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図書室の間違った使い方~3~

「本って、分類されてるじゃないか。3桁の番号振ってあるよね」

 加鳥は刈谷にいきなり、そう切り出した。

「あれって、本の種類ごとに何番、って決まってるんだよね」

「あ、はい。そりゃもう、細かく決まってますよ!」

「じゃあ、『読書』とか『図書館』とか『事典』とかは何番?それで、『辞書』は?」




 刈谷が調べて戻ってきた。

「ええと。『読書』は019、『図書館』は010、『百科事典』は030、それで『辞書』は031から038でした」

「そっか。じゃあ、それらって全部、『0』のスペースに入るんだよね」

 えー……何、『0』の棚、て……。

 分かんない、って顔してたら加鳥が解説追加してくれた。ごめん。

「あ、そっか。ええとあのね。図書館の本って、全部で10に大体分けてあるんだ。皆がよく使うのは『9』の『文学』じゃないかなあ。あと、科学関係が『4』の分類だねえ」

 ……よくは使わないけど。うん、そういえば、『9』とか『4』って書いてある棚、見た事ある。

「ええと、その大分類が更に細かく分類されてるんだけどね。とりあえず大分類は3桁の数字の、百の位が示してるんだよ」

 ほらね、と加鳥が見せてくれた本、返却の棚に置いてあった小説。背表紙の数字のラベル見たら、全部『9』で始まってた。

 逆に、日本史の本は『2』で始まってたし、バスケットボール初級編、みたいな本は『7』から始まってた。

「……それでね。『読書』も『図書館』も『事典』も『辞書』も、全部、大分類は『0』なんだよなあ」

 うん。それはなんか分かった。

 そこらへん大体全部、分類が一緒、ってことでしょ?

「つまりさ。そういう本って、大体同じ棚に入れられるんだよね」


「辞書の棚、スッカスカだったよね」

「うん」

 これはついさっき見てきたばっかりだから普通に覚えてる。

「辞書が大量に新規追加されたら、あの棚のスッカスカ具合が少し減ると思うんだよね」

「うん」

 当然だと思う。

「更にさ、周辺の棚に入る本まで大量に追加されたら、今の辞書の棚、益々圧迫されるかもしれないよね。ほら、大分類は同じだから、1つの棚にまとめちゃえ、って」

「あー」

 うん、まあ、そうなるかも。辞書じゃなくても事典だったら絶対あそこに入れられるし。そうじゃなくても、『読書』とかの本が増えたらその棚、いっぱいになる。辞書とかをそっちに移動させるって事は絶対なくなる。

「そうすると多分、困る人が居ると思うんだ」

 加鳥はそう言って、図書室の外を指した。

「とりあえず一回、出よっか」




「なんで一旦出たんですか?」

 図書委員なのに一緒に図書室を出てきた刈谷が、早速聞く。

「うん?え、だって舞戸さんがいたし」

「えっ!?まさかえっちな話でもするつもりですか!?」

「ええと、どうしてそうなるのかなあ」

 刈谷だからだと思う。


「ええとね、それで、ほら、さっき言いかけた奴。『辞書の棚がいっぱいになると困る人』が舞戸さんだって話だよ」

 ……。

「え?」

「あっ、これ角三君分かってないな?」

 うん。分かってない。なんで辞書の棚がいっぱいになると舞戸が困るのか。舞戸が辞書アレルギーとか聞いたこと無い。

 困ってたら、加鳥が解説してくれた。

「ええとね。単純に……舞戸さんは、図書室の棚をちょっと本来の用途と違う用途で使ってるんだと思うんだよね」

 違う用途。

 ……あ。もしかして。

「机」

「うん。そうだと思う」




 舞戸がさっき言ってた。

『本を読むにしても自習するにしても、相席になると気を遣うから自習スペースの机は使いたくない』。

 ……本を読むだけなら、椅子だけあれば足りる。でも、自習って……絶対、机、要るじゃん。

 そしたら、辞書の棚の陰で自習なんてできる訳ないじゃん。棚を机にでもしない限り。

「ということで、多分舞戸さんは図書室の棚を勝手に机にして使ってるんだと思うんだよね」

「……ま、舞戸さん……」

 刈谷が絶句してる。うん、図書委員だったらショックなのかもしれない。

「俺、全然気づかなかったんですよ?図書委員なのに全然気づかなかったんですよ?まさか棚を机にしている人が居るなんて……」

「うんまあ、舞戸さんが棚汚して帰ったりするとは思えないしなあ。現場を見ない限りは分からないだろうなあ」

「あ!そう言われてみればあの棚、埃が少なかったです!使用頻度は圧倒的に少ないはずなのに!うわ、うわ、なんか悔しいですね、これ悔しいですね!状況証拠はあったのに!」

「そこから棚を机に使ってる人が居るって推理するのはかなり難しかったんじゃないかなあ」

 そもそも棚を机にする人が居るって発想に普通なんないと思う。普通は誰かが掃除したとか、元々埃が溜まりにくいとか考えると思う。というかなんで舞戸も棚を机にする発想に至ったんだろう……意味わかんね。


「……あれ、でも」

 ふと、刈谷の顔が曇った。

「辞書が沢山入ると舞戸さんの机が無くなって舞戸さんが困るっていうのは分かりました。でも、犯人は何故、舞戸さんの机をなくしたかったんでしょうか」

 ……。普通に考えれば。

「舞戸、嫌われてんじゃない?」

「角三君がえげつない!」

「うん、まあ、ストレートに考えるとそうならないでもないのかあ……」

 言ってみたら、刈谷と加鳥から凄い反応された。

「……ええとね、角三君」

 うん。

「僕はね、逆なんじゃないかなあ、って思うよ」

 ……うん?

