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金庫番と愉快な仲間達~1~

1月17日

天候 :曇りだったはず!

記録者:針生


 冬休みも明けて、また学校が始まった。

 なので俺は今、宿題に追われてる。長期休暇の宿題は長期休暇終了3日前ぐらいになってからが本番だし、長期休暇が終わった後からがラストスパートだし!

 というかさ!むしろ、数学とか答え見ずにちゃんとやるんだから、答え見て写して冬休み終了前に終わらせる人より俺の方が偉いと思う!うん!


 ということで学校に残って宿題やってから帰ろうかなー、とも思ったんだけど、教室は吹奏楽部に占領された。(あの、管が伸びる奴のパート。名前なんだっけ。トランペットじゃないことだけは分かる。)

 図書室はなんか最近、一悶着あったらしいからなんとなーく行きづらいし。というか元々俺、図書室で勉強できない人なんだよね。なんか落ち着かない。

 自分のクラスじゃない教室にお邪魔するってのも考えたんだけどさー……ちょっと諸事情あって、友達が居るクラスは今日、勉強には使えないんだよね。

 で、他に勉強できそうな場所、って言ったら、もう限られるよね。

 ……ってことでしょうがないから、化学実験室に来た。今日は部活無いけどま、いっか、て。どうせ実験室って、誰か居たとしても化学部員だし、校舎の北側にあるから教室とかとは離れててそこそこ静かだし。こういう時に化学部で良かったって思うなー。あははは。


 で、実験室に入ったら、案の定先客が居た。

「あれ、舞戸さんも冬休みの宿題?」

 舞戸さんはドアに背を向ける形で、机に向かっていた。まあ、舞戸さんの事だから、冬休みの宿題が終わってないってことはないだろうけどなー。一応聞いてみた。

「ううん、宿題じゃな……え、ちょっと待って、針生君よ、つまり君はまだ冬休みの宿題が終わっていないと?」

「うん」

 素直が一番だから正直に答えたら、舞戸さんが凄い顔した。あははー。

「……提出日、今日だよね?」

「うん。古典と化学と家庭科はね。数学と英語は授業内で提出だし、現代文は週末に提出だからまだやってない!」

「何故その計画性を冬休み中に活かせないのか」

 ま、それは俺だからしょうがないってことで。あはははは。


「で、舞戸さんは何やってるの?宿題?」

 舞戸さんは不真面目じゃないけど、真面目でもない。つまり、予習復習を頑張るタイプじゃない。ってことは宿題かなー、って思ったんだけどね。

「いやいや。これだよこれ」

 舞戸さんが見せてくれたのは、見覚えのあるノート。

 ノートはA4版。山吹色の表紙に『実験ノート』ってゴシック体で書いてあって……更にその上にマジックで『会計ノート』って書いてある。

「あー、会計簿つけてたのか」

「うん。洗濯糊が近所で滅茶苦茶に安かったから買ってきたんだ。腐るもんじゃないし、安い時に買っておいた方がよかろ?」

 うん。最近は洗濯糊ってもの自体が珍しくなってきてるし、安くなってたんならそりゃ、買っておいた方がいいよね。

 ……あ、なんで化学部に洗濯糊が必要か、っていうと、スライム作るのに使うから。

 洗濯糊にホウ砂水溶液と水混ぜて作るスライムは化学部の文化祭の出し物の目玉だから。ある程度はストックしておいても、ま、腐るもんじゃないし、いいよね。うん。

「ということで、棚に洗濯糊をしまうと共に、ついでに会計ノートに記録しとこ、と思いまして」

「マメだなー」

「そりゃ、君に比べりゃあね」

 うん。俺、そういうの溜めといて後でまとめてやろう、って思って、結局ごっちゃになって大変な思いするタイプ!




 マメな舞戸さんは置いといて、俺も宿題するべく、机にノートを広げ始める。

 実験室って机広いし、他に使う人も居ないから、スペースかなり広く使えるのが魅力だよね。


 ……ってことで、そこそこ宿題ははかどってたんだけどね。

「……針生ー……」

 なんか、死にそうな声が俺を呼んだ。

「え、どしたん?」

 見たら、舞戸さんがやっぱり死にそうな顔で、こっちを見てた。

「あの、あの、ですね……」

 それで、いつもからは考えらんないくらい暗くて死んでる声でそう言って、一旦、口を閉じて、それから切り出した。

「なんか、2000円、足りない……」

 ほらね!これだよ!




