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ピンク色の教科書~2~

 

「まず考えなくてはならないことは、犯人が何故、この本をゴミ捨て場に出したのか、ということでしょう」

 早速社長のターンになった。マジ助かるわー。

「え?そりゃ、普通に捨てたんじゃないの?」

「それは無いでしょう。先程言いましたが、もし段ボール箱の中身が改められて、こんなものがゴミ捨て場に捨てられているのを発見されたならば、一体誰が、ということになります。俺達でなくとも、このような本を大量に学校に持ち込んでいた罪状で裁かれたい人間は居ないでしょう」

 うーん、まあ、そうだよね。

 犯人が俺達生徒にしろ、万一教員とかにしろ、騒ぎになったらヤバいの間違いないんだし。

「そしてそこから、『捨てたのではない』と仮定するのならば。俺達の科学雑誌が消えている、ということを考えるに、犯人は俺達の科学雑誌と例の書物とをすり替えた、と考えられます」




 すり替えた、って考えるのが、妥当だよね、まあ。

 エロ本をゴミ捨て場に置いた人とエロ本じゃなくて科学雑誌持って行った誰かが別、ってのは、正直考えにくいし。

 普通に捨てたとも思いにくいし、そうなればまあ、意図的かはともかく、エロ本捨てた犯人が科学雑誌持とすり替えて持って行った、って考えらえるか。

「意図的に……はっ!俺達に濡れ衣を着せようとしてですね!」

「うーん、それはどうでしょうねえ」

 そして社長、ここで渋い顔。何やら推理がある様子だ!

「普通、ゴミ捨て場にある物を回収していく人が居るとは思いにくいですよね。俺達もうっかり出す段ボールを間違えたからこそ、ゴミ捨て場にある段ボールを回収してきた」

「あーそういやそうでした」

 まあ、ゴミ漁りする奴がそうそういるとも思えないっすわ。うん。俺はやらない。

「ということは、少なくとも犯人には、『科学雑誌』か『一度出したそういう本』かを持ち帰らなければならない理由があったことになります」

 そうだよね。うん。少なくとも誰かが科学雑誌の段ボールを持って帰ってる以上、犯人は持って帰らなきゃいけない理由があったって事になるよね。

「いくつか考えられますが……例えば、単純に科学雑誌が必要だった、という説もあるでしょう」

「いや、ないでしょ」

「うーん、普通に考えると、科学雑誌が欲しい人って、僕達以外にそうそう居ないと思うんだよなあ……」

 ……まあ、ね。社長も『無いだろうなー』って思いながら言ってると思うよ?うん。

「それから、エロ本をエロ本と思われずに捨てる為に、何かとすり替えて捨てた」

「あー」

「あー」

「成程、それなら分かる」

 こっちの説の方が有力じゃない?段ボール箱いっぱいのエロ本捨てるんだったら、こういう手段取ってもおかしくはないと思う。うん。

「……いや、だったらこんな回りくどいことしないでしょ」

 が、羽ヶ崎君からダメ出しが出た!

「カモフラージュの為に科学雑誌の段ボールとすり替える必要なんて無いでしょ。普通、ゴミ漁りする奴なんて居ないんだし。大体、漁られること危惧してるなら、最低限段ボール開けて、エロ本の上に科学雑誌数冊置いておくなりして、万一開けられた時用の対策ぐらいしてかないとおかしいから」

 それもそうだわ。うん。

 単にエロ本捨てたいんだったら、すり替えなくても、しれっと他の段ボールと一緒にゴミ捨て場置いとくだけでいいと思うわ。うん。

「……となると、後は本当に、『こういう本』と『科学雑誌』をすり替えること自体に意味があったと思うしかないのですが」

 そしてここで社長、表情を曇らせる!めっちゃ珍しいなー、社長がこういう顔するの。

「……もしかして『こういう本』と普通の本をすり替えたりすることに性的興奮を覚える人が居るんですかね」

「いやいやいやいやいや、俺、そこまでニッチな性癖の奴は居ないと思いたい!」

 挙句、社長が迷走し始めた。うん。まあ、その気持ちは分かるけどさ。いや、やっぱ分かんないわ。ごめんね!




 膠着した状況の中!俺達の誰もが唸る中!手を挙げたのは!