「舞戸さんが図書室の辞書の棚を机にできなくなったら、舞戸さんは何所に行くと思う?」

 ……うん。

「化学実験室」

「あ、そ、そうきたかあ」

「あああ、でもそうですよね、現実的に考えると割とそうですよね……」

 うん。そうだと思う。舞戸が落ち着いて作業できる場所って、1番が図書室の棚の裏なんだとしても、2番は化学実験室だと思う。少なくとも学校の中では。

「……え、ええとね、角三君。じゃあ、化学実験室以外の場所、って限定すると?」

 えー……。

「情報室」

 パソコンがうぃーんうぃーんってずっと言ってて落ち着く、って、舞戸、前言ってた気がする。

「う、うーん?そ、そうきたかあ……」

「いや、でもそうですよね、現実的に考えると確かに、確かにそうですよね……絶対舞戸さん、そっちの方が優先度高いですよね……」

 なんか2人の反応がすっきりしない。

 ……え、なんで?

「えー……と。うん。そうだ。そうだね。角三君。あのね」

 考えに考えて、加鳥がもう一回、聞いてきた。

「舞戸さんがあんまり類を見ないかんじの人だって事を知らない人が、単純に、一般的な『図書室をよく利用している女子高生』を想定したとして、その一般的な『図書室をよく利用している女子高生』が辞書の棚を机に……あっ駄目だ、質問内で矛盾が生じたぞ、普通、一般的な『図書室をよく利用している女子高生』は辞書の棚を机になんてしない……あああああ、これ、もう全然質問の意味が無いじゃないかー!」

 うん……?




「まあ、ええと、つまりね。多分犯人は、辞書の棚がいっぱいになれば、舞戸さんが図書室の自習スペースを使うと思ったんだと思うよ」

 最初からそう説明してほしかった。

「……ええと、角三君、その意味、分かる……?」

 意味?

 ……。

「わかんね」

「角三君全然乙女心が分かってないです!」

 だって俺、乙女じゃねえし……。

「いや、相手も乙女じゃないんだよなあ、多分」

 なんかホントに全然分かんなくなってきた。

「うん……まあ、そもそもが仮定。仮定だからね、まだ。まだ全然分からないからね。うん」

「でも俺はそこに望みがあるなら賭けます!図書室の平和の為なら舞戸さんを賭けられます!」

「いいのかなあ……」

「いいと思います!じゃあ俺、早速舞戸さんに話をつけに行ってきます!」

 刈谷が図書室の中に戻っていった。俺と加鳥は取り残された。

「……まあ、あとは……ほっておけばいいかあ……」

 え?

「これで解決すると思うよ。図書室の謎リクエスト問題」

 え、え?なんで?

「とりあえず、図書室のリクエスト募集期間中、舞戸さんには大変な思いをしてもらうかもしれないけれど」

 ……ちょ、え?何が?

「まあ、普通に考えればそれって、舞戸さんの為にもいいかもしれないしね。うん。僕らは良い事をしているぞー」

 加鳥、全然、説明、してくれない。

 ……あの。もうちょっと、分かりやすく……。




 結局。

 加鳥はあんまり詳しく説明してくれなかった。理由は、「いやだって、なんか、こう、他人の、はっきり確証がある訳でもないことをあれこれ言うのって、なんか、よくないじゃないかー」だって。

 でもとりあえず、決まった事はある。

 舞戸は図書室のリクエスト募集期間が終わるまで、時々図書室の自習スペースの机を使うことにしたらしい。というか、させられたらしい。舞戸は刈谷に「図書室の為に生贄になってください!」って言われたらしい。それから加鳥に「辞書の棚を机にし続けたいんだったらちょっと我慢しておいた方がいいと思うなあ」って言われたらしい。

 それで舞戸は「分からん」とだけ言ってた。

 俺もよく分かんね。




 ……けど、俺も今回の一件で図書室の使い方なんとなく分かったし、意外と読みたい本置いてあるの分かったし、刈谷が居る時に借りれば本借りやすいって分かったから、図書室使ってみようかな。



記録

・辞書の棚を潰す為だけに辞書をリクエストしまくる人が学校にいる。

・うちの部には本棚を机にする変人がいる。

・辞書とかのリクエストは舞戸が棚を机にしないようにさせるためだったっぽい。よく分かんないから後で誰か追記しといて。


追記(刈谷)

変なリクエストが止まりました!ヤッター!

変なリクエストが止まって図書室の平和は保たれましたし、リクエストの犯人と思しき人も無事、舞戸さんと相席し放題になって嬉しいと思いますし、その人が頑張ってくれて舞戸さんに春が来ればそれはそれで喜ばしいですし、全員幸せですね!ね!頑張ってください、リクエストの犯人!話したことないし名前すら分かりませんけど!


追記2(刈谷)

リクエスト募集期間が終了しました!図書室の無事は保たれました!

しかし舞戸さんはまた、辞書の棚に戻ってしまったようです。

リクエストの犯人(2組の福山君って人みたいです)はなんかガッカリしてましたけど、彼の押しの弱さに俺もガッカリです。もうちょっと頑張りなさい。


追記3(刈谷)

そういえば猫の写真集が図書室に入りました。是非借りてください!


追記4(角三)

舞戸が見ない内に追記消しといた方がいいと思う。

あと猫の写真集借りた。可愛かった。おすすめ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 追記消しても本文残るじゃねーですか。 [一言] ……でも理解出来なさそう。 『なるほど福山の嫌がらせか……』
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