまうルーもいる。

必要最低限に正直に話す他ない。


「ブリオッシュ様」


「同じ歳だし、ヨハネスで良い。」


「では失礼して、ヨハネス様。」


「何だい?シルフィーヌ嬢。」


「確かに私が柔らかいパンやバターを作りました。しかし、私はまだ7才です。こんな幼い者が作ったと大々的に言ってしまえば、変に注目を集め、善からぬ者に目をつけられかねません。それを危惧したお父様のお考えに則って、カスクルート家の事業としました。」


「だがそれだとシルフィーヌ嬢は損をするのではないか?」


「いいえ、表向きはカスクルート家の事業としていますが、この事業での収益の権利は私にあります。なので、ご心配には及びません。」


「では、シルフィーヌ嬢が大人に言いくるめられて搾取されている訳ではないのだね?」


「ええ勿論です。お父様は子爵ではありますが立派な経営者です。自分の利益の為に他の者から搾取しようなどというお考えはございません。」


お父様を買い被ったヨハネス様に対して、怒りを滲ませて否定すると慌てたように


「君のお父上のことを疑った訳ではないんだ。不躾な言い方をして申し訳なかった。」

と頭を下げるヨハネス様。


そこまで怒っていた訳ではなかったので、


「お顔をあげてください、ヨハネス様。私は怒ってなどいませんよ。ヨハネス様の仰りたいことも分かりますから。」


「しかし…。」


「ですから、この事業に於いて私の名前は伏せています。勿論、パンのレシピに私が関与していることは家族とシェフであるオリゴだけが知っていることです。他のパン職人達はシェフの弟子として門外不出という契約で働いて貰っています。バターについても、手伝って貰った領地の酪農家の一部の者しか知りません。」


「私も知ってしまった訳だが。」


「はい。ルーカスがお喋りで本当に困ってしまいます。」

ニッコリ笑ってルーを見つめる。


「姉様!!ご、ごめんなさい!ボク、内緒って言われてたのに…」

慌てて泣き出しそうになるルー。


「ルー、まだ5才だもの。仕方ないわ。でも、その件に関しては後でゆっくりお話しましょう。」

再びニッコリ微笑むと、ルーはごめんなさい!と叫んで部屋を出ていった。


「大変失礼致しました。そういった訳ですので、この事業に於いて、私の名前を伏せていることはどうかご内密にお願いします。」


「分かった。しかし、これだけの秘密だ。見返りが欲しい。」


は?見返り?

勝手に来た癖に何弱味握ったみたいになってるの?


あまりの衝撃に言葉をなくしていると、


「見返りと言っても、新作のパンが出来たら試食をさせて欲しいっていうだけだけどね。」

イタズラっぽく美しく微笑みながら言う。


ゲームではもっと冷たい微笑みしか見たことなくて驚く。

親密になったヒロインと迎えたエンディングでやっと見れるかどうかの微笑み。

子供の頃は出来てたんだ?

あまりの美しさにポカンとしてしまう。


「シルフィーヌ嬢、ダメかな?」


名前を呼ばれて我に返り、慌てて了承する。


「良かった。君のお父上にも言ったんだけど、街のレストランで出てきたパンとバターを食べてからすっかりあのパンの虜になってしまったんだ。」


子供らしい表情で語るヨハネス様は何だかんだ7才なんだなと思うと、私の警戒心も少しだけ弛む。


「また新しいパンの試作が出来ましたら、お声をかけさせていただきますね。」


「ありがとう。」


バターロールをお土産に持たせると、ヨハネス様は機嫌良さそうに帰っていった。


そんなに悪い奴じゃないかも?

あぁ、でもダメ。

マリアンナには近付けないようにしなきゃ!


まずはルーにお説教だわ!


この時の私はまさかあんなことになるなんて思いもしなかった。

お読みいただいてありがとうございます。

本日も2回投稿します。8時に上がりますので宜しくお願いします。

また平日は1日1回0時投稿になります。

ストックが出来たら週末だけ2回投稿するかもです。

あくまでもするかもですが。


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