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金庫番と愉快な仲間達~3~

「そもそも俺達はまず、おかしいと思うべきでした。何故、犯人はこの部費を盗むことができたのでしょう?」

 社長の言葉に、俺達全員、きょとんとする。

「いや……え?鍵が、掛かってなかったから……?」

「甘いですよ、角三君。確かに化学実験室は施錠されていませんでした。しかし、鍵が掛かっていなかったとして、目的も無しに化学実験室に入りますか?」

 ……いやー、無い、か。

 俺達みたいに、たまり場としてここ使ってる人達でもない限り、そうそう滅多にこんな所、来ないよね。

 というか、生徒の大半は授業でしかここ使わないと思うし、授業で使うにしても相当頻度は少ないと思う。よって、多くの生徒達にとって、化学実験室は馴染みが無くて、入る理由が無い場所、って事になる!

「その目的が窃盗だったんじゃないの?」

「それも甘いですよ、羽ヶ崎さん。考えてみてください。羽ヶ崎さんは、吹奏楽部の部費を窃盗しようと思いますか?」

「は?いや、別に思わないけど」

「では聞き方を変えましょうか。『窃盗できますか?』」

 社長の言葉に、羽ヶ崎君、つまる。そんで、渋々、ってかんじに頷いた。

「……なるほどね。『できない』。そういうこと?」

「そういうことです。羽ヶ崎さん、吹奏楽部の部費を窃盗できない、と思った理由は、『そもそも部費の場所が分からない』からではありませんか?」

「そりゃ、ね。そもそも存在してるのかすら知らないし」

 あああー、そっか!

 場所が分からないんだったら、盗みようがない!

「成程な。確かに、窃盗は理論上、可能だ。だが、存在しているのかすら知らないものを盗むのは難しいな」

 うん、確かにさ、理論上は可能だよ。化学実験室に入って、片っ端から引き出し開けて、片っ端から中身確認すれば、化学部の部費には到達するよ!でもさ、それ、できないよね?普通はできない!やりたくない!俺だってそうだし!

「そういうことです。……つまり『犯人』は、化学部の部費がどこにしまってあるかを知っていた人物、ということになります」




「……それ、って」

「内部犯だ、っていうことかなあ?」

 不穏な空気に、角三君とか加鳥とかが、明らかに渋い顔っていうか、困ってる顔した。うん、俺も困りたい。

「まあ、そう考えるのが妥当でしょうね。そもそも、化学部が化学実験室の棚を使っているということすら、知らない生徒は多いでしょうし。化学部内であれば、簡単に部費まで辿り着けます」

「ちょっと待て。つまり、俺達の中に犯人が居る、と?」

 鈴本が真剣な顔で確認すると、社長はあっさり頷いた。

「はい。……とは言っても、『ここ』には居ないでしょうが」

 ……『ここ』。

 えーと?

「そして、『犯人』とは言っても……まあ、確認はした方がいいと思いますが。でも、心配は必要無いと思いますよ」

 え、えーと?




「あら、皆集まってたの?」

 がらっ、とドアが開いて、入ってきたのは糸魚川先輩だった。俺達の1つ上の先輩。実質この人が部のトップ。いや、部長じゃないし、むしろ会計なんだけど。でも、一番強い。うん、正直、俺、この人ちょっと苦手かもしれない。でも楽しいし嫌いじゃないよ。俺以外が標的になってる分には。あははは。

「先輩、あの」

 何か言おうとした舞戸さんを、社長が手でとどめた。

 多分、舞戸さんは事件の説明をしようとしたんだと思うんだけど、社長はどうも、糸魚川先輩に事件の事を知らせたくないらしい。なんでだろ。

「ええ。少々、ゲームに興じていまして。ところで糸魚川先輩こそどうされたんですか?その本は?」

 さらに、サラッと嘘ついてサラッと流して、社長は先輩の手元に注目した。

 先輩はなんでもない普通の白いレジ袋みたいな奴に、本みたいなのを入れて抱えていた。

「ああ、これ?参考書よ。今日の昼休み、販売があったの。理系の2年生を対象にね。ただ、来年度から使うものだし、ロッカーには入らないし、持って帰るにも重いからここに置いておこうと思って持ってきたという訳よ。いいわよね?ちょっとスペース、借りるけれど」

 ……参考書の、販売、かー。知らなかったなー、そっか、上級生になると受験も近づいてくるし、そういうの、有るよね。うん。知らなかったけど。

「俺は構いませんよ。というか俺達も適当にそこらへんのスペース、使ってますし」

「まあそうよね。……というか、あなた達、エロ本とか隠してないでしょうね?時々実験室の後ろの方で猥談してるけど。気づいてるんだからね。ああ、そういえばこの間は」

「いや、そういった本はありません。そもそも紙媒体は使っていないので」

「あらそう。残念」

 なんか全員に火の粉が飛びそうだったけど、社長が遮ってくれたから助かった。うん。助かった!

