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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
First Part. 姫から使用人へ
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5. 虐待と屈辱の中で

「おはようございます。スノーフィリア様」


 心地よい日差しがスノーフィリアの体へと注ぎ込んでくる。

 まだ眠気を残しながら瞼をゆっくりと開けていくと、見慣れた景色が広がっていた。


 国内最高峰の職人達が作ったベッドの上で、最高級の寝具が敷かれている。

 窓にかけられたレースのカーテンは優しくひらひらと揺れ、部屋にはスノーフィリアの一番の理解者である宮廷ハウスキーパーのルリフィーネを筆頭に、複数のメイドが指示を待っている。

 その光景は世界を統治している大国の一つである水神の国の姫ならば、当たり前であり必然の日常だ。


「おはよう。ルリ、みんな」

 スノーフィリアは挨拶を返しながらも、いつも通りの朝の訪れに多少戸惑ってしまう。


 あれ?

 今までの出来事はなんだったの?

 何か悪い夢でも見てたのかな?


 そう頭の中で解決しようと努めながら、専属のメイドであるルリフィーネを心配させないように安堵の笑みを見せながら挨拶を返した。


「スノーフィリア様、今日はどのお召し物に致しましょうか?」

 そんな他愛もない会話を終えると、ルリフィーネは自らの主に笑顔を見せながら、姫の部屋のクローゼットを開ける。

 そこには彼女の為だけに仕立てあげられた特注品のドレスが複数着かけられていた。


「こちらの水色も良いですし、白も素敵ですが……。迷ってしまいますね」

「ルリ、今日は白にするね」

「かしこまりました」

 それにしても、なんて酷い夢だったのだろう。

 ……何か良くない出来事の前触れなのかな?

 スノーフィリア自身も何故あんな夢を見てしまったのか解らず、またあまりにもリアリティがありすぎたせいか、寝起きの大して働いていない頭で思わず考え込んでしまう。


「ではこちらをどうぞ」

 ルリフィーネは、主であるスノーフィリアが指定した白のドレスを手渡す……はずだった。


「え……、これって……」

 瞬きをしたほんの僅かな時間だった。

 今まで白のドレスだと思っていた衣装は、何故か悪夢の中の女使用人が渡したピナフォアに変わっていたのだ。

 思わず息を大きく飲み込み、ルリフィーネの方を見る。


「もう朝よ。叩かれたくなければさっさと身支度なさい、ユキ!」

 目の前のルリフィーネがだんだん遠くなり、景色がぐにゃりと歪んでいく。

 塵一つ無い清潔で明るい自室は、みるみるうちに埃っぽく薄暗い不潔な部屋へ変わって行く……。



「あ、あれ……。ここって……」

 意識がはっきりとしてくると、悪夢で見た使用人の部屋にある薄汚れたベッドの上にいた。


「何を寝ぼけているの? 初日早々に寝坊だなんて本当に使えない娘。どんな躾をされてきたのかしら?」

 この悪態の付き方は間違いない、私に散々酷い事をした女使用人だ。

 名前は……、グレッダと言っていたような気がする。

 でも、そんな事はどうでもいいや。

 ……やっぱりこちらが現実みたいね。

 そうユキが確信すると、温い気持ちは一気に冷えていった。


「さあ早く! もう朝食をとる時間はないわ。さっさと髪型を整えて来なさい!」

 余程急いでいるのか、鞭で打たれる事も髪を引っ張られる事もされないまま、グレッダは部屋を出て行ってしまう。

 しかしこのまま呆けていては制裁を受けるのは間違いないと察したユキは、壁にかけられている隅が割れた鏡を見ながら自身の髪を手で簡単に整え、エプロンとホワイトブリムを付けてグレッダの後を追って行った。



 身支度が終わってグレッダの後に着いて行くと、食堂へ到着する。

 まだこの館の主であるコンフィ公は到着していないらしい。

 どうやら間に合った事を理解したユキは、既に整列している他の使用人と同じ様に扉の近くで見よう見真似に並ぶ。


「おはようございます。旦那様」

「おはようございます」

 ユキに散々な仕打ちをしたグレッダが挨拶をすると、ユキも含めて他の使用人も続いて頭を深く下げて挨拶をする。


「ああ、おはよう」

 ガウンを身につけたコンフィ公は彼女ら使用人達の挨拶を、片手を軽く上げて簡潔に返して食卓の上座へと腰を下ろす。

 使用人達は、この館の主が座席についた事を確認すると厨房へと向かい、料理を持っていこうとする。


 料理を次々と持っていき、コンフィ公はただ黙々と出された料理に黙々と手を付けていく。

 ユキも見よう見真似で料理が盛り付けられた皿を手に取り、こぼさないようにゆっくりと”旦那様”へと持っていく。


 私は何も食べていない、本当なら私も一緒に食事をしていたはずなのに。

 私は何をやってるのかな……。

 どうしてこんなことになっちゃったのかな……。

 こんなはずじゃあ無かった、こんなはずじゃあ……。


 そう思いながらもユキはこぼさず、無礼な態度も見せず何とか料理をもって行く事に成功したその時。

 料理の匂いがユキの鼻につくと同時に、ユキのすきっ腹が情けない音を鳴らしてしまう。

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