005. 至元の塔の管理者
序章はこれにて終了となります。
ここまでは本当に物語を書く練習として書いていました。
そんな物でも楽しんで頂けていれば幸いです。
誤字脱字、文法誤用などありましたら御指摘をお願いします。
白く柔らかな髪を撫で付けながら泣き止むまで好きにさせよう。
決していい匂いがするとか可愛い女の子だからとかではない。
これはひとえに、俺がナイスガイだからだ。ナイスガイなんだ。
ナイスガイを演じるんだ。
おっさんが柔和とはちょっと違う、何か面白い物を見つけたという顔をしている。
あまり撫でない方が良いのかも知れないな。
しかしこの手触りを知ってしまってはもう後戻りは出来ない。至福だ。
「あ~、あのですね。その~、俺も焦ってたからヘステバン様をおっさんと呼んでしまい、あ~。すみませんでした。だから見ていないで助けてくれませんか?」
「いえいえ、私にはどうすることも出来ませんよ。私とミューヌ様では身分が違いますゆえね」
なるほど。そういう逃げ方があるのか。覚えておこう。
冗談はさて置き、おっさんは相当偉い人ぽかったが、どうやらこの少女の方が偉いみたいだな。
流れで頭撫でちゃってるけど大丈夫だよな。不敬罪とかならんよね。
「ふむ。しかし、そうですな。このままでは埒が明きますまい。ご助力すると致しますかな。さて、ミューヌ様。使徒様が困っておいでです。そろそろ落ち着かれませよ」
使徒?
今、俺を見ながら使徒って言ったよな?
使徒ってあれでしょ?
なんか神とかから使命を帯びていたり、やること為すこと全てが神の行い的な?
ん? なんか引っ掛かりがあるな?
なんかそこに有りそうなのに手を伸ばすと、遠ざかっていくような感覚と言えばいいのか。
いや、あれだ。すごく濃い霧の中を車で走る感覚だ。
ちょっと先に車が走っているのに薄っすらとしかテールライトが見えない感じ。
車ってなんだ? ん、ちょっと待って。
これは俺の記憶か?
知らない。知らないはずなのに。
俺は車を知っている。
何が起こっている?
「そうですね……。ですがヘステバン様。もう少し……。もう少しだけこのままにさせて下さい」
「ふむ。だそうです。使徒様」
未だに少女は俺の腕の中に抱かれ続けている。
くぐもった声になっているが、元の声が可愛いとくぐもったとしても可愛い。
可愛いは正義って本当なんだな。
可愛いは正義。その言葉もこの世界では存在しなかったはずだ。
俺に何が起こっている。
おっさんと少女には悪いが俺は自分の置かれている状況が分からない。
こういう状態を混乱の極致というのだろうか。
未来。いや過去だろうか。
違う。そんな物ではない。
俺ではない誰かの記憶だ。
でも俺は自然と《それ》を俺自身の記憶だと思える。
「仕方ありませんな。私でご説明出来得る限りになりますが構いませんかな?」
「え? あぁ、えぇ、お願いします」
「では、どこから説明しますかな…………。
そうですな。まず今は新節暦六○七年の明月となっており、世界から《賢人》が姿を一斉に消してから六○七年が過ぎたということを意味します。
恐らくは使徒様は《賢人》という言葉を知らぬかと思われますが、これは使徒様と同様の方たちとなっております。この意味は説明せずとも良いですかな?
