228. 天華満開
世界が必死になって大樹の祝福に抗っている。
人々の小さな命の灯火は、スノーフィリアやその仲間達の名前を叫び、強く煌いている。
女神となったスノーフィリアには、それらが手に取るように解っていた。
「なぜこの風景が……?」
だが、世界中の人々へこの戦いの様子を伝える事は、女神の力をもってしても不可能である。
故にそれがどうして行われているのか?
じりじりと引き寄せられている最中であっても、疑問に感じていた時だった。
「ユキちゃーん! あなたの戦いは全世界へ届けているわよー!」
女神が現れた事により、神樹から放たれていた深緑色の霧は晴れた。
霧の外では、マリネ達がかつてスノーフィリアを王権に復帰させる為に使用した、記憶した景色を他の場所に投影させる術を準備していたのだ。
「マリネ……」
この時、女神スノーフィリアは全てを理解した。
それら大規模な魔術は、本来ならば芸術祭で、多くの人々に女王の晴れ舞台を見せる装置の一部として、使われるはずだったという事を。
この土壇場の中、マリネやくろ、伝説の吟遊詩人ディアとシセラ、そして他の多くの魔術師達の力によって、僅かな時間ではあるが世界規模にまで拡散出来る様になった事を!
全てが繋がった、そう確信した瞬間。
女神の体が強く輝くと共に、ラファエルの拘束がじわりと解かれていく。
「何を抵抗している?」
「私は……、希望を捨てない」
「この世界は私の祝福の下に生まれ変わるのが決まっている、そうなればお前の名前を呼ぶ声も無くなる。そんな儚き者達を拠り所にするとは……」
「そうは……させない!」
女神スノーフィリアは、消え行く人々を守りたいと強く願った。
その願いの強さに呼応するかのように、自らの体はさらなる輝きを見せると……。
「馬鹿な! 拘束を解いただと!?」
ラファエルの頑強で頑丈な拘束を解き、再び自由を勝ち取った。
「みんなが私と戦ってくれている。みんなこの地上を守ろうとしている」
「守ろうとしているだと? ふざけるな! このままでは天界も、地上も、魔界すらも終わってしまうのだぞ!!」
三つの世界の絶妙なパワーバランスによって、この世界は成り立っている。
天界が消滅してしまえば、その三世界の関係も成立しなくなってしまう。
女神となって真に覚醒したスノーフィリアも、その事は十分解っていた。
「終わらせない」
「そんな事がこの私以外に出来るわけが……」
天界を蘇らせるなんて行為は、並大抵の力では成しえない。
だからこそラファエルは、地上とスノーフィリアを取り込もうとした。
「私がやってみせる。私は神だから!」
当然、スノーフィリアもラファエルが、何故その結論に至ったかを解っていた。
「ならば示してみせよ! 天界を復活させる事が出来る力を!!!」
この争いは、単純な命の奪い合いではなく、自らに課せられた試練であると理解したスノーフィリアは、翼を大きく広げながら、指先を神樹の方へと向けていき……。
「万物創世・全能の力よ、我が旅路にて力となりし者達を再び顕現させたまえ!」
そう力強く告げると、スノーフィリアの周囲を雪の結晶のような形をした光が現れ、そこから今までの旅で呼び出した者達が全て現れた。
今までの旅を支えてきた者達は、目線でスノーフィリアへ合図をすると、一斉に神樹へと突っ込んでいく。
「何かと思えば……、くだらん!」
世界を救う術が、不完全な創造の術と知ったラファエルは酷く落胆すると、そう一言吐き捨てて枝や蔓を伸ばし、スノーフィリアが創造された存在を粉々にしようとするが……。
「我が剣、サモナーに捧げようぞ!」
「マドモアゼルに、あまりみっともない姿は見せられないのでね」
「かあいい女の子が頑張っているなだ、僕も頑張るなだよ」
各々が持ち前の技や術によって、全てを打ち払う事に成功する。
「その程度で退けたつもりか?」
創造された存在達の士気は元々高かったが、ラファエルの苛烈な攻撃を退け、さらに勢いづいた。
「自惚れるなよ下郎共。滅びよ、神獄天罰殺!!」
だがラファエルは、無慈悲にさらなる攻撃を与えた。
炎の様に燃え盛る光を纏った木の実を、とてつもない速度で降り注がせたのだ。
圧倒的物量の前には、さすがの創造された存在達もひとたまりはなく、彼らはどうにか攻撃を避けながらラファエルから間合いを離し、スノーフィリアを周囲に展開した。
「万物創世・生命の力よ、未来を照らす明かりに再び活力を授けたまえ!」
次にスノーフィリアは両手と翼を広げて、そう強く言い放つ。
すると女神の胸から光があふれ出し、水滴のように零れて地表に落ちると、そこから光の波紋が広がっていき、みるみる世界を包み込んでいった。
「何をしている? 大口叩いてその程度しか出来ないのか!」
だが、光が広がっただけで何も起こらなかった。
ラファエルは、スノーフィリアの無意味な行動に酷く憤ると、再び女神を捕らえようと無数の木の根や蔓を差し向ける。
創造された存在たちは、女神と神樹との間に入ってどうにか攻撃を防ごうとした。
その時だった。