「……というか柘植からそういう言葉が聞けるとは思わなかったわ……『使う』って。『使う』、って……」

 あー……これは、うん。確かに。言われてみれば。うん。

 社長が黙って『失言した』みたいな顔してるのが凄い新鮮。まあ、社長だってやらかす時はあるよね。あははは。


「……ところで先輩。1つ、お伺いしたいのですが」

「あら、話変えるの?別にいいけど」

 是非変えてほしい。このままだと俺達の精神力が削られる!

「……ええと、ですね。今回購入した参考書の金額は、幾らでしたか?」

「1600円よ。それがどうかした?」

「成程。では……化学部の先輩方の中で、糸魚川先輩以外に参考書を購入した方はいらっしゃいますか?」

「ええ、買う時一緒に……あ、そういえば熊田が『財布忘れた!』って騒いでたけど……あいつ結局、買えたのかしら?」




 嵐のような先輩が去った後。なんかペースが完全に乱れたけれど、まあ、とりあえず。

「糸魚川先輩以外にも参考書を購入した先輩は複数居て、かつ、参考書の金額は『1600円』。これで謎は解けましたね」

 社長はいつの間にかペースを取り戻してた。うん、平常運転。

 そして、事件も解決。スッキリサッパリ!

「消えた2000円は、恐らく、『参考書を購入しなければならない日に財布を忘れた先輩方のどなたか』……恐らく、熊田先輩が、『借りた』ものでしょう」




 ね。これなら説明も通るし、普通に納得がいく。

 部費の位置を知っていたのも、化学部内の人が犯人なら納得がいく。

 2000円だけ消えてたのも、参考書を買うためっていう明確な理由があったなら納得がいく。

 で、『窃盗』をするリスクが大きすぎるって事なら、『盗んだ』んじゃなくて『借りた』って考えれば納得がいく。

 うーん、考えてみたら結構単純だったなー。

「ですから舞戸さん。会計ノートを付けるのは、明日まで待ってください。このまま部費の缶とノートを引き出しに戻しておけば、『犯人』が2000円を戻しておいてくださると思いますよ」

「そ、そっか、あ……」

 舞戸さんが心底ほっとしたみたいに息を吐いて、ずるずる机に突っ伏した。

「よかったー……よくないけど、とりあえず部費が消えてなくてよかったー……」

 ね。舞戸さん、本当に慌ててたし、死にそうだったし。ほんと良かったよね。

「お前の管理不十分は全然よくないけどね」

「ごもっともです……いや、ほんと、肝が冷えた。うん。反省しております」

「まあ、結果を見ればこれで良かったと思いますよ。これを機に部費の管理方法を変えてみてもいいかもしれませんね。小型の金庫を利用したり、缶に鍵をつけたりしてもいいわけですし」

「缶に鍵……?」

「金庫は用意するのが難しいでしょうから。それが一番無難でしょうか。鍵が付いていれば心理的な抑止力にもなりますし」

「え、いや……クッキーの缶に、鍵……?」


 ……ってことで。

 とりあえず、消えた2000円事件は幕を閉じたのである!めでたし!

「じゃあ、さっきの続きやるか」

「対戦途中だったもんねえ」

 ってことで、皆はデュ○ルしに戻っていき。

「……で、針生は宿題、終わったの?」

「……あ」

 俺は実験室で宿題再開だね!忘れてた!もうやだ!なんか事件解決してスッキリしたんだからこのスッキリ気分のままでいたい!でも宿題は消えてくれない!あー!どうせなら2000円じゃなくて宿題消えろよなー!


記録

2000円消えたと思ったら先輩が借りてただけだった。

宿題は終わらなかった!


追記

見てみたら無事、缶に2000円が戻ってきてた。よかったー。

これで舞戸さんも無事、会計ノート付けられるね!


追記2

俺達は何となく不問にしようとしてたんだけど、糸魚川先輩に事の顛末がばれたっぽい。熊田先輩が自供したっぽいんだけど、まあ、それで滅茶苦茶怒られてた。これでもうちょっと、管理とかしやすくなるんじゃないかな。


追記3

鳥海と加鳥と一緒に頑張った結果、めっちゃゴツいクッキー缶できた。なんか『封印されしクッキー缶』みたいなかんじになってる。舞戸さんが滅茶苦茶慄いてたし「使いづらい」って言ってたけど、セキュリティとロマンに勝るものは無いし諦めてね!


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