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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Seventh Part. 日常から御祭へ
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194. 希少品と、弾圧と、迫害と

 現地民の少年の言葉を信じ、一行は南へと歩いていく。


「到着したけれど……」

「どうみても廃墟よねえ」

 そしてたどり着いた場所は、想像していた町とは大きくかけ離れている場所だった。

 人の気配はまるで無く、朽ちた建物が複数連なる。

 そこは誰からも見捨てられ、時代の流れに取り残された空間。


 三人は整備されないまま、それなりの年月が経った道を、恐る恐る歩いていく。


「ルリ、どうしたの?」

 いつもなら、ルリフィーネは主人の前では優しい笑みを絶やさない。

 しかし、今の彼女の表情は強張っており、ユキは歩みを止めてその理由を問いかけた。


「ここへ来る道中から、ずっと誰かが私達を見張っていますね」

「えっ!?」

「……なんか、キナ臭いわね」

 マリネも気づいていたのか、そう言いつつカバンの中に忍ばせてある護身用の爆弾に手をかける。


「ユキ様、マリネ様、私から離れないで下さい」

「ええ」

「うん」

 今自身の置かれた状況を察したユキは雪宝石のペンダントをぎゅっと握り、いつでも変身出来るようにした。

 全員が互いの背中を預け、敵がどこから来てもいいように身構える。


「……」

 緊迫した時間が流れ出す。

 各々は無言のまま、周囲に気を配りながら、襲ってくるであろう敵にいつでも対処出来るようにした。


 だが次の瞬間、彼女達は意外な現実に直面する。


「人間が、ここから出て行け!」

 廃屋の影から出てきた者。

 それは褐色の肌をした、頭に小さな角がついている子供達だった。

 子供達はユキ達にそう叫びながら、持っていた石ころを投げつける。

 石ころは誰にも当たる事無く、ユキの足元に転がっていった。


 子供達にあわせて、建物の影から次々と人々が出てきた。

 それら人々は先に出てきた子供達と同様、褐色の肌を持ち、頭に小さな角がついていた。


「獣人……?」

 彼らの特徴から、この廃墟は獣人達が住んでいる場所だという事を理解する。


 獣人とは、人と同じ様に二足歩行をする、獣のような見た目を持つ人種である。

 起源は古の時に人と悪魔が交わり生まれた者、悪趣味な魔術師によって普通の人間が改造され、そのまま生き延びて繁殖した等、様々な予想や考察がされてきたが、どれも確固たる証拠は無く推測の域を超えない。


 だがその醜悪な見た目と、獣人の中でもごく一部の悪逆非道な行いする者のせいによって、人々から弾圧された過去があった。


「なるほど、そういう事ね」

 この人々が住み着かない廃墟、地霊の国の辺境にある捨てられた町は、そんな彼らの最後の居場所であるとマリネは察すると、カバンの中に入れていた手を外へ出し……。


「私は水神の国の貴族であり、議員を務めているマリネよ。あなた達に危害を加えにきたわけではないわ」

 両手をあげ、大声で傷つける為に来ていない事を告げた。


「水神……、四大大国の?」

「貴族? どうしてここに?」

「何の目的でいったい……」

 差別と迫害と虐待の歴史は長く、そして根深い。

 当然人に対する不信感も比例して大きく、本来ならば民衆を煽り、獣人達を率先して弾圧してきた身分の人間がいる事に大きな疑問と不快感を露にした。


「あなたがここの責任者みたいね」

「……ああ」

 マリネは、一際装飾が派手な剣を持ち、見慣れない趣向のアミュレットを付けている獣人の男へと話しかける。

 彼女の予想通り、彼がここ居る獣人を仕切っている長的存在のようだ。


「手厚い歓迎、感謝するわ」

「……」

 マリネは腕を組んで皮肉をこめながらそう言うと、獣人の長は表情こそ変えないが、構えていた武器をゆっくりとしまった。


「早速だけど聞きたい事があるの、ホワイトポーラーベアの黄色い毛を探しているの、どこにあるか知らない?」

「何故お前達に教える必要がある?」

 その口ぶりから、彼らが何らかの情報を持っているという事は、マリネの後ろで話を聞いていた二人も理解した。

 だが、その情報を引き出すのはとても難しいという事を察すると、ユキは自分でも意識していないうちにルリフィーネの手をぎゅっと握った。


「……対価は?」

「我々の元同胞を殺して欲しい」

 マリネも一筋縄ではいかないと思っており、体勢はそのままで相応のお礼をする事を告げると、獣人の長は視線を逸らさずに危険な発言をした。


「随分物騒ね?」

「あいつらは我々の恥であり、人との理解を妨げるのだ」

「ねえ、どういう事なの?」

 彼らの言っている言葉は解ったが、経緯や背景がまるで見えなかったユキは、ルリフィーネの手を離すと、少し躊躇いつつも彼らへと疑問をぶつけた。


「あいつらはここから東にある洞窟をねぐらとしている。ホワイトポーラーベアの黄色い毛は、あいつらの首と引き換えだ」

「あ、ちょっと!」

 しかし、彼らはユキの言葉を無視し、一方的に要求だけ伝えると再び建物の影へと消えてしまう。

 すかさずルリフィーネは後を追ったが、彼らの姿や気配は一切見つからなかったのか、無言のまま首を横に振った。


「いよいよ危なくなってきたわね」

「ここは……、従うべきなのでしょうか? どうされますか、ユキ様」

 伝説の吟遊詩人を求め、地霊の国の辺境まで来てしまった。

 そしてたどり着いたのは、獣人殺害の依頼。


「話を聞けば、何か解るかもしれない」

「そうね、行かないという選択肢はないわね」

「かしこまりました」

 たとえそれが彼らの望みであったとしても、素直に受けるわけにはいかない。

 理由をしらずに命を奪ってしまえば必ず後悔するし、そもそも誰かの命を気安く奪う事なんて出来ない。

 ユキはそう思いながら、とりあえずは話し合いをしたい旨を伝えると、他の二人はユキの選択に笑顔で同意し、一行は獣人の長が言っていた東にある洞窟へと向かった。

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