「え、えー……2000円足りない、って、どういうこと?」

 一応ほっとけないから、宿題放り出して、舞戸さんの手元を見にいく。

 机の上のノートの数字と、机の上に綺麗に並べたり積んだりしてあるお金を見比べて確認。

 ……うん。会計ノートの上の数字と、実際にあるお金に2000円差がある。勿論、実際のお金が少ない方。

「計算ミスった?」

「いや、ミスってない、はず」

 まあ、だよなー。お金の勘定ミスる人じゃないもんね。多分。いや、うっかりはありそうだけど、舞戸さん、これだけ死にそうな顔してるって事は多分もう何回も確認してるんだろうしなー、うっかりミスってのは無い気がする。

「というかね、前回確認した時にはちゃんと全額あったんだ」

 舞戸さんが会計ノートの上の文字を指す。

 会計ノートを前回付けたのは、合宿の時っぽい。あ、そういや色々買ったもんね。鍋の材料とか。

 実際、ノート上には『白菜』とか『鶏もも』とか『苺プリン』とか書いてあるし、レシートもしっかり貼ってある。

「つまり合宿の時にはお金、あったって事?」

「そういうことなんだけど……そこから今日までの間のどこかで、2000円、消えてる、っていう……」

 ……うーん。

 舞戸さんを信用するなら、まあ、これ、本当に2000円消えてる、ってことになるんだけどさー。

 それって……盗難、って考えるのが普通だよね?




「えーと、他の化学部員は知ってる?」

「いや。先生も今日は出張で居ないから、報告できてない」

 それだとちょっとヤバい気がするなー。一応盗難っぽいし、だとしたら多くの人が知ってた方がいいよね。

 今回は緊急事態だし……じゃあしょうがない。

「じゃあ他の面子呼んでくるからちょっと待ってて」

「……へっ?え?今日部活じゃないし皆帰って」

「ないんだわ。あはは。あ、じゃあちょっと行ってくる」

「え?えええ?えええー……」

 舞戸さんが困ってたけどすぐ戻ってくるから勘弁してほしい。


「皆いるー?」

「あれ?針生、宿題終わったの?」

 ということでやって来たのは友達の教室もとい、自分のクラスの隣のクラス。

 そこでは俺と舞戸さんを除く化学部員が大体集まっていましたとさ。

 ……なんでこいつら全員集まってるか、って言ったら、そりゃ、ね。

「そうか。宿題は諦めたんだな。じゃ、やるか?」

 鈴本がカードを手に俺に聞いてくる。丁度、社長との対戦が終わったっぽい。

 ……まあ、うん。

 俺達男の子だから。部員全員じゃないけど、こういうトレーディングカードゲームも嗜むんだよね。今日は放課後、皆で教室でやろう、ってことになってて、でも俺は宿題があるから辞退したんだけどね。

 で、皆にもちょっと辞退してもらおう。緊急事態だからしょうがない。

「いや、ごめんちょっと実験室来て。緊急事態」

「……なんかあったの?」

「うん。舞戸さんが死んでる」


 皆、すごくギョッとしたのが面白かった。あはは。俺、あながち嘘は言ってないもんねー。




「うわ、本当に皆来た!なんで!?暇なの!?」

「死んでないじゃん。話が違う。なんで生きてんのこいつ」

「そしていきなりすごい悪口を言われた」

「死ね」

「そんな、ひどい……」

 舞戸さんは早速ダメージ受けてるけど、まあ、デュエリスト達に試合放棄させてこっち引っ張ってきたんだから文句ぐらいは言われてもらってもいいよね。うん。

「……で。招集の理由を説明してもらおうか」

 で、まあ、舞戸さん、生きてはいるけど、死にそうな顔してるのは確かだし、精神は死んでそうなの、分かるし。なんとなく皆、そわそわしてる。なんかあったんだな、ってのは分かるもんね。

「あー……それが」

 舞戸さんは早速、会計ノートを出して、説明開始。

「2000円、消えました」

 はい、説明終了!




 それだけだとイマイチ説明足りないから、もうちょっと皆には詳しく説明した。

 つまり、合宿の時に会計した時には、ノートの数字と実際の金額が合ってたこと。

 今日、実験に使うもの買ってきて会計ノートにつけてたら、金額が合わなくなっていたこと。

 説明はそんなもん。これ以上は舞戸さんにも分からないもんね。


「……ということでまず確認なんだけど、皆、新しく買い物した人とか居ないよね?」

 舞戸さんはそう言って全員を見回すも、誰にも心当たり無し。まあ、そんな気はしてた。

「私も糸魚川先輩も、冬休みから昨日までで特に報告は貰ってないし、特に実験室に物が増えたってのも無いから、先輩が部費で何か買ってきたとも思いにくいし……先生だったら、先に立て替えしてくれるだろうし、絶対に報告はしてくれるし……」

 俺達は顔を見合わせた。

 全員、どこかしら緊張感漂う表情で、頷き合って、そして、社長が言う!

「じゃあこれは盗難ですね」

 はい!ということで!

 俺達化学部の部費は!盗難に!遭いました!

 ……。

 ヤバいね?


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