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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Another one. ルリフィーネの再起
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98. 閉ざされた世界

 氷の騎士を蹴散らし一時の安全を確保した私達は、シウバさんらが隠れていたであろう暖炉裏の部屋へ入っていく。

 入り口以外は窮屈さも無く、広さもそれなりにある。


「いつの間にこんな部屋作ったんだ?」

「元々あった部屋なんよ。元々あった入り口を潰して、暖炉の方の壁を開けただけやよ」

 なるほど、だから普通の部屋だったのですね。

 幾度と再生を繰り返す敵。

 仮にあんなのが複数居たならば、戦うのを避けたシウバさんの判断は正しかったのかもしれません。


「ふん、まあいい。それで、どうしてこうなった」

 サラマンドラさんは部屋の構造よりも、この世界の有様がきになるらしく、雑に床へ腰を下ろし腕を組みながら現状を尋ねてくる。


「結論から言うと、ネーヴェ姫のせいやな」

「ふむ、だいたいそのネーヴェ姫って何者なんだ?」

「自らを欲望の白魔姫と呼んどる。実際にこっそり見てきたが、とんでもなく冷たそうな美人さんやったよ」

「それは!」

 ネーヴェ姫の二つ名を聞いた瞬間、私の切れていた記憶の糸が繋がり、今までぼやけていた部分がはっきりとしていく。


「心当たりがあるのか?」

「秘密結社トリニティ・アーク、三総帥の一人ですね。何故こんな重要な事を忘れていたんでしょうか……!」

 私達が中央精霊区へ行き、大主教ブカレス様から組織の総帥の名前を教えて貰った時に、伝えられた名前が三人あったのを思い出す。

 欲望の白魔姫ネーヴェ、失望の赤雷姫フィレ、絶望の黒という二つ名しか解らない人。

 名前だけだったのでピンと来ず、酷い負傷のせいもあったとはいえ、思い出せなかったなんて!


「はぁ? じゃあ組織が表世界を乗っ取ったというわけか?」

「そういう事になりますね」

 サラマンドラさんと私を負かしたフィレという女性が、三総帥の一人と同じだったら。

 むしろ、あの場所に居たとするならば同一人物でほぼ間違いないですね。

 つまり”絶望の黒”以外の総帥の手で四大大国のうちの二つは組織の手に落ちたという事でしょうか。


「組織相手は面倒だな」

 彼もあの裏社会を支配している組織を敵に回す事が、どれだけやっかいなのかを知っているらしく、頭を強く掻いて厳しい表情をする。


「そうなると、他の国もどうなっているか怪しいな」

「そうですね」

 他の二国、ラプラタ様が居られる風精の国と、独自の文化と宗教が発達した土霊の国。

 その二国も恐らくは組織によって何らかの影響を受けている。

 最悪、どちらも組織の支配下になっていて……。


「私に提案があるのですが、よろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「私がユキ様とはぐれてしまう前、組織に抵抗する人らの集まりに身を寄せていました。まずはその方々と合流し戦力を集結させた方が良いかと思います」

