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結局、現代魔法学では古代魔法を使用してラクランが一時的に宿れる石を作成し、簡易宿り石とすることで解決した。
それからは特に問題が起こることもなくフィオナも他の生徒と殆ど変わりなく授業を真面目に受け。ナーラを始めとして幾人かの生徒と打ち解け、やがて友人となることもできた。お茶会にも誘われるし、フィオナも辺境伯爵家の娘として必要なだけお茶会を主催すれば、あからさまに遠巻きにされることも減った。
突然、フィオナは手を引かれるようにして人気内の無いところに連れ込まれた。ある程度の護身術の心得があるフィオナは反射的に手を掴む腕をねじりあげようとして、その相手が同じ寮のエトナであることに気が付いて動きを止めた。
「……タレット様?」
「フィオナさん、すこしお時間いいですか?」
「え、ええ」
もう少し穏やかに声をかけてくれれば普通にいくらでも対応したのにと苦笑しつつ、頷く。
「あの、二年生の実技の話なのですけど。本当に女子も全員受けなくてはならないんですか? フィオナさんくらいの上位貴族であれば免除とか……」
今年の二年のうちに重傷を負って病院に運び込まれ生死の境をさまよっているという話を聞いたためかエトナは来年の実戦教練が恐ろしくなってしまったのだろう。
「私も当然受けますわ。私の家は辺境伯領、国境を守る家ですから……学院に来る前から魔獣などを相手に実戦をしておりました」
「ええ、そうだったんですか。えっと、じゃあ、なにか授業が免除されたりっていう話を知ってたりは? ほら、私って光属性の適性がずば抜けて高いじゃない? 聖女枠とか!!」
「聖女枠、ですか? そういうものがあるとはお聞きしたことがありませんね。平民であれば受けないこともできますが、貴族籍の返上は考えておられないでしょう?」
「あたりまえ!」
噛みつくようなエトナの様子にフィオナは驚きつつも言葉を続ける。
「であれば、受けるしかないかと。それに、戦うと言っても色々な力がありますよね? 前線で戦う以外でも後方支援などがありますし、魔道具などの作成も十分に戦う力ですわ。実戦教練で組む方と話し合ってどうするかを決めればよいかと思いますわ。例えば回復や補助、浄化などを行うなど」
「なんだ! あるんじゃない! 聖女枠!!」
ぱっと表情を明るくしたエトナの言葉にフィオナがなるほどと頷く。
「後方支援のことをおっしゃっていたのですね」
聖女枠とは聞き慣れないと思っていたが、エトナのなかでは回復などを行う後方支援の人間を指す言葉だったのだろう。
「……ねえ、実戦教練って全部の学年の合同になるのよね?」
「ええ、そうですわ」
「なら、私がキラン様と組むことも……?」
「それは出来ませんわ」
「なんで!? やっぱり、王族だから免除されるとか? それとも、婚約者だからって」
「殿下は今年六年生、来年は卒業か……大学院へ進まれるかするでしょうから」
「あ、そう、だったわね」
失念していたという様子で恥ずかしそうに顔を赤らめたエトナにフィオナはそれと、と声をかける。
「私は婚約者候補、婚約者ではございません」
「でも、婚約者候補のなかではほぼあなたに決まってるだろうって聞いたわ」
「家柄だけの話ですわ。それに運命の石が伴侶を選んだ場合、殿下はおそらくその通りにするでしょうから。いまの婚約者候補とは、本当に候補に過ぎないのです」
「運命の石が、伴侶を、選ぶ?」
「ええ、王族の運命の石はこれまでほとんどの場合伴侶を導いてきました。おそらくはキラン殿下もそうなるであろうと」
運命の石が伴侶を選ぶと言っても王族の運命の石に限られたことではなく、王族以外にも伴侶を導く運命の石はある。王族の場合はそれがほぼ必ずあり、また余程の理由がなければその伴侶を選ぶ。その余程の理由に該当した場合に婚約者候補のなかから伴侶が選ばれることがあると言うだけの肩書に過ぎない。
「……あの、キラン様の周辺に宰相の息子とか、騎士団長の息子とか、魔導士長の息子とか。もしくは天才魔導士とか呼ばれる人とか、第二王子とか……」
「殿下の側近となるかたであれば同学年とその下の学年に数人いらっしゃったかと。現在の三年生にフィン殿下がおられます」
話がつかめないとフィオナは首を傾げる。
「どっちが王太子なの?」
「キラン殿下は既にノスの名を頂いておりますが正式にはまだ立太子しておられません。運命の石が示されればその時に立太子される予定ですわ」
「そう、ありがと」
もういいわっとあっさりフィオナを解放してエトナは去っていく、ブツブツと何事かを呟いているがフィオナには聞き取れなかった。




