表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/26

白紙の証明~3~

 それから10分くらいして、鈴本はもう一回化学準備室の方に行って、戻って来たらその手に企画書があって……。

「えっ」

「何故っ」

「あれー……?おかしいぞー……?」

 何故か、添削が入ってたんだよね……。




「準備室に先生が隠れてる、って訳じゃあないんだよね?薬品庫に先生詰まってたりする?」

「流石にその発想は気が狂ってるとしか言いようがないな」

 舞戸さんが準備室を確認しに行ったけれど、当然、そこに先生は居ないんだよなあ……。

「……ああ、これ、そういう……」

「やられましたね。これは」

 一方で、羽ヶ崎君とか社長はなんか分かったっぽい顔してるね。

 うん。僕も何となく分かったよ。というか、僕が一番分かって然るべきなんだよなあ。先生の手元を見てたのは僕だけだったんだから。

「これ、擦ると消えるボールペンで書かれてたってことかな?」

「ご名答」

 ……うん。先生、どうやらボールペンの交換の時に、使っちゃいけないペンを使ってたみたいなんだよなあ……。




「え?先生、書いた後に擦ったの?あ、事務室に行ってる間に擦った?」

「いや、擦ってはいないだろうな。部分的にならまだしも、実質企画書4枚分の添削を全て擦って消すのは難儀だろう」

 ちょっとだけ、先生が一生懸命文字を擦って消してるシーンを思い浮かべてみたけれど、うん。ないな……。ないない。

「擦らなくてもこれ、消えるんだっけ……?」

「ああ。消える。そもそも『擦る』という動作自体は、このペンのインクを退色させるのに必要無い」

 鈴本の言葉を聞いた舞戸さんが一生懸命、文字を見つめて、それから指で擦ったりして首を傾げてるんだけど……あ。ストーブに当て始めた。

 ……途端に、企画書の添削の文字は消えていきましたとさ。

「あっやべ消しちゃった」

「……お前、馬鹿なの?」

「メモしてから消せばよかった……」

「ほんとお前馬鹿なの?」

 ま、まあ、やっちゃったものはしょうがないよね。しょうがない、しょうがない……。


「冷凍したら戻ってきた」

「……分かってるとは思うが、何度も繰り返すと当然、色は戻ってこなくなるからな」

「うん。もう消さない」

 それから舞戸さん、薬品庫の冷凍庫に企画書を入れて、無事に文字を取り戻してきたよ。うん、よかったね……。

「そっか。このペンのインクって、あっためると消えて、冷やすと戻ってくるんだね。びっくりした」

 そう。このペン、『ボールペンなのに修正液無しに文字を消せる』っていうペンなんだよね。擦るとインクの色が消える、っていう。

 ……その仕組みとしては、『温めた時にインクの色が消える』っていうものだから、摩擦熱じゃなくても温めればインクは消えちゃうんだよね。ちなみに冷凍庫とかに入れて冷やすとインクの色は戻ってくるよ。薄くなってるけど。


「……あったまるタイミング、あった?」

 インクの色が消えた理由は『そういうペンだったから』なんだけれど、そのインクの色が消えるには、温める必要があるんだよね。

 擦らなくてもいいわけだけれど、加熱する必要はあったわけで、じゃあ、どこで加熱しちゃったのか、っていう話になるんだけれど……。

「ええと……先生がお腹で……こう?」

 先生も抱卵中の鳥みたいなことはしないと思うよ。うん。角三君の中で先生はニワトリか何かなのかな……?

「先生、体温高そうだし」

「そういう事を言うんじゃない」

 気持ちは分かる。すごく分かる。でも違うんだなあ。


「コピー機だ。恐らく先生は複数枚コピーで企画書をコピーしたんだろうな」

 多分、コピーする時に温まっちゃったんだと思うよ。

 こう、スキャナー面に乗せて1枚ずつコピーするならそうでもないんだろうけれど、複数枚一気にコピー機に突っ込んでガシャガシャやってコピーする機能を使うと、当然、コピーの原本はコピー機の内部を通る訳で、コピー機の内部って直前にコピーとかやってれば当然温まってる訳で……そこに熱で消えるインクで書いた物なんて通したら、インクの色が消えちゃう、ってことなんだね。

「ああ……そういう」

「そういうことだ。俺も以前、先生にやられた。このペンで書いた書き置きをストーブの上に乗せて行ってくださってな……」

 それ消える奴だねえ……。

「あ、俺、数学の稲村先生にやられたことありますわー。俺がそのボールペンで課題やって提出したら、そのプリントの裏に答え印刷してくれちゃって、俺の課題やった痕跡が全て消えてた」

「え、それ大丈夫だったの?」

「『申し訳ない』って鉛筆で書かれて返ってきましたわ」

 更に鳥海も実例報告してくれたよ。うん、稲村先生かぁ……。あの先生だと、きっとしょんぼりしながら返却してくれたんだろうなあ。うん。




「……ところでこのペンってなんとか有効活用できないもんかな」

「いや普通に有効活用できるでしょ!消したい所だけ擦って消せるペンって画期的じゃん!」

 舞戸さんがちょっとおかしくなってるぞ。うん、なんか一周回ってそういう気持ちになるのは分かるけど。分かるけど。でも本来の用途を見失っちゃ駄目だよ。

「直接書き込む問題集をこれで解いて、解き終わったらビニール袋とかに入れて湯煎するとか?だったら最初からノートとかにやれよって思うけど」

「あ、割と真っ当な使い方だ……」

 羽ヶ崎君から結構面白い意見が出たよ。でもまあ、本人が言っちゃってるけど、確かに直接書き込まずにやればいいよね……。

「推理小説に書き込みしながら書きたい人はこのペン使えば古本屋に売っても顰蹙を買わない!」

 舞戸さんからも変な意見が出たよ。いや、そういう人、いる……?推理小説に犯人が書いてあるのって、悪意を持ってやってる奴じゃないのかなあ……?

