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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Fourth Part. 魔術師から賊を経て
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70. 今の決心となり

「あの、ハーベスタさん」

「ん? なんだ?」

「別に当初の作戦のままでも良いですよ。私が変身して召喚術使えば何とかなるわけですし……」

 場の空気が緩み、各自が緊張を解いてのんびりと好きな事をしている中、ユキはハーベスタに作戦の続行を恐る恐る提案する。


「お前がそんな風に言うなんて意外だな。まあ、やる気は評価する。だがな毎回あんな規格外の攻撃を放たれたら、いつかは国が滅んじまうよ。お前さんが召喚術を使わずに済む方法をどうにか考える」

「はい……」

 しかしユキの力があまりにも未知で予想以上に、危険なモノだという事を体感したハーベスタは、真剣にユキの目を見ながら断った。


「あ、そろそろサクヤが来る時間だ。私迎えに行ってくるね!」

 二人のやりとりをぼうっと見ていたミズカは、思い出したかのようにサクヤを出迎えるべく、元気よく立ち上がる。

 立ち上がったときに被っていた魔術師の帽子がずれたので、それをそそくさと直してアジトの入り口へと向かって行った。



 それから、大した間も置かずにミズカはサクヤを連れてくる。

 サクヤは屋敷の時のようなパーティドレス姿ではなく、いつもの村娘の格好をしていた。

 顔色が少し悪そうにも見えたが、ユキと目が合うと相変わらずの魅力的な笑顔を返してくれたので、何も言わずにユキも笑顔で返す。


「皆さんお揃いでしたか」

「ああ、そっちは大丈夫だったか?」

「ええ、属領とはいえあそこはブロッサム家の自治範囲内ですからね。どうにかしましたよ」

「ご苦労だったな」

 あれだけの大事を解決しちゃうなんて、流石は花の国の王女だった人なだけはあるかも。

 私も見習わないと……。

 そう思いながら、ユキはただただ感心してしまう。


「それで次の相手ですが、大主教ブカレスにしたいと思います」

「ほう、何か理由でもあるのか?」

「私が今回の件で王都へ行った時、大主教ブカレスは元老院の決議とは別にスノーフィリア王女殿下のみしるし、つまりユキの命を狙っているという話を聞いたのです」

 サクヤの報告を聞き、ユキは過去の事を思い出す。

 修道院でシスターとして身を隠していた頃、審問官に正体がばれた時に命を奪われそうになった。

 審問官ならば大主教と交流があっておかしくない身分だし、サクヤがいう事もつじつまが合う。


「今ユキを失うわけにはいきませんからね、危険の目を摘む意味も兼ねてすぐに決着をつけたいのです」

 サクヤは私を必要としてくれている。

 それが、なんだか嬉しかった。


「……あれが使えるわね」

「何か良い策でもあるのですか?」

「メイド協会から客員講師の依頼が来ているのよ」

「ほう」

「私がメインでアシスタントとしてくろと卒業生のルリちゃん、あともう一人ぐらいで潜入して、大主教にこっそり聞き出せばいいよねえ。どうかしら? 作戦担当さん」

 マリネはあごに指を当てながら、随行する人員を着々と決めていく。


「正直、ブカレスをどう攻めるか決めかねていたところだからな、ここは残留組に任すか」

「久しぶりのお出かけは楽しみねえ。ウフフ」

「楽しそうだな」

「危険の渦中こそ、乙女は輝くものよ?」

「なんじゃそりゃ……、解らん」

 正直ユキもマリネの言葉が良く解らなかった。

 きっとこういう人にしか解らないのだろう……。


「それで、そのもう一人はどうする?」

「どうしようねえ。ミズカ来る?」

「私はメイド服似合いそうにないからパス。魔術の調整もやっておきたいし」

「あらそう? 残念」

 この時ユキはメイド姿のミズカを何気なく想像し、意外と違和感が無いような気もしたが、本人があまり乗り気ではなさそうなので何も言わずに傍観した。


「俺なら空いてるぞ」

「残念ハーベスタ、メイド協会は男子禁制で~す」

「お前も男だろ……」

「何か言ったかしら? ウフフ」

 世界メイド協会は、名前の通り女性使用人になる為の学校である。

 客員として呼ばれたマリネならまだしも、明らかに柄の悪いハーベスタが来れば、不審がられてしまう。


「てか、くろはいいのかよ」

「くろは喋らないし、華奢だからローブ被っていればどっちか解らないし、魔術に深い知識のあるアシスタントが欲しいからね」

 確かに言われて見れば、くろさんは体の線が細くて肌も白い。

 見えている範囲からは性別の区別が付きづらく、魔術の知識もある。

 今回の任務を補佐するには適任かもしれないと、ユキは思った。

 そうなると残りの一人は……。


「あの、私が行きます!」

 他に誰も行く人が居ない事を察したユキは、自ら名乗り出る。

 大主教ブカレスには、宰相オルクスのような個人的な憎しみや恨みは無い。

 しかし、組織に関わるのならばココに関する事が聞けるかもしれない。

 そう考えたのである。


「ユキちゃんなら、なにも違和感ないわね」

 しかも、ユキは一時期使用人として働かされていた時期もある。

 具体的な作戦は解らないが、生徒として潜入する事も可能と踏んだのだ。


「ですが、命を狙われていると解った以上は辞めた方が良いかと思いますが……」

 そうやってユキが様々な可能性を考えていた中、今まで黙って話を聞いていたサクヤが口を開く。


「虎穴にはいらずんば虎児を得ず。そこに案外活路が見出せるかもよ?」

「だ、大丈夫ですよ! ルリやマリネさんやくろさんもいますし!」

 それでもユキはサクヤの助言を振り払い、ココの秘密を聞く事は伏せたままでメイド協会へ行く意思を見せる。


「……解りました。くれぐれもお気をつけてください」

「無茶はするなよ? 協会毎消し飛ばすとか洒落にならんからな」

「決まりね。明日にも出発するわよ」

「ではユキ様、一緒に準備しましょう」

「はい」

 こうして次の相手とやるべき事が決まる。

 ユキも含めて新世界のメンバーは、残る者も行く者も全員が、強い意志を瞳に宿していた。

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