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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Another one. ルリフィーネの再起
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96. 激変

「スノーフィリア様、スノーフィリア様……」

 真っ白な霧の中、何故だか解らないけれど私は姫様を探している。


「スノーフィリア様! どこに居られるのですか?」

 でも見つからなくて、大声で叫んでもまるで反応が無い。


「ここに居られましたか」

 不安になっていると、まるで私の気持ちに呼応するかのように、姫様が目の前に現れる。

 けれども、顔が霧に隠れて解らない。


 私は顔を確かめようと思い、姫様の近くへ寄って行った時。


「はっ!? これは……!」

 ルリフィーネが過去に体験した”あの夜”を再現する。

 それと同時に霧はみるみる濃くなっていき……。



「目が覚めたか。お前が細身で良かったよ」

「こ、ここは……?」

 次に目を開けた時、そこは神秘的な青の景色が広がっていた。


「洞窟の中間くらいか、お前が魚の化け物と戦った場所だな」

 確かに見覚えがある。

 天井周辺には青白く淡く輝くクラゲのような生き物が、ふわふわと漂っている。

 間違いない、私が洞窟の最奥へ向かう途中に謎の生き物と相手した場所だ。


「あれ、私?」

 どうして私はここにいるのでしょう?

 サラマンドラさんの五番目の構えから繰り出された技を受けて、力尽きたはずなのに。


「ここは、天国ですか?」

「人の話を聞け、洞窟内だ。間違ってもあの世ではない」

 そうですよね、天国ならサラマンドラさんが一緒にいるはずですよね。

 いけない、いまいち思考がまとまらない。


「まあ、無我夢中だったろうからな。覚えていなくて当然か」

 一体何を言っているのでしょう?

 もやもやが残る頭のまま、サラマンドラさんの体を何気なく見る。


「その怪我は! 大丈夫ですか!?」

 腹部に大きな痣が出来ている。

 まるで何かが強くぶつかったような……?

 一体誰がこんなことを。


「痛えよ!」

 しかもこんなに腫れてしまって……。

 恐らくは五番目の構えをあみ出す途中で、傷ついてしまったのですね。


「だがお前のあの技、いい一撃だった。意識して撃てれば、フィレに勝てるかもな」

「どういう事ですか?」

「そのうち解る」

 サラマンドラさんが何を言っているのか、まるで私には理解出来なかった。


「あの、修行は?」

「俺もお前ももう修行は仕舞いだ」

 口ぶりや彼の体の状態から察するに、無意識のうちに新たな技を使った……?

 そんな事、本当にあるのでしょうか?

 まだ自分自身、フィレ嬢を倒すための五番目の構えを編み出せずにいるというのに。

 でも私は生きており、サラマンドラさんは修行の時とは比べてどこか友好的な感じがする。

 私の修行は全く無駄ではなかったという事……でしょうか?


「意識もはっきりしているか。歩けるな?」

「はい」

「なら急ぐぞ、さっさと姫様に会いにいくんだろ?」

 まだ完璧ではない自分の力に対して不安を感じずにはいられなかった。

 ユキ様が変身する力に目覚めた直後は、このようなご気分だったのですね……。


 兎も角、今はユキ様に会わねば。

 修行がどの程度の日数かかったのかも解らないですし、なるべく早めに合流したいですね。


 そう思いながら、私とサラマンドラさんは洞窟の入り口へと多少急ぎ足になりながら戻っていく。

 奥へ行く時とは違い、意外とスムーズかつ時間もかからず戻れたような気分になりながら、いよいよ入り口の光が見えてきた時だった。


「こ、これは……!」

「おい……」

 洞窟から外に出た私達を待っていたのは、シウバさんやアルパさんの温かい出迎えではなく、元国王や組織に反抗してきたメイドを始末するための危険な刺客でもない。


 肌に刺さる冷たさ。

 視界はほんの少し先以外は全て白銀。

 猛吹雪が吹き荒れる水神の国の大地だった。


「これもネーヴェ姫の力……、なのでしょうか?」

「知らん」

 私達が洞窟に入る前、この辺りは凍土になっていた。

 あれからさらに天候が悪化して気温が下がり、このような結果になってしまったのでしょうか?


「ジジイ達の居る小屋へ戻るぞ」

「はい」

 まずはシウバさんの所へ戻り、地上が何故このような風景になってしまったのか?

 解る範囲でいいので聞かねば。


 二人の思いは共通だったらしく、サラマンドラさんと私はほぼ同時にシウバさん達が待っているであろう小屋へと走り出した。


 道中は吹雪いていて碌に前も見えない状態だった。

 それでも幼少期はずっと過ごしていたせいか、サラマンドラさんは一切迷うことなくシウバさんの小屋へと無事に到着する。


「おい! ジジイ無事か!」

 扉を勢いよく開けると直後にシウバさんの呼ぶ。


「誰も居ねえ……」

 しかし、反応は無い。

 私はふと、暖炉の方へと目を向ける。


「暖炉の火が消えたばかりですね。ついさっきまで人が居たという事でしょうか?」

「おーい! 隠れてないで出て来い!」

 僅かに燻っていて、そこから煙が出ている。

 これだけ外が吹雪いているのに、家の中も温かい。

 という事は、誰か居たのでしょうか?

 サラマンドラさんの言うとおり、この家のどこかに隠れている……?

 なんでしょう、このもやもやとした気分。


 そう思いながら、どうして隠れる必要があるのか考えた時だった。


「ちっ……、なんのつもりだ」

「あの、サラマンドラさん」

「ああ? どうした?」

 私は、ある異変に気づく。


「聞こえませんか?」

「何がだ」

 びゅうびゅうと吹き荒れる風と雪の音以外。

 軽やかなリズムで刻む音が、だんだん大きくなっていく。


「馬の蹄の音……、誰か来るのか?」

 サラマンドラさんも気づいたらしい。

 でも、こんな吹雪の中を誰が馬なんて?


 解らない事だらけの中、私は音がしてくるであろう小屋の入り口へ目を向ける。

 悪天候の真っ白な世界から、何やらぼんやりと影の様な物がこちらへだんだん近づいてくる。


「何かが来るぞ」

「はい」

 だんだん、確実ににそれはこちらへと向かってきている。

 この調子だと、僅かな間にここへ到着するでしょう。

 私とサラマンドラさんは扉の影へ咄嗟に隠れ、脅威に対しても対応出来るようにしながら、謎の影の来訪を待った。


「な、なんだこいつは!?」

 そして吹雪の中を突き進む影の正体を見たとき、私もサラマンドラさんも驚きを隠せずにはいられなかった。

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