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 一つの寮につき十数人程度、七つの寮があるので新入生は百人に満たない。

 そのうちの半数が貴族籍ではない子供だ。商家などの裕福な子供は貴族との縁を結んだり、箔付け、或は跡継ぎ以外の子供が将来のためにこの学院に学びにくる。

 寮の振り分けも殆どおわり、壇上には数人の生徒だけが残っていた。

 一人の少女が進み出て魔道具にさっと手をかざした瞬間、視界がホワイトアウトした。あちこちで生徒の悲鳴が上がるが、フィオナは瞬間的にポケットから飴を取り出し床にばらまいた。

「――光陰よ、敵意より我らを守る障壁となれ」

 右胸に付けたブローチの石に触れながら祈りを捧げれば、闇と光の精が一瞬のうちに障壁を構築する。壁は広範囲に広がるが、供物は低位のものなのでそれほど強い障壁ではない。数度強い当身を当てられただけでも壊れてしまうだろう。

 しかし、一瞬の間があれば体勢を立て直せる。手にした扇を握りしめ腕を大きく振るう、シャンと音を立てて薄い金属の爪が現れる。鋭利だが、深い痛手を負わせることはできない。だが、多少の護身にはなる。

 フィオナはそばに居たナーラを守るように、立ち周囲に素早く視線を走らせる。ドゥーナ寮は貴族の子が多いようで数人の子は戦闘態勢を取り、フィオナがナーラを守るように、蹲ったり、逃げようとしたり、動けないでいる子供たちを庇っている。何故なら彼女たちは平民だから。

 本来なら一番に守られなければならない立場のキランも新入生を守るように戦闘に立ち、フィオナが張った障壁よりも強度の有りそうな壁を作りだしていた。

「みなさん、敵襲ではございません」

 穏やかな声が壇上から聞こえて、さっとそちらに視線を走らせれば教員とともにひとりの少女が不思議そうな顔をして壇上を見下ろしていた。

「彼女の魔力が魔道具と干渉しすぎたようです」

「あの、驚かせてしまってすみませんでした」

 少女は慌てたように頭を下げた。なんらかのトラブルであれば、少女のせいではない。フィオナ達もほっとしたように魔法を解き、他の人に見咎められる前にと扇を元の状態に戻した。

「あの、あり、がとうございます」

 小さい声で呟かれた言葉、ナーラは手を腰元で指先同士をもじもじとこすり合わせ恥ずかしそうに俯いている。固く握り込まれないならそれでいいとフィオナは笑った。

「驚いてしまいましたね。何事もなくて安心いたしましたわ」

 ちょっとしたひと悶着はあったが、寮の振り分けも無事に終わったようだ。

 壇上にいた少女は何事もなかったかのように階段を降り、所属寮の場所へと向かっていく。ズンズンと近づいてくるその様子をみてフィオナは、賑やかで華やかな少女だなと思うのだった。

「ドゥーナ寮になりました! エトナ・ミラ・タレットです! よろしくお願いします!!」

 ガバッと頭を下げて、勢いよく頭を戻す。にこっと満面の笑みはとても可愛らしい。

「元気でいいね。監督生のキラン・レアード・ノス・ディアファラだ。ドゥーナ寮にようこそ、それでは寮のマントを」

 タリーがマントを持って進み出て、エトナの肩にかける。そして、自己紹介を交わし、キランの後ろに戻っていく。男の子ならキランが、女の子ならタリーがマントを授けるようだ。

