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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Second Part. 使用人から修道女へ
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26. 儚い明かりに共鳴する隠された思い

 修道院へと戻った一行は、帰りを待っていた修道女達の手厚い歓迎を受ける。

 そして、フードの外れたユキを見た修道女達はユキや神父が予想していた通りの反応をし、隠しきれないと察した神父はユキが亡くなったと言われているスノーフィリア姫である事を告げると、礼拝堂内は思ったとおりの重い雰囲気に支配された。


「どうして、スノーフィリア王女殿下がここに?」

 修道女の中でも古株であり、事あるごとにホタルと対立していたセルマが、神妙な面持ちのまま口を開く。

 誰もが聞きたかったけれども、誰も聞けなかった事を聞けるあたり、流石はセルマと言うべきか。


「水神の国の財務官であるコンフィ公爵からの願いで、スノーフィリア様を匿って欲しいと言われました」

「あの……、理由は?」

「私も聞いたのですが、”聞いたら神父の命も危ういから絶対に言えない”とだけ……」

 神父の真剣な表情を見て、他の修道女は勿論だが話のきっかけをつくったセルマですら、それ以上の事を聞けなかった。

 単純に神父が知らないというのを悟った事が、口に出さずとも伝わっていた。


「なあ神父様」

「どうしましたか? ランピリダエ」

「このままお姫様を匿い続けるのか?」

「それは不可能でしょう。近隣の村民にばれてしまいましたし……」

 再び重苦しい雰囲気で院内が支配されてしまった時、ホタルがユキの今後についての話を切り出す。

 神父は表情を変えないまま、結論を告げると他の修道女もそれを否定せずただ沈黙を保つだけだった。


「私、ここを出て行きます。これ以上は迷惑かけられないですから」

「スノーフィリア王女殿下……」

 ユキはホタルや神父を救うと決めた時、こうなる事を覚悟していた。

 四大大国の一つ、水神の国。

 そこの姫君であり、今は死亡扱いされていて、なぜか命まで狙われている。

 このままここに居れば、先ず間違いなくこの修道院に居る神父さまや修道女や礼拝者の人たちに迷惑がかかってしまう。 


「幸い、ルリとも合流出来ましたし! そんな心配しなくても、ルリすっごく強くて何でも出来るから大丈夫!」

 使用人の時と違い、ここは全員がユキに対して良くしてくれた事もあってか、胸中にある名残惜しさと寂しさを出さないようにぐっと我慢しなければいけなかった。


「私は元より、スノーフィリア様をお迎えする為にここへ来た身。主の言葉に異存はございません」

 それに、これからはもう一人じゃない。

 ルリが居てくれる。

 それがどんなに心強いか、改めてルリの存在が自分にとってどれ程大きいかを感じていた。

 でも迎えに来るっていう事は、次はどこへ連れていかれるの?


「ですがスノーフィリア様、まだやるべき事がありますでしょう?」

「うん」

 ルリフィーネは、ユキの考えを見通したかのような眼差しを向ける。

 その言葉をきっかけにユキは、この一連の事件の気になっていた事を話し始めていく。


「今回の審問官絡みの騒ぎ、誰が犯人なのかなって思ったの」

「どういう事なんだい? お姫様」

「ユキでいいよ、ホタルお姉さま。えっとね、審問官がここへ来た理由って、私とホタルお姉さまの服装が誰かが出した手紙によって正教へと伝わってしまって、それを罰する為なんだよね」

