第8話 初めての納屋生活
俺は城塞都市エリッヒの、
アフマンさんの宿屋に向かっている。
パジャマの上着を売った代金から、
宿代を先に引いて貰ったからな。
宿と言っても、男禁止の宿屋の納屋らしいが、
常識も土地勘も欠ける俺には、
大分安心できる場所だと思う。
俺は城門の検査をパスし、
アフマンさんの荷物を抱えて、
城門から続く主要道路を、
宿屋まで案内して貰っている。
俺はスキル、支配(対称性)を使って、
荷物達の動きの内、
地面に向かう速度を減らしたので、
ちょっとバランスが難しいけど、
楽に運べる様になった。
最初からこうすれば良かったな!
主要道路と言っても、歩道などは無く、
人間が端を歩き、真ん中は馬車が行き交っている。
地面は踏み固めているだけでは無く、
所々石材が使われている。
まぁ、馬車が走る部分だけだが。
この道は都市の中央方向に続いているが、
都市の中央側、そこにはもう一つ城壁が見える。
所謂、貴族街があるんだろう。
道路に面した左右の一階は、
お店が入っている事が多い。
鞄屋、靴屋、香水屋、鉄製道具屋、木製道具屋などなど。
一際大きく赤い壁が目立つ建物には、
奴隷屋と書かれている。
稼いだら、真っ先に行く所だな!!
……えっと、普通に日本語で、
看板に文字が書いてあるって理解で良いのか?
まぁ、夢だし深くは考えないでおこう。
エリッヒの城壁とその貴族街と思しき城壁、
その中間より貴族街側にある横道に入って行く。
幅は主要道路よりは狭いが、
それでも馬車が通れる程有る。
その横道の主要道路から数えて二軒目が、
アフマンさんの宿屋らしい。
かなりの好立地じゃなかろうか。
「ここだよ!
さぁ、入ってくれ、なくていいから、
荷物は入口に置いておいて。
これ片付けたら案内するから、
ちょっと待っててよ。」
「分かりました。
よろしくお願いします。」
慌ただしく、アフマンさんは宿屋に入って行く。
帰って来たら、早速仕事らしい。
道路に雨水が流れる様な溝が無いからか、
建物自体が地面より、段差二段分程高い。
これは、雨が降ると道路が酷い事になりそうだ。
まぁ、俺はその一段目の段差に座っているんだが。
「お待たせ!
さぁ、納屋はこっちだよ。」
馬車が1台、2台、、と数えていると、
アフマンさんが戻ってきた。
オーバーオールみたいな服装に、
エプロンを着けている。
更に、肘までの長さがある、
白っぽい長手袋付きだ。
「はい!」
「食事は二食とも付いているから、
持っていかせるよ。
寝床はないから、毛布でなんとかして頂戴。
あとは……トイレ用の壺も必要だね――」
アフマンさんから宿屋の説明や、
納屋に泊まる際の注意などを聞いていく。
主要道路から五軒目の横に、
人がすれ違える程度の幅の道があり、
進んでいくと、この周囲の建物の裏手に出た。
釣瓶井戸と数軒の木製納屋などが並んでいる。
井戸は大きく、
俺でも落ちそうな程の直径を有している。
その井戸の周囲に、
腰程度の高さの衝立があるのは、
水浴び用の目隠しだろうか。
すげー見えそう!
「先に言っておくけど、変な事したら、
うちの冒険者だけじゃなくて、
衛兵にも追われるからね?」
つい衝立を凝視してしまった。
男なんだから、仕方ないだろ?
「気を付けます。
でも、見えちゃった物は仕方ないのでは?」
不可抗力って言葉もあるし!
「うちのお客さんは部屋で済ますから、
私みたいなおばさんばっかりだけどね。」
なんだってー!?
俺のウハウハ生活がっ!
若い裸体がー!!
「アッハッハ。
そんなに落ち込まなくっても、
いいじゃないか。
ほら、この納屋だよ。
あとは自由に使いな。
食事の用意が出来たら、
持って来るからさ。」
「……分かりました。
お世話になります。」
納屋の中には、道具が色々と置いてあった。
まぁ、物置みたいな物だしな。
天井も壁もあって、地面も木張りになっている。
うん、寝床には十分だ。
ちょっと寒いけどね。
毛布くれるって言っていたし、
大丈夫大丈夫。