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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Seventh Part. 日常から御祭へ
202/232

201. 答えのない戦い

 三人は村へと帰還する。

 ユキ、ルリフィーネ、マリネの無事な姿を見た村人達は、彼女達を取り囲むようにして次々と集まっていき、全員無傷である事を喜んだ。


「それで……、どうだった?」

「えっと、実は――」

 神妙な面持ちの村長と対面すると、ユキはこの一連の出来事について簡潔に伝えた。


「そんな事が……」

 そして、あまりにも壮絶で呆気ない最後を聞いた村長は、唸りながらそう一言だけ漏らし、視線を下へ向けた。


「皆様にはご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございません」

 結果としてユキ達に被害は及ばなかった。

 だが、危険な目にあわせてしまった事に対して、少年よりも先に村長が頭を深々と下げて謝罪した。


「ねえ、どうして私達を獣人の集落へ向かわせたの?」

「おいら、そこのメイドさんが凄い強い人だっての気づいてたんだ。だから悪い獣人をやっつけてくれるんじゃないかって思って……」

「……この子は元々輝きの国の生き残りで、両親は獣人達によって殺されてしまったのです」

 少年の言葉を聞いた瞬間、ユキは胸の中に圧し掛かる感情がさらに重量を増した。


「でも、それとこれは別だ。お前もちゃんと謝りなさい」

「お姉さん達を危ない目にあわせて、本当にごめんなさい」

 この時の少年のユキ達に対する謝罪には誠意があったが、それと同時に獣人達の不幸に関しては、一切気にしていないという意思も見られた。


「ねえ」

「うん?」

「獣人は今でも許せない?」

 ユキは少年と目線を合わせると、優しい笑顔で問いかける。


「ああ許せないよ。とーちゃんもかーちゃんもあいつらに殺された!」

 その問いに対して少年は、べそをかきながら強く訴えた。

「でも、あなたから全てを取り上げた獣人はもう居ないんだよ?」

 この子も、青年剣士も、弓士の青年も……。

 全員、気持ちは同じ。

 やり場の無い怒りと憤りを抱えていて、それは消える事なんて無い。

 ユキはそう思いながら、涙を見せないように何度も腕で目をこする少年を見つめた。


「今は幸せ?」

「み、村の人達はみんな良い人だし、孤児(みなしご)のおいらにも良くしてくれている」

「良かったね」

 人の悲しみを消す事は容易い事ではない。

 でも、悲しみよりも大きな幸せがあれば、人として生きていけるのではないか?


「ねね、もうちょっと大人になってもまだ気持ちが変わらなかったら、水神の国においで」

「な、何するんだよ? とーちゃんとかーちゃんを帰してくれるのか?」

「それは無理だけど、私が何とかするよ」

 そして、もしもこの少年がその幸せを見つけられなければ。

 私が手を差し伸べるしかない。


 この時、ユキはふと我に返り、今まで思ったことを振り返る。

 天使として目覚めた影響なのか、それとも今までの経験からなのか。

 自分でも自分らしくない思考や言葉に、戸惑いと照れくささを半分ずつ抱く。


「何とかって、お前もただの村娘じゃないか! 出来ない事言うなよ!」

 そうだ、手を差し伸べるには今の村娘のままでは駄目だ。

 女王でなければ……、女王であればこそ、救える人々も居る。


 そう思いながらユキは笑顔のまま、首から下げていた雪宝石のペンダントを外した。


「ううん、違うよ。私はスノーフィリア・アクアクラウン。水神の国で女王をやっているの」

「ユキ様!」

 それをする事によって、どうなるかを知っていたルリフィーネは、ユキの行動を止めようとした。

 だがユキは、そんなルリフィーネに目線で合図を送ると、外したペンダントを利き手で握ったまま、もう一度人々へ笑顔を向けた。


「スノーフィリア?」

「まさか水神の国の新女王か?」

「自ら出向いてくるとは……」

 地霊の国の辺境とも言える場所に、大国の主が来るとは誰も想像していなかった。

 そのせいか、呆然と立ち尽くす者と、村人同士で目の前に居る女王の真贋について話している者が大半だった。


「た、たとえお姉ちゃんが女王様でも、何をしてくれるっていうんだ!」

「あっ、待って!」

「誰もおいらの気持ちなんて解らないんだい!」

 少年にも驚きはあった。

 だが、たとえ強大な権力を持っていたとしても、一度失った大切な人々を蘇らせるなんて土台無理な事であるのは解っていた為、少年はその場から逃げるように走っていってしまった。


「数々の無礼、申し訳ございません。どうかこの場は私に免じて……」

 少年の行為は当然無礼に値する。

 他国とはいえ、彼女がその気になれば少年を処刑台送りにするのは容易だ。

 そう信じて止まない村長は、両手と頭を地面にこすりつけて何度も謝った。


「頭を上げてください、誰も悪くないのですから。そして、あの少年に伝えておいてください。あなたは一人じゃないと……」

「はい。必ず!」

 スノーフィリアはそんな村長に申し訳なさげにそう伝えながら、少年へ言伝をお願いすると、ルリフィーネとマリネと連れて村から去って行った。


 こうして三人は水神の国へ戻った。

 結局、ホワイトポーラーベアの黄色い毛は手に入らなかった……。

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