ふむ……。なるほど、そうですな……。謂わば《賢人》とは我ら無辜の民とは違い、別なる存在であり、敬意と畏怖の象徴とも呼べる存在でありますな。
使徒様がお姿を隠される際に予言の碑を残されておりますれば、そこに『五百の年が過ぎる頃、世界は変容の時を迎える』と記されておったのです。
そして最後に『耐え凌いでくれ。私が帰る、その時まで』と刻まれていたのです」
「ちょっ、ちょっと待ってください。話についていけないのですが、その~、新節暦ですか? その前は何だったのですか? 西暦ですか?」
「創世歴ですよ、マスター。お忘れになられているようですね」
やっと落ち着いたのかミューヌと呼ばれる女の子はやや泣き腫らした顔になっていたが、その弱ったような困り顔が可憐な雰囲気を余計に強めていた。
「ヘステバン様、申し訳ありませんでした。後は私が説明します」
「いえ、ミューヌ様。お気持ちは分かりますゆえ。それに私は使徒様に繋がりを持てたことを感謝しておりますのでな」
おっさんはそう宣いながらも、我が子を慈しむような顔でミューヌを見ていた。
頼む。どちらでも良い。
俺に、俺の置かれている状況を教えてくれ。
「もう、ヘステバン様ったら。さすがは商人ですね。
ではマスター、この時を以て至元の塔の管理者代理の任を完遂したとご報告致します。
至元の塔の管理者であり《創造》を司りし御身のお戻りに心より感謝を。
これからも私どもに深き慈愛を。悪しき者どもに、いと深き眠りを。
現在、人族および亜人族は連合を組み、魔人族との戦争状態にあります。
全てを守れず申し訳ありませんが至元の塔周辺だけは死守しています」
あぁ~。うん。状況が全然読み込めないね。
でも創世歴って言えばTWOで使われていた暦だったはず。
その歴が終わり新節歴が始まった。そして六百年くらい過ぎていると。
確かにTWOの世界がそのまま続いているみたいだ。
そして魔人族とその他の種族が戦争状態だと言っている。
魔人族。
前作においてエンドコンテンツであるクエストは達成率三パーセントというそれはそれは凶悪な物だった。
それはひとえに相手が魔人族の精鋭だったからだ。
あの種族は幾度もの拡張コンテンツ実装を経ても、プレイ可能種族に含まれることがなく、絶対的な悪として世界に君臨していた。
それこそ俺と同じ《壱拾》を持つ友人たちでさえ、単独での撃破は困難だったのだから、バランスブレイカー的NPC群だった。
そして俺はなんで《それ》を知っているのに、受け入れがたいと感じるんだろう。
すごく気持ちが悪い。吐き気がする。
ひどい頭痛もしてきた気がする。
目もチカチカしてきた。
俺は確かに俺だ。
なのに《誰》かが俺という存在に他人の記憶を植え付けたような、そんな違和感が拭えない。
不快な感覚がべったりとこびり付いている。
「マスター、失礼致します」
頬を朱にほんのりと染めながら俺の額にその華奢な手を置いてきた。
最悪な気分だが、《彼女》の手はひんやりとして気持ちいい。
――――汝、世界の意思 《ヘルマ》 に導かれし時、世に平和をもたらさん
なにやら魔法のような詠唱をしはじめたミューヌ。
彼女の瞳の色と同様に暖かく心地よい光が俺の額に触れている彼女の手から拡がって行く。
次第に馬車の中が光に満たされていく。
程なくして今度は俺の身体の中から熱い塊のような物が這い上がってくる。
心地よい光とは裏腹に、熱からは不快感が身体中を虫が蹂躙していくように広がっていく。
光が収まる頃、その熱に俺の身体全体が覆われていた。
そして俺は全てを思い出した。
全てを。
私のミューヌに対するイメージですが、
とっても色白で病弱そうに見えるけど、
たまに見せる、強い意志の籠もった眼を持つ女の子です。
きっと彼女が自分で決めたことは何があっても曲げることはないでしょう。
好きなことと真っ直ぐに向き合う人って素敵ですよね。
そんなイメージで彼女が出来上がったのですが、
きっとその強さは当分先まで出てきません。。。ごめんなさい。
先の展開のプロットは上がっているのですが、
まだまだ肉付けが間に合っておらず。。。
というわけで、以上で序章が終了となります。
今後は第一章をストック分が枯渇するまでは
継続して投稿していきます。
私が尊敬し、敬愛している作家様、作品に追いつけるよう、
出来る限り物語が面白く読めるように練り上げているつもりです。
何卒、ご理解とご声援を賜ることが出来ればと思います。 ... 2020/05/08 記
※ 2020/05/09 漢字のミスを修正。壱十→壱拾