「俺からは契約書の類にこのインクで相手に不利な一文を追加しておいて、一度温めて文字を消したうえでサインさせ、その後冷凍庫に入れて文字を戻す、という使い方を提唱します」

「おい狂人ちょっとその狂気引っ込めろよ」

 社長は今日も元気だなあ。

「俺からは『可愛い女の子が憧れの野球部の先輩にこのペンで書いたラブレターを出すも炎天下のグラウンドに置いておいたせいでインクが消えてしまう』という悲劇を提唱します!」

「可哀相……」

 刈谷も今日も元気だなあ。

「あ、もしかしてこのペン丸ごとあっためたら透明なインクのペンができるんじゃね?面白いじゃん!」

「何のためにそんなペン作るんだよ」

 針生も今日も元気だなあ……。




 ……それからも『熱でインクの色が消えるペンの有効活用法』について話し合った僕らだけど、まあ、真っ当な使い方は出てこなかったよ。うん。

 まあ、真っ当な使い方は割と普通に思いついちゃうから、『有効活用』ってかんじしないよなあ……。

 とりあえず、社長はなろうと思えば犯罪者になれるんだなあって分かったよ。うん。




「とりあえず先生にはこのインクのペンは全て処分してもらおう!」

「それは流石にちょっと酷なんじゃ……?」

「処分はともかく、このペンで添削入れないようにお願いした方がいいですね」

「前科があるしな」

 鈴本が前、ストーブで消されちゃった書き置きってなんだったんだろうなあ……物によっては大惨事だし、うん、事故の再発防止は徹底してほしいなあ……。


「あ。俺いいこと思いついた!」

 先生への自己徹底防止策を考え始めた僕らに、針生がいきなり挙手して発言し始めたよ。

「次の先生のお誕生日祝い!熱で消えないインクのボールペンにしよう!」

 ……あー。

 うん。そうだね。それ、いいかもしれない。

 僕ら、お祝いとか何を贈っていいのか分かんないタイプだし。うん。いいじゃないか、ボールペン。多分、プレゼントしたら僕らがあげた奴使ってくれるんじゃないかなって気がするし。そうしたら熱で色が消えるボールペンは自然と使われなくなる。完璧じゃないかー。

「針生君よ。目上の人に文房具のプレゼントは失礼にあたるぞ」

「えっそうなん!?」

 えっそうなの!?

「『もっと勤勉であれ』という激励の意味になるらしいからな。筆記具は目上の者から目下の者に贈る、とされることが多いらしい」

 えー……良いと思ったんだけどなあ、ボールペン……。

「先生そういうの気にしなくね?」

「あー、先生も知らなかったりして」

「新築祝いに灰皿贈ったり結婚祝いに包丁贈ったりしたりして」

「流石にそれは無いでしょうが……」

 ……うん。でもまあ、やめておいた方が無難だよね。残念だなあ……良い案だと思ったんだけどなあ……。


+本日の記録+

先生を探し回ったよ。大変だったよ。

それから企画書も見てもらったんだけど、先生が熱で色が消えるペンを使って添削してくれて、しかもそれをコピー機に掛けちゃったせいで添削が一部消えるアクシデントが発生したよ。

添削自体は企画書を冷凍庫に入れたら文字が帰ってきてくれたからこのまま作業を進められそうだね。

先生には事故防止のために熱でインクが消えるペンの使用を自粛してほしいね。


*追記*

先生に「コピー機の熱で添削消えちゃって大変だったんですよー」って話したら「あちゃー気を付けるわー」っていう返事がもらえたよ。多分、今後は気を付けてくれるんじゃないかなあ。


*追記2*

そういえば先生にインクが消えないボールペンをプレゼントしようか、って話、あったけれど、あれ、必要無かったね。いつの間にか先生、僕らが使ってるのと同じ、大学の講義聞きに行った時に配られたボールペン使うようになってたね。

「だってお前らお揃いじゃない。僕だって使ったっていいでしょうよ」って言ってくれる先生はなんというか、良い人だなあって思ったよ。


*追記3*

駄目だったよ!ボールペン新しいの使うようになったのに駄目だったよ!先生、またインク消える奴使ってるよ!あったかいコーヒーのカップ置いたところだけ添削が消えてるよ!もう!

そりゃあそうだよね!手元に偶々それがあったら使っちゃうよね!特に先生、職員室にも化学研究室にも出没するんだからどっちかのデスクにそれ置いてあったら使っちゃうことだってあるよなあ!

やっぱりインクが消えるペンは処分してもらった方がいいのかなあ……?


あれ、いや、でも先生のことだから、もしかしたらインクが消えると分かっていて楽しんでやってるのかもしれないぞ……?

うん、なんかそんな気がしてきたぞ……?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 先生がいたずらしてるんじゃね?っていう発想になるような先生と生徒の関係よくない?なんか暖かい気がする。 [一言] 社長:確か消せるボールペンで書いた文章は正式な契約書として無効だとかなんか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