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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Last ∞th Part. 地に墜ちた雪花は、天へと昇る
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223. Wrath of God

 神樹ラファエルに捕らわれたスノーフィリアを、どうにか救出した一行であったが……。


「形勢逆転……と言いたいけれど」

 天使の姿の女王は、最愛の使用人の胸に抱かれたまま目を開けない。

「スノーフィリア様! スノーフィリア様!」

 ルリフィーネは何度も体を揺すってみるが、まるで死んだように動かないままだ。


「目覚めないわね」

 このままスノーフィリアと全員の力を合わせ、一気に神を打ち倒すもくろみだったサクヤは、またもや自身の思い通りにいかない事を察して表情を曇らせた。


「来る!」

 そんな中、セーラがそう告げると自らの翼で飛び、サクヤも同じ方法でこの場所から離れ、ルリフィーネは主君を抱えたまま大きく跳躍して後方へと下がる。


 全員が離れた直後、槍の様に鋭い木の根が固い地面を貫く。

 もしも、逃げる事をしなければ串刺しになっており、結果的に大事には至らなかったとはいえ三人の背筋が凍った。


「愚かな……、愚かな虫けら共め……!」

 取り込んだスノーフィリアを奪われたラファエルには、今までのような穏やかで母性溢れる面持ちは無く、歪んだ顔に憎悪を満たしながら三人へ吐き捨てる様にそう言った。


「”お母様”、折角の綺麗な顔が大変な事になっておりますよ」

 サクヤはそんな露骨に悔しがるラファエルへ、敢えて笑顔を向けながら、まるで舞台の上に建つ役者の様にややオーバーリアクションぎみに手振りをしながらそう返す。


「お前に母親呼ばわりされる理由はない!!!」

 もはやラファエルには、サクヤの挑発を冷静に返す余裕は無かった。

 表情にさらなる怒りを満たしながら、再び木の根を伸ばして攻撃をしたが、サクヤはそれを難なく避けた。


「天界を救う、ひいてはこの人が住む地上や魔界を救うという事なのに……」

 ラファエルは黒く燃える感情を散々ばら撒いた後に、今度は瞳から大粒の涙をぽろぽろと零しながらそう訴えた。

 そんな気持ちの移り変わりの急変に、サクヤもルリフィーネも思わず身を引いてしまう。


「許さん……、お前達の命をもってしても許されない!!! 度し難き者達よ、魂の一欠けらすら残らないと思え!!!!」

 周囲が神の悲しみに包まれたと思いきや、今度は再び烈火のごとく怒り猛る感情を、自らの鞭のような蔓に宿して三人へとぶつけようとしてくる。


 三人は、この攻撃も避ける事が出来た。

 だが、鞭打たれた地面は大きく割れていた。

 それは、組織が生み出した切り札の肉体を、叩き切った時以上の威力がある事を示していた。


「主不在では、天界の中核を担う生命の樹を制御する事が出来ない。制御できなければ、新たな天使も生み出されなく、天界を維持する力も失われていく。私は生命を司る大天使、天界が滅び行く時間を延ばす事は出来ても、生命の樹の管理までは出来ない」

 強烈な攻撃を繰り出した後に、突然ラファエルが語りだした真実。

 それは、天使として目覚めたサクヤも知らなかった事実だった。


「ちょっと待って下さい。新たな天使が生まれないのならば、スノーフィリア様やサクヤは何故……?」

 怒れる神が、嘘をついているとも思えなかった。

 だからこそ、彼女が語った話の矛盾に気づいたルリフィーネは、少しだけ前のめりになって怒れる神へと問いかけた。


「生命の樹には特別な能力がある。主不在と判断すると自動で主の力を持つ天使を、地上へ産み落とすのだ……。もっとも、非常手段故に数える程しか行われないが……」

 誰も解らなかった二人の天使の出生の秘密。

 この時、途方も無い世界の理の片鱗に触れたせいか。

 普段は冷静なサクヤが、少し過呼吸ぎみだった。


「私以外にも他に天使は居た。当然彼女らも天界が滅ぶ事は解っていた、だから彼女達は地上に降りて主を探したり、将来的に天使の脅威になりうる存在の排除に努めた」

 それは、スノーフィリアが夢で見た光景に類似していた。

 だが、女王はその夢をこの場に居る誰にも語らなかった為、全員が次々舞い込んでくる真実に動揺していた。


「私は、二人を見送った後も新たな主の誕生をずっと待った。苦痛に耐え、力を使い続けて天界の維持を行い続けた」

「……それで、限界が来たというわけね」

「ああ、そうだ。美しかった天界がみるみると崩壊していく様を、目のあたりにしてきたからな……」

 自身の命や存在すらも投げ捨て、いつ訪れるか解らない希望にすがり続け、無限の苦しみの中孤独に戦い続けた歴史。

 それに触れたサクヤは、胸に手をあててラファエルに悲しげな眼差しを投げかけた。


「もう残された手立ては一つ、自らの命を賭して生命の樹と一つになる事。私は生命の樹と一つになり、どうにか樹の制御を出来る様になった」

「けれど天界は腐敗してしまい、いびつな形の天使が生まれたというわけね」

「そうだ」

「じゃあ、どうして地上まで巻き込むのですか?」

「元の美しい天界へ戻すには、主の力を宿した天使の力と、地上の四つの精霊の力が必要なのだ」

 何故翼が逆さまの天使が生まれたのか?

 スノーフィリアやサクヤがこの地上へ降り立ったのはどうしてか?

 ラファエルの思い、天使達の悲願。


「……それで、今更何故そんな説明をしたの? 私達を殺したくて仕方がないんでしょう?」

「自惚れるな下衆共、私はまだ諦めていない。お前達を抹消し、再びスノーフィリアと一つになれば、この世界は救われる!」

「そんな事はさせない! スノーフィリア様を守る!」

 それでも、ルリフィーネ達は大切な人を譲るわけにはいかなかった。

 三人は横たわって動かないスノーフィリアを囲み、ラファエルの手から守るように各々が背中を預け、神の怒りに立ち向かった。

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