 サラマンドラさんは確かに強い、ごく普通の兵士相手なら数十人相手でも楽勝でしょう。

 ですが組織が相手と解った以上、ただの兵士をぶつけてくるとは思えない。

 セーラさんのような人体ベースの魔術兵器や、オルクス公の時のような異形への変身能力を持った人が相手だったら、いくらサラマンドラさんと私でも厳しいでしょうね。


 そう、私達二人では出来る事は少ない。

 だから私は、組織に対抗している人々と力を合わせなければいけない。

 合流し、逸れてしまった仲間の方々やユキ様を迎えなければいけない。


「ふむ。その集まりとはなんだ?」

「新世界と自称している方々です」

「聞いたこと無いな。メンバーは誰が居る?」

「マリネさんに、くろさん、ハーベスタさんに、後はミズカさんと言ったところでしょうか?」

「ああ、ハーベスタだけは知っている。あの泣き虫がねえ……」

 新世界と言う組織に立ち向かう集団の事を、サラマンドラさんは知らなかった。

 けれど、その中に所属している参謀担当のハーベスタさんの事は知っていたらしく、厳しかった表情が僅かに緩んだような気がした。


「やる事は決まったようやな?」

「ああ。ルリフィーネ、お前の提案に乗る。俺とジジイとアルパをそこまで連れて行け」

「かしこまりました」

 こうして私達は、ハーベスタさんが予め伝えておいてくれた秘密アジトへ向かう事となった。

 この小屋にそのまま居ても埒があかないと思ったシウバさんとアルパさんも、私達に付いて行く事となり、育った家を一時離れるための用意を簡易的ではあるが進めていく。


「場所はサクヤ嬢の別邸から西方にある貧民街。そこに皆が集まっていると言っておりました」

「徒歩か? この吹雪だと俺とジジイとルリフィーネは大丈夫だろうが、アルパはいけるのか? 凍えるぞ?」

 外の吹雪が止む気配はない。

 極竜の闘法を身に着けるために修行し、心身の鍛錬を終えた私達は平気でも、普通の人であるアルパさんはまず間違いなく凍えてしまう。


「もこもこだな……」

「とても暖かそうですね」

 そう思っていた矢先、アルパさんは無言のまま何重にも厚着をした状態で袋包みを抱えて現れる。


「それなら大丈夫か。少しでもやばくなったら言えよ?」

 どうやらこの方も、出て行く準備は怠っていなかったみたいですね。


「アルパさん、それは道中の荷物ですか?」

「おお、そうじゃった。ルリちゃんのメイド服を直したんよ」

 私がこの場所に着いた時、着ていた使用人の服はフィレ嬢との戦いでぼろぼろになってしまっていた。

 ここで修行を始めると決めたと同時に、アルパさんが服を直してくれると言っていた事を、シウバさんの言葉を聞いて思い出す。


「ありがとうございます」

 アルパさんから袋包みを受け取ると、私はすぐに中身を確認した。

 ずっと着てきた、道中細かいほつれは自分で直してきたけれども。

 まるで新品のように綺麗に仕上がっている。


 私は別の部屋へ行き、早速アルパさんが直して下さった服に着替えなおした。


「これでよし」

「うむうむ、ルリちゃんはやっぱその格好の方が似合うて」

 世界メイド協会から与えられた白いメイドの服。

 ふわりと膨らんだパフスリーブと、幾段にもなっている袖のフリル、そして襟とエプロンの紐先には金糸で十字架の刺繍が入っている。

 ユキ様の専属メイドである証であり、すなわち私が私である証。

 自身の確立する要素だからでしょうか。

 気持ちが引き締まるような気がしますね。


「こっちも行く準備は終わったぞ。ルリの着替えも終わったみたいだし行くか」

「ええ」

 こうして私達は、新世界の人々との合流を目指すため、小屋を出て行った。


 道中は一日を通して吹雪いており、天候が良くなる事は一切無かった。

 さらに物資補給の為に村や町へ赴きましたが、人が誰も居ませんでした。

 恐らくは私達を襲った氷の騎士にやられたのでしょうか?


 それでも死体や痕跡がまるで無いのが気になりますが……。



 そんな不可思議な旅を続ける事数日。


「ようやく着きましたね」

「貧民街も誰も居ないな」

 誰一人と脱落者を出す事も無く、私達は目的の場所に辿りつく。

 しかし到着した貧民街も他の町と同様の有様で、目に見える範囲で人は誰も居ないし、家の中も明かりは一切ついていない。


「ですが、このあたりのはず……」

 吹雪で視界が悪かったせいで、他の場所と勘違いしている?

 そう思えない、ここであっているはず。


「そうだな、ここであってるかもしれんな」

「サラマンドラさん?」

「ルリ、お前も気づいただろう?」

「……ええ。視界には誰も居ないが、誰かに見られている気がしますね」

 あっていると確信するにはある理由があり、それはここの居る体術の達人達なら全員気づいている事だった。

 この貧民街に入ってから何者かが私達を監視している。

 姿は見えないが視線や気配は明らかだった。

 しかし、私達を監視しているのが誰かまでは解らない。

 氷の騎士と同様にネーヴェ姫が遣したアーティファクトか、私を知っている新世界の人々か、ただの盗賊か。


「ふん!」

 恐らくはそれを確かめる為でしょうか?

 サラマンドラさんが歩くのを止めると、雪に埋もれていた小石を拾い、何も無い場所へ勢いよく投げた。


「あぎゃあ!?」

 この吹雪でも小石の勢いは衰えず、私達がいる後方の建物の影めがけてまっすぐ飛んでいき、そして石が何かにぶつかると同時に悲鳴のような音が発せられる。


「やっぱり居たか」

「魔術で姿を消していたみたいですね」

 サラマンドラさんの投石によって、今まで誰も居なかった場所に、防寒具を着込んだ人の姿が露にする。

 石の当たった場所が悪かったのか、その人は頭を抱えて唸っていた。


「おい、お前何者だ?」

「か、火竜の国の王!? 何故ここにいる!?」

「質問を質問で返すな。お前は何者かと聞いている」

 しかしそんな人の都合を無視し、サラマンドラさんは彼の胸倉を掴み正体を確かめようとした。

 相手もまさか”元”火竜の国王がこんな場所に居るとは予想もしていなかったらしく、ただ狼狽するだけだった。


「待って!」

 吹雪いている中、意外と近くから声が聞こえてくる。

 その声の方を向くと、そこにはこの悪天候から身を守る為に防寒具を着込んだ人が、建物の影から現れる。


「あなた、ユキのメイドさんだよね?」

「そうですが……、あなたは?」

 防寒具を着ているせいで肌を露出している部分が無く、この人を特徴付けている部分が何も見えず、声も吹雪のせいで半分かき消されているせいで、女性と言う事以外は解らない。

 でも私の事やユキ様の事を知っているとなれば、新世界のメンバーである可能性は高い。


「付いてきて」

 このまま手をこまねいていても、何も始まらない。

 たとえ辛辣な罠であったとしても、私達にはこの人についていくしか選択肢が無い。

 そう思い私は他のお三方へ目線で合図を送り、防寒具を着込んだ人へと付いていく事を決めた。

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