 挨拶を促されて、エトナが一人一人に挨拶していく。一番端のほうにいたフィオナとナーラのもとにもやってきて先ほどと同じように元気よく頭を下げて名乗りあげた。

 フィオナの記憶が確かならば、タレット准男爵家は王都に住む法服貴族だ。まだ叙爵されて一代目の新興貴族のはずだ。

「初めまして、タレット様。私はフィオナ・ロッホ・シファラと申します。どうぞよろしくお願いいたします」

「わた、わたしはナーラ・オドランと申します。よろしくお願いいたします」

 フィオナがゆったりと腰を落とす礼をすると横にいたナーラも見よう見まねという様子でフィオナと同じように礼を返す。

「では、皆さま、このキースモア学院で存分に学び、己の運命を導く糧としてください。これで入学式を終わります」

 最後に学院長の締めくくる言葉があり、新入生は監督生に連れられて寮に向かうことになった。

「改めて、私がドゥーナ寮の現監督生、六年生のキラン・レアード・ノス・ディアファラだ。新入生の諸君、ようこそキースモア王立学院へ。寮の振り分けは、適正属性のうち最も高い属性に分けられる。ここドゥーナ寮は光属性だ。もっとも、この適正属性というものは計測時点での目安でしかないので学院在学中に変わることもある。魔法属性の研究の一つに適正属性による性格診断の分類があり、分類グループごとに分けた……いや、この話をしだすと長くなってしまうからまた今度」

 失礼、と笑ったキランは、タリーに指示を出し新入生を男女の二列に分けると、後方に座る父兄たちに向かって一礼し、エノイル式場の出口へと歩き出した。

 フィオナはドゥーナ寮に振り分けられた新入生たちのなかでは一番高位になるので先頭だ。それから貴族籍の子、平民の子と並んでいる。

「すでに知っているはずだとは思うが、ここがエノイル式場の転移陣だ。エノイル式場は今日のような入学式などの式典や講演会、発表会などで使用される。この周辺は使用目的に特化した建物が多い。コンサートホールやダンスホールなどの施設、転移陣の傍には必ず学院内の地図と、転移するために必要な名称が乗っている。ほかに図書館や室内運動場、闘技場。屋外運動場であれば、転移陣を使用しなくても歩いて移動できる範囲にある」

 転移陣の傍に立ったキランが地図の描かれたボードを指さす。

「この左端の建物は幼稚舎と大学院。この真ん中が私たちが通常授業で使用する学生棟、専門教科棟、こちらの温室は授業でも使用される。こっちは研究用の温室なので関係ない生徒は立ち入らないように。正門に向かって敷地の一番奥に各寮が並んでいる。私たちのドゥーナ寮はこの右端だ。私たちはこれからドゥーナ寮に転移する。寮が振り分けられた時点で君たちの荷物は既に運び込まれているはずだ。使用人がいる家であれば、部屋を整えてくれているだろう。いない場合は寮母がそれぞれ振り分けて整えてくれる」

 キランの指示でドゥーナ寮の新入生が転移陣に移動し、全員が魔法陣の上に乗ったのを確認してキランは素早く「ドゥーナ、ポート」と起動呪文を唱えた。

 一瞬のうちに景色が変わり、キランが素早く転移陣から移動するように指示する。

 全員が座って話が聞けるようにとキランは食堂へと案内する。その道中で、転移陣は右端を使用し、左端を空けるように説明する。

 左端は基本的に出口専用としているのだが、新入生が入ったばかりのこの時期は、それを忘れたり悪戯で左端を使用して、移動して来たばかりの人を巻き込んで転移してしまう事故が多発する。

「ここは食堂だ。朝と夜は基本的にはここで食事をとることになる。基本的には何時でも解放されているので、グループ勉強などをここで行うこともできる。玄関と転移陣のあるホールの目の前にあったのが談話室だ。談話室右手側の扉が学習室、個人学習用の机がある。左手側が遊戯室だ。玄関の左手側の階段を上ると男子棟、右手側の階段の先が女子棟になっている。どちらも異性は立ち入り禁止だ、見つかったら退学処分なので間違えないように。部屋は後ほど案内されるので、基本施設の説明だけしておく」

 キランによる施設説明が終わると男女ともに部屋に案内されることになり、男子がキランによって連れていかれた。残された女子のほうには一人の女性がやってきて指示をだす。

「私はこのドゥーナ寮の寮母クラハと申します。これから皆さんのお部屋に案内いたします」

 フィオナ達は先導するクラハについて食堂をでて、玄関ホールに戻る。右手側の階段をぞろぞろと上がっていく。

「監督生の説明にはございませんでしたが、この階段には魔術式が組み込まれておりまして、そもそも異性は上がれないようになっておりますので。皆さまご安心くださいね。もちろん、あちら側も同じですから間違っても階段に上らないようお気を付けください」

