死因は田んぼに転落死ですか!?
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私には前世の記憶がある。
前世の私はデパートのパン屋さんでパンを作る職人だった。
定期的に行われるセールでは始発終電などザラなブラックな生活。
翌日が休みだということで、深夜までやっているお店で食料を買い込み、帰路につく為終電に乗り込む。
毎日始発生活でクタクタな私の休日はひたすら寝て終わる。
そのため、簡単に食べられる食品は大変重宝がする。
ロングライフな物は本当にありがたい。
冷蔵庫の中に遥か昔に賞味期限の切れた食べ物だった物を見付けた時は落ち込む。
食べ物を無駄にしてはいけないと小さな頃から母に言われていたから。
話が逸れてしまったけれど、この日もいつものように終電に乗って一人暮らしのアパートのある駅に着いたところまでは覚えている。
いつの間に寝たのか。
目覚めるとそこは自分の部屋ではなかった。
ここは?
フカフカな大きめの布団から身を起こす。
キョロキョロと辺りを見回す。
天葢付きのベッドのカーテンは閉められていて、ベッドの外の様子が分からない。
そっとカーテンの隙間に手を差し入れて開けてみると、シンプルだけれど上品な家具が誂えられたヨーロッパ風の豪華な部屋だった。
本当にここはどこなの?
駅に着いてからいつものように深夜で人通りの少ない道をアパートに向かって自転車を漕いでいて…。
そうだ!
なんか急に目の前をイタチ?タヌキ?とにかく何か生き物が横切って、慌てて避けて…。
避けた先が田んぼの溝で『ヤバイ!』と思ったところで記憶が途切れてる。
そして目覚めたらここ。
もしかして、田んぼの溝に突っ込んで死んだの?
恥ずかし過ぎる!
自転車で溝に転落なんて…。
最悪だ…。
今日は休みだけど、明日はまた朝から仕事なのに。
小さい店舗だから店長と社員一人で後はパートさんだけで回している。
基本、朝の作業は私一人で出勤してすぐに窯の電源を入れてから急いでコックコートに着替えて、朝一で焼けるようにタイマーで発酵を調整しているパンの様子を見たり、大きなミキサーに当日仕込みの食パンの材料を入れて回したり、合間に前日仕込みの冷蔵生地を使ってその日のパンの成型をしたりと、とても忙しい。
朝一で窯の電源を入れなければ、前日に成型して良いタイミングで発酵を終えるパンを焼けない。
発酵させるための温度と湿度を調整された機械から出しておいても、どんどん発酵が進む為に過発酵になり膨らまなかったり、甘味が少なくなって風味の悪い美味しくないパンになってしまう。
それに、食パンだって生地をすぐに仕込まないと決まった時間に焼き上がらない!
どうしよう…。
お店に連絡しないと…。
売り場のパートさんが出勤してきてびっくりしちゃうよ。
厨房真っ暗だし、焼き上がったパンが一つもないんだもん。
店長もパートさんと同じくらいの時間に出勤してくるから、そこから急いで色々とやるんだろうけど、窯は温まってないしホイロのパンは過発酵できっとペチャンコになってる。
地獄だ。
どうしようどうしよう。
私がその場にしゃがみこんで頭を抱えて唸っていると、目の前にフワッとした白い光の玉が現れた。
えっ!お化け!?
驚いて尻餅をつく。
するとその光の玉は人の形に変わった。
掌に乗るほどのサイズで、おかっぱの金髪に青い目の美青年の姿で、前世で観た映画の某動く城の準主役の美青年にとてもよく似ている。
見惚れていると美青年がため息をついて、呆れたように口を開いた。
「もしかしてキミが今心配しているのって、急に知らないところにいるってことよりも、職場のパンのことなの?」
信じられない物を見るような目を向けられる。
いや、あなたは誰なのよ?
ここどこ?
というか、パンの心配するでしょ!私が朝一で行かなかったらお店開けられないんだから!
まるで心を読んでいるかのように美青年は苦笑しながら続ける。
「私はこの世界の神のような存在で、ここはキミが居た世界ではなくて所謂異世界。それにしてもまだパン屋のことを気にしてるんだね。」
自分でもブラック企業の社畜の自覚はある。
それでもパン達に罪はないし、最高のタイミングで釜に入れて焼き上げてあげたい。
せめて私が行けないことが、早いうちに店長に伝われば、朝一でロスになってしまうパン達が助かるのだ。
「あはは…!キミは本当に面白いね!大丈夫だよ。キミが田んぼの溝に落っこちて死んだことは翌日の朝には店長に伝わってるから、休み明けの人員とか他店舗にヘルプを頼んだりして対応してるみたいだよ。」
ホッとした。
それなら良かった。私がいなくても大丈夫なのね。
安心したら急に目の前の美青年が言っている異世界という言葉が気になった。
「えっ!?異世界?」
「やっと現実に気付いた?」
一体どうなっちゃうの~!?