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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Seventh Part. 日常から御祭へ
201/232

200. 儚くも空虚な手向け

 圧倒的な憎悪を抱いた青年剣士の、あっけない幕切れを目の当たりにして動けずにいた時だった。


「陛下の身辺を騒がせてしまい、まことに申し訳ございません」

 弓士の青年が武器をしまうと膝を折り、水神の国の女王へ謝罪をする。

 この時、ユキの変身は解けており、村娘の姿に戻っていた。

 だが錯覚の魔術は既に効果を失っており、この場に居た全員にユキの正体がばれていた。


「あなたは……?」

「申し送れました。私は輝きの国の騎士団に所属していた兵士のヘンリーと言います」

 彼もまた悲劇に見舞われた一人なのだという事を知ると、ユキはとても悲しそうな表情をしながら、しゃがんで彼に愁いの眼差しを向けた。


「ねえ、どうして?」

 ユキは、何故青年剣士に止めをさしたのかを聞いた。

「先ほどもお伝えした通り、輝きの国を襲った者達は既にこの世にはおりません。……私の上官は、不毛な復讐心に駆られており、その様は最早人のものでは無かった。彼を止めるには……、こうするしか方法は無かったのです」

 弓士の青年は声のトーンを変えずに、淡々とユキへ報告していく。

 そんな彼の言動は、周囲の人々には冷徹で殺風景な印象を与えた。


 だが、一番側にいたユキだけは違っていた。

 何故なら、俯いていて他の人から見えなかった彼の顔には、悲しみとやりきれない思いが満ちており、それを見たからだった。


「これからどうするの?」

「輝きの国の跡地に墓地があります。そこで彼を埋葬します。かつて彼が親しんだ者達と共に……」

 本当にこれで良かったのか?

 青年剣士や無実の獣人達を救う手立てが、実はあったのではないか?

 全てが幸せになる世界は、傲慢にすぎないのか?

 ユキはそう思いながらもこの納得のいかない結末に胸を痛めつつ、弓士の青年に対して何も言う事が出来ずにいた。


「あの、あなたはどうするの……?」

「解りません。それを探す為に各地を回ってみるつもりです。では、私はこれにて失礼します」

 そして彼も、女王に答えを求めるような事はせず、ゆっくりと立ち上がり物言わなくなった青年剣士を担ぐと、この場から去っていってしまった。


「あの、女王様……」

 気まずい雰囲気の中、今まで静観していた獣人がユキへ話しかけてくる。

「ユキでいいよ」

「あんた……、あなた様が我々を救おうとして下さったのは感謝します」

 獣人はおぼつかない敬語で、なるべく失礼が無いようはからいながら、ユキに接しようとする。


「だが、もう俺達には関わらないでくれ。さっきの剣士を見て改めて思い知ったよ、やはり人とは理解しあえない」

 同族の死によって今はまだ憔悴しているから、何かをする事は無いだろう。

 しかし、もしも彼らの気持ちが変わって青年剣士のような凶行に出たなら、人と獣人の双方に無視できない被害が出るのは解りきっていた。


「俺達は、俺達で静かに暮らす。それでいいだろう?」

 復讐は復讐を呼ぶ。

 それを止めるには、悲しみを堪え、理不尽な行為に及んだ相手を許さなければならない。

 結局青年剣士はそれが出来ず、極端な考えに至ってしまった。


 今はまだ明確な答えは出ない。

 双方の痛みを癒す術を、ユキは思いつかない。


「……今すぐは無理かもしれない」

「えっ?」

「でも、必ず解る時が来る。私がそうさせて見せるから」

 それでも必ず解決してみせる。

 誰も不幸にさせない。

 ユキはそう思いながら、とても強い決意を一言だけ獣人達へ告げた。


「いこっか、ルリ、マリネ」

「はい」

「そうね」

 普段は助言をする二人も、女王の言葉を否定も肯定もしないまま、獣人の集落から去るユキに付いていった。

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