「……あのさー、俺、思うんだけど」

 針生だーっ!一体何を思いついたっていうんだーっ!?

「この本、割といいよね」

 ……。




「……まあ、悪くない、な……うん」

「あっ俺、これ好き!これいい!どう!?」

「……いや、俺の趣味じゃない……どっちかっていうと、こっち……?」

「あっ、この眼鏡の子可愛いなー」

「意外と刈谷が選ぶの普通のだよね」

「えっいいじゃないですかそんなの」

「……俺達は一体何をしているんでしょうかねえ……」

「それ、自ら進んでエロ本開きながら言うことじゃないから」

 ということで始まりました鑑賞会。

 うん。なんか焦りすぎて全然頭回ってなかったけどね。目の前にそういう本あるんだからね。見るよね。俺達健全な男の子だからね。

「いいじゃんこれ。俺、科学雑誌よりこっちの方がいいわ!」

 終いには針生がそういうこと言いだす。うん。まあ、異論ないけどね。はい。

「ねー、これ、取っとこうよ」

「これ部室に置いとく気?度胸あるね」

 しかし羽ヶ崎君に怒られた針生、流石に少々しょげ……てない。

「……俺さー」

 何やら、思いついた様子だね。

「この本、捨てたくないんだけど。なんか勿体ないって、思うんだけど」

 ……うん。

「皆もそう思わない?思うよね?」

「いやー……」

「まあ、勿体なくは、ある、かなあ……?」

「貴重品って言えば貴重品なんですよね、これ」

 ここで流される辺り、流石俺達だわ。

「ね!そう思うよね!」

 針生も水を得た魚のように元気になって……そして、なんと。

「これ捨てるのって、おかしくない?何か、理由があったって考えた方が、それっぽいじゃん!」

 推理し始めたぞこいつ!侮れねえ!




「本当にこのエロ本全部処分しなきゃいけないってなったら、普通、家に持って帰らない?俺なら持って帰る!」

 だが主張があんまりだ!でも反論できねえ!流石針生だぜ!

「既に持って帰った後なんじゃないか?その残りを捨てた。筋は通る」

 そして鈴本の主張も尤もだ!俺達の趣味に割としっかり合う本がこの中に入っていたからといって、この段ボールの中身が誰かの厳選から零れ落ちた本じゃないという理由にはならない!何故ならこういう趣味なんて十人十色だから!誰かのベストが誰かのワーストかもしれない!それがこの世界!

 ……ところが、針生はこれに凄い角度から反論!

「いやいやいや!それもおかしいって!持って帰って残りがこんな大量なんだったら、そもそものエロ本、一体どこに置いておいたんだって話になるじゃん!」

 あー。

 これは見事に、盲点、だったわ。


「……仮に、これでエロ本が全部だったとしても、相当な量だよねえ……」

「大きな段ボール1箱分ですからねえ……相当な量ですよね、よく考えたら……」

 うん。なんか開けた時のインパクトとショックと混乱が強すぎて色々吹っ飛んでたけど、そもそもエロ本がこの分量あるって事が凄いわ。なんで気づかなかったんだろ。

「で、このエロ本が学校のゴミ捨て場にあったってことは、エロ本がそもそも学校のどこかにあったってことになるじゃん!」

「外から学校の部外者が持ち込むのは……難しいですね。正門から堂々と入ると校舎の教室側の窓から絶対に見えます。心理的に侵入は難しいでしょう。裏門から入ろうにも北グラウンドを突っ切ってくる必要がありますから、やはり全くの部外者がゴミ捨て場まで段ボールを運び込むのは難しいように思いますね」

 うわー、そうなんだよなー。このでかい段ボール箱いっぱいのエロ本がこの学校のどこかに隠されていたっていう事実は確かなんだよなー。うっわ、凄い。学校の七不思議の1つにできるじゃんこんなの。

「俺さー、その、さっきの社長の推理、全部丸無視して、この謎、解いちゃったかもしんないわ」

 更に針生はそう言って、なんとも言えない顔をした。

「逆に考えてさー、こう、犯人がエロ本か科学雑誌を持って帰らなきゃいけない理由、って考えずに、『捨てたくないであろうエロ本をゴミに出さなきゃいけなかった理由』を考えたら、何か、分かっちゃったんだよね」


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