 四人ほどが並んで歩けるくらいの広さの廊下には消音のための絨毯が引かれている。少し歩いていくと両側に扉が並ぶ。無垢材の扉が五つずつあるが、それだけだ。

「この建物自体が魔術式によってつくられていますので、皆様の学生証を本人がこの魔法陣に当てることで扉の先に部屋が現れるようになっています。転移陣と同じく右側を使用ください。左側は出口用となっております。まずはフィオナ様から」

 名指しされたフィオナが進みでて、ドアノブの横の手のひらサイズの魔方陣に学生証を当てる。扉が一瞬で様変わりする。落ち着きのある深い赤で塗られた扉に金の細工、細やかな細工の施されたドアノブが現れる。

「このように扉が変わりましたら、ドアノブを空けて中へとお入りください。あとは中に説明書とうございますのでそちらをお読みください。分からないことがあれば呼び出しベルを使用していただければ、ご案内いたします」

 部屋のなかは他の方に見えないようになっているのでご安心くださいとクラハはフィオナに案内し、残りの扉へ生徒を案内していく。

 その場を占領しては他の生徒に迷惑なのでフィオナは扉を開けて中へと足を踏み入れた。

「お待ちしておりましたお嬢様。どうぞ、中へ。そのままですと他の方が使用できません」

 カラとアンナの言葉にフィオナは中へと入っていく。カラが扉を閉めるのを後ろに聞きながら、アンナの案内にしたがって居間にあるソファに腰掛けた。

「ルーアンの寮とはずいぶんと違うのね」

「あちらは学生証などをもたない仮の生徒を案内するための場所があるようですよ。生徒とも顔を合わせないように別の入り口が用意されているようです」

 用意されたお茶で唇を潤わせてから、フィオナは机の上に差し出された説明書を手に取る。

「こちらが居間で、左手側の扉が寝室、寝室には浴室もついております。右手側が使用人用の扉です。他に必要な部屋があれば、申請することで増設していただけるようですがどういたしますか?」

「貴方たちの部屋もそれぞれあるのでしょう? それならば部屋なんてそんなに沢山必要ないわ」

 寮内の主要施設の説明書をぺらぺらとめくって読んでいると、扉の近くからリンリンとベルのなる音がした。すぐさまアンナが扉に向かい対応する。

「お嬢様、お茶会の招待状が届きました」

 一通の封筒を手にアンナが戻ってくる。差し出された封筒からふわりと花の香りが漂う。フィオナは読んでいた説明書を机に置き、アンナの差し出す手紙を受け取る。

 それはこの後予定されているお茶会とは別の招待状だった。送り主はオアラ・リュサイ・ディアファラ、この国の第一王女の名前だ。

「王女殿下からだわ。出席のお返事をするから、なにか贈り物を見つくろってちょうだい」

 お茶会の手土産とは別に、出席の返事とともに贈るものを考えるため、アンナが机の上に広げるのは辺境伯領から持ってきた品々だ。

「王女殿下の好みが分からないわね。触媒はあまり好まれないかしら……」

 辺境伯領から持ち込んだものと言えば魔法の供物や触媒に使われる品々が多い。妖精の涙、月夜草の朝露、地底湖の星屑。

 学院の通常授業では現代魔法をならうので、魔法学科の選択科目である古代魔法以外ではあまり使い道がない。

「でしたらこちらはどうでしょうか、あまり長さはありませんがこの織物であれば胸飾りなどを作ることができます」

「そうね、これがいいわ。触媒にも使えるし、身の回りの品にも使っていただけるわ」

 妖精繭の絹布。薄く織った布は、淡く光る。希少なモノなので、衣服を誂えるには足りないが、小さなコサージュなどを作るにはいいだろう。

 出席の返事を書き手紙を封蝋でとめると、選んだ絹布とともにオアラに贈るように頼む。

「では、お嬢様、本日のお茶会のために身支度を」

「制服での参加でよいのでしたね。では、髪を整えましょうか」

 カラたちに頭を整えられて、フィオナはぐっと気合を入れ直す。

「どうか、失敗だけはしませんように」

 入学式でナーラに贈った勇気の魔法をフィオナは自分にほどこす。

 冷たい視線に負けないように、同情を装った嘲りの言葉に負けないように。強い心でいられるように、精霊に願い――運命の石に手を当てる。

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