『再会』
はじめまして、さ〜んと申します。
どうぞお付き合いください。
『約束、だよ』
幼い頃の、他愛のない小さな約束。
―――うん、約束。
精一杯何でもないように答えて。
『絶対、だからね』
本当は自分も泣き出したいほどだったけれど。
―――うん、絶対。
でも、この子の前では強くありたかったから。
『本当の、本当?』
だから、また精一杯涙をこらえて、震えながらも手を握り返す。
―――うん、本当。
片やボロボロと大泣きしながら、片や必死に涙をこらえながら。
『それじゃあ……また、ね』
―――それじゃあ……また。
そんな、とても小さな、幼い約束。
○○○○○○○○○○
「……っはっ」
目を開くと、自分の部屋の天井が視界に取り込まれる。
目ヤニと、滲んでいた涙を拭うと、より鮮明に光景が目に映る。
「夢……か……」
知らずまたも滲んできていた涙を拭いきると、ついさっきまで見ていた夢が徐々に記憶から薄れていく感覚を覚えた。
何か小さな、けれどとても大切な事を忘れていくような気がして、不安を感じるが―――
「また……あの時の……」
―――不安はただ感じるままであり、その先の、夢の場面で言えばその前の事が、いつも思い出せないでいた。
あの時、確かに二人で約束を交わした。
だが、どんな約束をしたかまでが、思い出せないのである。
頻繁というほどではないが、いつも印象に残る夢について、今朝も結局答えはでないままで、またいつものように、着替えを済ませた頃には頭のどこかに追いやられていた。
『お兄ちゃん、朝ごはんできてるよー』
ドア越しに、妹のそんな呼び掛けが聞こえて、二、三返事をしてから、部屋を後にする。
「おはよう周」
「おはよう母さん。めぐりも」
「うん、おはよう、お兄ちゃん」
身支度を終え、リビングに降りて挨拶を済ませると、テーブルの自分の席について、母親と妹とともに手を合わせ、朝食を食べ始めた。
「それじゃあ、いただきます」
「「いただきます」」
おかずのニンジンのソテーに箸を伸ばしながら、周はふと何気なく今朝の―――正確には今朝も、の―――夢について考えていた。
昔、小学三年生の頃の記憶だ。
周――あまね。
大切な人がたくさんいて、その大切な人達の近くにいて、いつも守れるように、とつけられた自分の名前だ。
そんな自分が小学生の頃、特に仲の良い友達がいた。
と言っても、友達のように仲の良い、というよりは、向こうが懐いてきて、いつも近くに居ただけ、という感じではあったのだが。
「今朝、夢で楓の事を思い出したよ」
中山楓。
幼稚園の頃からずっと同じクラスで、家も隣だったので、特に仲の良かった幼馴染だ。
先の通り、何かと向こうから懐いてきていたので、友達や幼馴染と言うよりは、もう一人の妹のような感覚だったが。
「楓お姉ちゃんの?」
「随分懐かしい名前ねぇ。六年前だっけ?」
居た、や、六年前、と言う通り、ちょうど六年程前に遠くに引っ越してしまって、今は離れ離れになっている。
早生まれなのもあってか、平均より低めの身長で、コロコロと表情の変わる子犬のような子だった。
尻尾がついていたら千切れんばかりに振っていたであろう可愛らしい姿が頭に浮かび、また懐かしくなって自然と顔がほころんだ。
母と妹も同じように思い出していたのか、懐かしそうに昔の話題に花を咲かせていた。
楓ちゃんはいつもくっついてたわねぇ、とか、一緒にお勉強したよね、とか、思い思いに話しながら朝食を食べすすめる。
三人ともが食べ終えて、お皿を片付ける頃には、話題はいつの間にか自分の高校入学の話になっていた。
「お兄ちゃんも明後日から高校生かー」
「早いものねぇ。でも、やっぱり周ならもうちょっと上の高校に行けたと思うけど」
母の言うとおり、自分は入学する高校のランクをそれなりに抑え目で志望していた。
それについて、担任や母から色々言われはしたが、通いやすさと、程良くレベルを抑えた方が馴染みやすいであろう、と押し通させてもらった。
「ま、地元の方が通いやすいし、だからといって勉強の手を抜くつもりはないから」
「周にその心配はしてないけど……」
ともあれ、明後日から自分は高校生である。
だから、と何かあるわけではないが、それでも高校入学はやはりどこか特別な感覚のするものである。
マンガやアニメのようなスペクタクルが起こることを期待する程子供ではないが、かと言って何も感じない程冷めているわけでもない。
期待七割・惰性二割・不安一割といった配分で、自分なりに高校生活を楽しみにしているのである。
「それじゃあ、部屋でのんびりしてるから」
「あ、お兄ちゃん勉強教えてー。私も中学生になるんだから、予習とかしときたいー」
「というか、僕の高校入学より、めぐりが中学生になる方が心配じゃないか?」
えーひどいー、と文句を言いながらついてくる妹と共に、階段を上って自分の部屋に戻るのだった。
○○○○○○○○○○
高校の入学式はつつがなく終わり、それぞれのクラスにまとめられて教室へと案内されていた。
担任の紹介や年間予定の配布など、事務的な通達を終えると、クラス三十二人の自己紹介をして今日を終えよう、ということになった。
出席番号順に左前端からそれぞれ軽く自己紹介をしているのを、自分の番が来るまでぼーっと眺めている。
趣味は釣りです、とか、生徒会長やってました、とか、そんな他愛のない内容を聴いていると、どうやら自分の左隣の席の女子の番になっていた。
「……っ?」
その女子に対して、言いようのない既視感を覚えていると、自己紹介が始まった。
「名前は―――」
まさか、とは思った。
記憶の頃とさほど変わらない面影で。
「――中山楓です」
当然だが名前が違うワケはなくて。
「ついこの前まで遠くに住んでたんですけど、高校に入るのに合わせて戻ってきました」
記憶の通りの事情で。
ふと、「中山楓」がこちらを見て、嬉しさがこみ上げたような笑顔になって。
「こっちの男の子とは、昔に随分仲良くしてもらってて。久しぶりに会えたから、良かったです」
驚いた顔をしたままの自分に、先程から変わらない、昔から変わらない笑顔を向けていた。
―――かくして、自分「吉岡周」の高校生活は、再開による驚きによって幕を開けた。
これくらいの文章量で、ボチボチと投稿していこうかと思います。




