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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Fourth Part. 魔術師から賊を経て
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76. 転機は急に訪れて

「どういう事……?」

「おかしいわね……、サクヤの情報が間違ったのかしら……」

 ブカレスの予想外の発言に、衝撃が走る。

 サクヤやハーベスタの言葉を信じて疑わなかった新世界のメンバー達は困惑し、動きが完全に止まってしまう。

 たった一人を除いて。


「ブカレス様! 本当に良かったです、あなた様が組織の一員じゃなくて」

 ルリフィーネはブカレスへと抱きつき、潔白である事にとても喜んだ。

「ルリ、心配をかけましたね」

 ブカレスはそんな”娘”に対し、ただ笑顔で迎え入れ頭を優しく撫で続けた。


「じゃ、じゃあ審問官は?」

「お恥ずかしながら、正教も一枚岩ではないという事でしょう。我々はどの国家や組織にも肩入れをせず中立を保つ方針ですが、それを良しとはしない人々もいるというわけです」

 ユキを襲った審問官は、少なくとも大主教とは関係が無い。

 そうなればブカレスが組織の一員というよりかは、正教の中に組織の息がかかった人間が居て、審問官がそうだったと考えて間違いはないだろう。


「でも、あなたがスノーフィリア姫の命を狙っていたと……」

「王女殿下が崩御されていない事は審問官の一件で解っておりました。ですがそもそも中立を保っている我らが姫君の命を奪うなんて口にも出せません。……何かの間違いでしょうか?」

 それでもユキは確認をしたが、彼が嘘をついたり誤魔化したりしているとも思えないので、ブカレスの言葉を信じる事にした。


「あなた方の噂は、かねがね聞いておりました。組織に対抗する一団、新世界と自称しているそうですね」

「そんな事も知っているなんて、流石は正教の情報網かしら?」

「ええ。正教は情勢の把握をする為、独自の情報網を使って各国の動向を調査しております」

 まさか新世界の事まで知っているなんて。

 流石は世界で一番有名で、信者の人も多い宗教なだけはある。

 ひょっとしたら、組織よりも規模が大きいのかも?


「正教は基本的に、どの国に対しても平等に接する方針です。手に入れた情報はあくまで正教内での使用を目的として、他の者が不利益がこうむるような事はしておりません。ですが、秘密結社トリニティ・アークの動きが最近活発なのも事実」

 ブカレスは笑顔のまま淡々と正教の立ち位置について語る。

 決して声を荒げず、物静かで落ち着いているが、それでも説得力があるのはやっぱりこの人だからなのかもしれない。


「彼らがどのような目的で動き、何を目指しているかは未だ知れませんが、この世界を混迷させるものであれば、正教も看過はしておけません」

「じゃあ、私達に力を貸してくれるの?」

「審問官の件もありますし、組織の活動を抑止する一手となりうるかもしれませんし、”王女”のユキ様やルリの願いともあれば、私もぞんざいには扱えません」

 意外な流れに全員は戸惑いを隠せずにいる最中、錯覚の魔術でごまかしているユキの正体がばれている事を聞くと、ユキは思わず身をすくませてしまい、雪宝石のペンダントをぎゅっと強く握り締める。


「ですから、改めてこちらから聞きましょう。何か知りたいですか? 正教で調べた範囲でよろしいなら答えましょう」

「話がわかるじゃない。じゃあ総帥の名前とかどうかしら?」

 マリネは、オルクス襲撃の際に聞きそびれた、組織を牛耳る者の正体について聞く。


「ふむ、やはりそれですか。まあよいでしょう」

「解るの?」

「完璧ではありませんが……」

「流石ね」

「ですが、これから話す事は決して他言無用でお願いしますね」

「ええ」

 船内のスイートルームには、新世界のメンバーとブカレスしか居ない。

 完全防音とは言えないが、大声で話さなければ外から声が漏れる事もないだろう。

 それにも関わらず、ブカレスの声がさらに小さくなる。


「失望の赤雷姫フィレ、欲望の白魔姫ネーヴェ、あともう一人は絶望の黒という二つ名しか解りません」

「三人も居るの?」

「誰も聞いた事ないわね……」

 遂に明かされた組織を支配している者の名前。

 全員が驚き、困惑し、そして考え込んでしまう。


「あの、他にその人たちについて何か解りますか?」

「残念だが名前までしか解らないのです」

 ユキも他の新世界の面々も同様に、この場に居る全員が彼女らの名前を聞いても、全く解らなかったのである。


「調べても出てこないところから、平民出身の者かとは思いますが……」

 裏組織、非合法ギルドの長。

 そんな存在が堂々と表に出るなんて事はありえないにしても、今まで数々の大貴族や王族と出会ってきたユキやルリフィーネ、比較的人生経験が豊富なマリネやくろですら知らない事実に、場の空気が奇妙な感覚に包まれてしまう。


「まあ、名前はサクヤやハーベスタに聞けば何か有用な情報が聞けるかもしれないから、とりあえずは置いといて別の事を質問しましょう」

 この場に居る人々からでは、総帥の名前以上の情報を引き出す事が出来ない。

 新世界のアジトへ戻れば、貴族として交友関係の広いサクヤや、マリネ以上の年を重ねているハーベスタならば何か解るかもしれない。

 そんな思いを各自は胸に留めながら、次の質問へと移る。

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