第6話 領主について
俺はパジャマの上着を売る事で、
安心して泊まれそうな宿屋と、
通行税の元手を手に入れる事が出来た。
夢の中だってのに、
一々細かい事させやがって!
「ありがとうございます。
待たせてしまう事になるかもしれませんが、
宿屋まで付いて行ってもイイですか?」
寧ろ、場所を聞いても、
辿り着けるか怪しい。
「荷物、持ってくれるならいいよ?」
うん、そうなりますよね。
寧ろそれ込みの交渉だったと思う。
「もちろん、お手伝いさせて頂きます!」
「はいはい。
それで、あんた何処から来たんだい?」
げっ!
この質問、どう答えればいいんだ?
記憶喪失なんて、余計に怪しまれそうだし、
「此処から遠い所」なんて言っても、
出身地を明かせない訳ありだと思われるだけだ。
「東京からです。」
天の川銀河、太陽系第三惑星地球、
G7に数えられる日本の東京から来ました。
まぁ、そんな説明しても意味不明だろうがな!
「トウキョウ?
聞いた事ないけど、この辺の村かい?」
村って……人口1億人超えていますよ?
世界3位の経済大国ですよ!?
「お姉さんが知らないなら、
あまり目立つ村じゃなかったんですかね?
私は結構良い村だと思っていたんですが。」
ここは一つ、気まずい事を言ったと思って貰おう。
こっちの思惑もバレそうだけど。
「そうなの?
私も宿屋やってるから、
結構村には詳しいはずなんだけどねぇ。
ごめんね、知らなくて。」
「いえ、自分が住んでいる村が一番って、
思う物なのかもしれません。」
「アッハッハ。
そりゃ、誰だってそうだよ。
嫌いな処に住み続ける酔狂は少ないさ。」
中世ファンタジーだと、
移動の制限がある事が多いけど。
仕事を変える事だって難しい場合が多いのに、
俺の夢だし、俺が面倒で省いたんだな、きっと。
まぁ、このおばさんの意見だ。
貴族の服の値段を知っている辺り、
それなりに金持ちっぽい。
「この街の事、教えて貰っても良いですか?」
列は順調に消化され、城門が近付いてきている。
それでも、多少の時間がありそうだったので、
街中を歩く前に、おばさんに聞いてみる。
門自体は、鈍色に光る金属で補強された、
木製の落とし格子が二枚付いている。
城門の外側と内側にな。
その間の通路には、木製の小屋があり、
門番が利用しているらしい。
ちゃんと一人ずつ、手荷物まで確認しており、
何かを隠して持ち込む事は難しそうだ。
「街、街、って言ってるけど、
ちゃんと都市って言いなよ?
城塞都市 エリッヒ。
それがこの都市の名前だよ。
もしかして、違う都市を目指してたのかい?」
起きたら都市の近くに居ただけです!
まぁ、寝ている間に、
野獣に食べられたりしなくて、
ほんと良かったよ。
「いえ、辿り着けて良かったです。」
「そうかい。
ご領主様はファーズイン・エリッヒ伯爵で、
此処と北にある城塞都市、
フェーズヒを治められているよ。
大事な事は、ご領主様は、
フェーズヒの北にある大森林の、
モンスター狩りで名を馳せた、元冒険者ってこと。
先代の嫡男なんだから、
そんな事しなくてもいいのにね!」
笑顔で話しているし、自慢の領主かな?
兎も角、モンスターがいるらしい!
冒険者ギルドとかはあるのかな?
俺つえー、やってみたい!!
まぁ、モンスター狩りで生計を立てるなら、
この都市より、
フェーズヒに行った方がいいんだろうけど。
因みに、北方向の道は今居る街道だ。
太陽が地球と同じく南側を廻っていればだが。
「おばさんは、
今日はフェーズヒからの帰りですか?」
城門が一つだけ、という事は考えにくいから。
普通に考えれば、その北の都市からの帰りだろう。
「昨日の朝出て、
昼には着くからそれから買い出しして、
一泊して今帰りだよ。
この辺りでも、珍しい物が一杯取れるからねー。
それを宿屋で高値で売るわけ。」
移動に徒歩で半日……人が居ると、
さっきの支配(対称性)を使った移動が使えないし、
俺が行く事は無さそうだな、うん。