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 魔法陣が刻まれてからフィオナはずっと息苦しさと体の重さを感じ体調が悪かった。だからと言って泣きごとも言っていられず、授業を受ける合間にはナーラのまとめた資料をもとに様々な本を読みあさり続けていた。

 辞書を片手に海外の本を読んでいると、あまりメジャーではないが現代魔法にも召喚術が存在することを知り。その方法を試してみたいと召喚魔術の先生に話をしにいくと、教授と先生がそのことについて話し合いフィオナにその方法で召喚を試させようと考えていたところだったのだ。

 勝手に見捨てられたように思っていたフィオナだったが教師陣側もいろいろと考えてくれていたようで、フィオナはまた深く感謝したのだった。

「それでは、こちらを持って。運命石の代わりに魔素を魔力に変換し増幅するための杖よ。貴方の運命石ではあまりうまくいかないようだから、これがその代りになるわ」

 先生がごてごてと装飾された杖を差し出す。それを受け取り、呪文を唱える。現代魔法は古代魔法と違い様々な儀式的要素を排除し簡略化し、世界神と取り決められた新たな法によって現象を起こすものらしい。

「サモン――スピリット」

 呪文を起点に周囲の魔素と体内の魔力が絡み合い引き出される。足元に魔方陣が広がり、杖から増幅された魔力が注ぎ込また。呪文をトリガーに魔力が必要分だけ充てんされると魔法が起動する。それが、現代魔法だ。込められた効果は一律で、魔力をどれだけ込めようと、供物をどれだけ捧げようと変わらない。

 光がおさまるとその場には手の平大の小さな精霊が浮いていた。意思をもつかどうかというほどのサイズだ。

「あら、おかしいわね。中級精くらいはよべるはずなのに」

「でもまあ、呼べたと言えば呼べたので……取り敢えず精霊契約を、名を与えなさい」

 意思を持たない準下級精と意思を持ち始める下級精の間くらいの大きさのそれに先生が首を傾げるよこで、教授が結果を紙に書き止めながら頷く。

「はい。貴方の名は――ラクラン」

 パッと光ってふよふよと漂う、どうやらフィオナの授けた名前を受け入れたらしい。契約することで、契約者との間にパスが繋がり意思の疎通が可能になるはずなのだが、その意思があまりにも弱くてフィオナはその意思を拾い上げるのに難儀した。妖精たちとのやり取りの方が楽なくらいだ。

「どうかね」

 教授の言葉にフィオナは頷く。

「意思は薄いですが、受け入れてくれたようです」

「召喚方法は違いますが、貴方の契約精霊であることには変わり有りません。これであなたも次に進むことができますね」

 フィオナの言葉に先生がほっと安堵の息をついていた。どうやらフィオナが何度試しても精霊が呼べなかったことで酷く心労をかけていたようだ。

「ただ、運命石の召喚とは違うので今後も授業内容に差しさわりがあるかもしれません。ですが、いつかあなたの運命石の精霊が答えてくれた時に困らないようにきちんと覚えておいてくださいね」

 先生と教授の言葉にフィオナは頷き、それからラクランをみやる。ぼーっとしたような、何かを考えているようないないような、そんな曖昧な意思しか感じられないがやっと契約で来た精霊であることにはかわりない。

「精進いたします」

 フィオナは満面の笑みで頷いた。

「貴方の召喚方法が他の生徒と違うことをわざわざ喧伝する必要はありません」

 先生はツンっと澄ました顔をしてフィオナをチラリと見た。

「内緒にしておきなさい、ということですよ」

 こそりと教授が耳打ちしてくれたのでフィオナは二人の顔を見比べ頷いた。フィオナの事を思っての言葉なのだろう。

「最近の貴方はずっとうわの空で、授業をきいているのかいないのか分からないありさまでしたからね」

「もうしわけございません」

 体調の悪さから顔を伏せることが多かったのだが、壇上に立つ先生からはそう見えていたのだろう。

「顔色も悪い様子ですが、体調管理もできないなど貴族としての心がけが足りないのでは」

「シファラ君のことを思っての言葉だとは思いますが、もう少し柔らかかく。貴方の言葉は伝わりづらい」

 騒ぎを起こして施された魔法陣によって体調が悪いのも、色々な出来事で気が病んで食事が余り喉を通らないのも、調べ事で寝不足なのも、他者にとっては関係ないことだ。フィオナは申し訳なくて、頭を上げられなかった。

「手を見せなさい」

「はい」

 手に刻まれた魔法陣に視線を落とす。

「精霊忌避の守ね。皆は言い伝え程度にしか思っていないようですけど、シファラさんは精霊の血筋でしょう。なにか良くない影響があるのでは?」

「……確かに、刻まれてから両腕が重くて息苦しい感じが……」

「ふむ、あまり体質にあっていないようだね。精霊も呼べたことだし、君も落ち着いただろう。解呪してもよいのでは? 私が薬学の教授に伝えておこう」

 結局精霊がいないから妖精を引き連れていたと勘違いされているらしいが、実情がどうであれ周囲からみたら結果的にはそう見えるのも仕方ないとフィオナは訂正せずに頷いた。

 教授がフィオナに両手を差し出すように指示し手の平を上にして持ち上げると、手の上に粉をふりかける。

「これは私の特性ブレンド供物だ」

 キラキラと光る粉のなかには色とりどりの星の欠片のようなモノが混ざっている。

「彼の者に刻まれし印を払いたまえ」

 ふわりと浮き上がった魔法陣がドロリととけるように消えていく。同時に両手の重さがウソのように消え、息苦しさもなくなった。

「ありがとうぞんじます」

 ほっとフィオナが息をついて見せると、二人は満足そうにうなずいた。

「教授は古代魔法にも長けているのですね」

「うむ、現代魔法にも解呪の呪文がいくつかあるが、どれが効くか調べてからでないと施せなかったからね。古代魔法はほんの少し手間がかかるが、引き起こす効果をいくらでも調節できるところが良い」

「疲労が残っているのでしょう、まだ顔色が優れませんからね。貴方は寮に戻って休みなさい」

 ややぶっきらぼうにも聞こえる先生の言葉だが、その優しさが分かるようになってきたフィオナはありがたくその申し入れを受け入れ。寮へと帰っていった。

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