「服装が嫌でわざわざ手紙を……?」

「神父様が居なくなる可能性もあるのに?」

 その時、修道女達はユキの話を遮るようにざわめきつつ、セルマの方に疑いのまなざしを投げかける。

 今までホタルやユキの修道服に関して特に口酸っぱく言っていたから、彼女らの反応は当然のものだった。


「ち、違う! 私じゃない! ……確かにランピリダエの服装を注意し続けたわ。でも正教本部に知れたらこの修道院の存続すら危うい事くらい解っているもの!」

 修道女全員のまなざしがセルマに向けられると、慌てて自分ではない事を伝える。


「そう、セルマさんじゃないの」

 仮にセルマさんだったら、本人の言うとおり、正教本部に訴える以外の方法をとってくるはず。

 修道院や神父さまは悪くないのだから。


「じゃあ誰が……?」

「それが解らないの。でも可能性としてね、服装を正す為じゃなくてこの修道院そのものや、神父さまを陥れるために手紙が送られていたら……?」

「この修道院や神父様に恨みを持っている人が居る……」

 この場に居る全員の背筋が寒くなった。

 修道院の活動や各修道女の行いは、感謝こそされど恨みを買うような物では断じて無いと全員が信じているし、ユキも短い間だが彼女たちの営みを見てきて、それはまさに清廉潔白そのものであったと思う。

 問題児とされていたホタルだって、ユキと約束してからは一切悪事をしていなかった。


「あと、もう一つ気になることがあって……、審問官は不思議な力で、人間以外の別の存在になったんです」

 雲行きの怪しくなったこの話を切りつつ、ユキは次に審問官について話を始めると、現場に居合わせたホタルは足を組んで背筋を伸ばして礼拝堂の天井を見た後に相槌をいれる。


「ああ、あれ凄かったなー」

「ここへ来る前にも似たような事があって、あの不思議な力はどうやって手に入れたのか、解らないんです」

 審問官は正教の中でも相当位の高い存在なのはユキも十分解っていた。

 そんな人が何故あんな力を使えるのか。

 あの姿は、とても正教に相応しいとは思えなかった。


 じゃああの力は、正教がこっそり与えているの?

 でも腕に刻まれていた刺青は正教のしるしじゃなかった。

 そういえば、アレフィの家も貴族の中では相当地位が高くて力もある。

 この二人に何かあるのかな……。


「……それならば私が正教本部に問い合わせてみましょう」

「その件ならば既に私から問い合わせ済みです」

 そう言うと神父がユキの言葉の真偽を確かめようと立ち上がった時、割ってルリフィーネが答えを全員に伝える。


「事が事ですし正教側が正しく答えてくださる保証はありませんが……」

「ルリフィーネさん、本当によろしかったのですか? あなたはこのままでは正教に背いた事になってしまう」

 審問官に手を出すという事は、正教全てを敵に回す行為と言っても過言ではない。

 正教直下の機関を卒業した優秀なメイドであるルリフィーネだからこそ、重々承知していた。

 それにしても、今更ながらあんな化け物を生身で相手して、しかも圧倒圧勝だったのは流石だと思い、ユキはルリフィーネの凛々しい顔をまじまじと見つめてしまう。


「ご心配なく。こちらこそ神父殿に迷惑はかけられません。大丈夫ですよ、正教側もあんな事をおおやけにはしたくないので、無謀な手段には出ない筈です」

「おお、ルリフィーネ殿。感謝します」

 まさか正教の高官があんな化け物だったなんて、間違っても他の人たちには言えないだろう。

 最悪の手段である実力でルリを亡き者にしようとしてきたとしても、あれだけ強いルリが負けるとも思えない。


「じゃあ、そっちはとりあえずいいとして……。手紙を誰が送ったかですね」

 結局手紙は誰が送ったのかが解らなかった。

 修道女達は手紙を見て筆跡から誰かを割り出そうとしたり、紙質から何かヒントを得られないか様々な角度で手紙を交互に渡して調べたが、結局何の手がかりも得られなかった。


「さあ! もう夜も遅いし、ルリフィーネさんも疲れてらっしゃるでしょう? 今日はこのくらいにして、食事にしてさっさと休もう。今日は私が当番だからおいしいぞー」

 完全に行き詰ってしまい、全員に精神的な疲弊が見られ始めた頃。

 ホタルが手を二度ほど叩いた後にそう言い、ルリフィーネを含む全員を半ば無理矢理に食堂へと誘う。

 修道女たちもこのまま悩んでも埒があかないと察し、ホタルの誘いに乗り気分を変えて食事をとる事に決めた。


 食事はいつも通り夜のお祈りの後、厳かに誰も喋らず淡々と済ませる。

 どうしても考え事がまとまらなかったユキは、一昨日あたりに焼いておいたパンを二口ほど食べて食器を片付けると自室へと戻ってしまった。

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