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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Seventh Part. 日常から御祭へ
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193. 問いかけの解に至る道のり

 ユキ達が手分けして、ホワイトポーラーベアの黄色い毛を探してから、しばらくの時が経った。


「うーん……」

 ユキは恐る恐る近寄り、白い毛並みの熊を様々な角度から見た。

 しかし、黄色い毛は見当たらなかった。


「これも違う……」

 マリネは白熊と同じ目線になるまで腰を落としながら近寄り、敵ではない事をアピールしつつ、白い熊の毛を掻き分けて探った。

 しかし、黄色い毛は見当たらなかった。


「どれも白いですね……」

 ルリフィーネも他の二人と同様に近寄ったが、熊側はその場で置物のように動かなくなってしまう。

 最強の使用人の強さを本能で察知したのだが、熊を驚かせた当人はそんな事を知る由も無い。

 全く動かなかったため、体の隅々まで探すことできた。

 しかし、黄色い毛は見当たらなかった。


「もー! ホワイトポーラーベアの黄色い毛ってなんなのよ!」

 ついに業を煮やしたマリネは、その場で地団駄を踏みながら叫んでしまう。

「マリネさん、大声を出したら逃げてしまいますよ」

「ああっ、ごめんなさいねえ」

 ホワイトポーラーベアは、大きい体格に似合わず大人しい生き物だ。

 繁殖期の母子や餓えた個体に近寄らなければ、余程の事が無い限り襲ってこない。

 だからこそ、大声を出せば熊達は驚いてしまうのだ。

 事実、側に居たホワイトポーラーベアはマリネの方を見つめている。


「んー……、そんなの本当にあるんかなあ……」

 苛立ちは、当然ユキ達にもあった。

 この場に居る十数体、全てを確認した。

 それでも黄色い毛なんてどこにも存在しない。


 白い熊の黄色い毛。

 そもそもそれが、でまかせのでたらめなのではないのだろうか?

 三人の心中に、依頼主である村娘に対する不信感が芽生えた時だった。


「姉ちゃん達、見慣れない顔だけど別のとこから来た人~?」

 釣り道具を持ち歩いた、現地に住んでいると思われる褐色の少年が話しかけてきた。


「うん、水神の国から来たの」

「ふーん」

 ユキは正直に少年へ回答をしたが、聞いた少年はつまらなさそうに返事をしただけだった。


「ねえ、ホワイトポーラーベアの黄色い毛って知ってる?」

 正直、ユキは彼に期待していなかった。

 現地民とはいえ、あれだけ探しても見当たらない代物について知っているとは思えなかったからだ。


「おいら持ってるよ」

「えっ!?」

 だが、予想を良い意味で裏切る答えを聞いた時、ユキは思わずワントーン高い声を出してしまう。

「よければ、譲ってくれないかな?」

 そして、千載一遇のチャンスを逃さないようにするため、すかさず少年に対して交渉を持ちかけた。

「いいよ」

「本当!? ありがとう!」

 少年は、一切の躊躇いも無くユキの願いを聞き入れたのだ。

 まさかこんな簡単に、かつ想像もつかなかった所で手に入るとは思っていなかったユキは、目を輝かせて少年にお礼をしながら感謝の意を示した。


「五十万ゴールドね」

 しかし、少年が少年らしくない金額を提示してきた途端、ユキの喜びは固まってしまう。


「申し訳ございません、旅費に不自由の無い程度には持ってきましたが、ここで五十万ゴールド使うと帰りの船が乗れなくなってしまいます」

「貴重な品物かもしれないけれど、毛が五十万はちょっとねえ……」

 五十万ゴールドは大金である。

 女王として、日々の食い扶持に困らない身分として過ごしていてもその事は解っていた。

 ルリフィーネは、ユキに惨めな思いをさせないように最大限の準備はしてきたが、それでもこの場でその金額を払えるほどは持っていなかった。


「う、うーん……。ちょっと高いかな」

 国に戻れば払えない金額ではない。

 そして今この状況は、女王である事を告げればどうにかなる事態なのかもしれない。

 だが、無闇に正体を明かせば大事になってしまうのは解っていた。

 さらにマリネの言うとおり、たかが毛だけで五十万ゴールドという大金を出すわけにもいかなかった。


「残念だね」

 ユキの断りの返事に残念がると思われた少年だった。

 だが彼は頭の後ろで手を組み、何ともなさそうな雰囲気を装いながらそう言った。


「ねえ、一ついいかな?」

「んー? 金額はまけないよ?」

「黄色い毛、どうやって手に入れたの?」

 自身の変身や召喚能力、博識なマリネと身体能力が高いルリフィーネ。

 これらを生かせば、不可能な事なんて無い。

 そう思ったユキは、黄色い毛の採取方法を少年へと問いかける。


「五十万ゴールドね」

 だが少年は、情報にも対価を要求してきた。

 この時に彼が見せた意地悪い笑みは、さすがのユキも呆れさせてしまい、ルリフィーネとマリネにいたっては顔をしかめて不快感を露にしてしまう。


「話にならないわね。宿に戻って別の方法を考えましょ」

「うん」

 ただでさえ時間が追われている状況で、この少年の話に付き合う時間なんて無い。

 全員が同じ考えを持ち、改めて作戦を練るために宿へ戻ろうとした。


「そんなに欲しいの?」

「そうだよ」

「ユキ様。もういいですよ、交渉は終わりました」

 その時、少年は横目でユキ達を見ながら再び呼び止めた。

 しかし、彼の守銭奴的な態度に嫌気がさしていたルリフィーネは、足を止めるユキにそう言った。


「ま、待ってよ! ここからさらに南方に小さな町があるんだけどさ。そこの住民なら知ってるよ」

「……どうして情報を」

 少年は多少慌てながら、新たな情報を提示する。

 それは本来ならば、喜ばしい事だった。

 だがユキ達はそれ以上に、”何故今更この少年は黄色い毛の情報を言ったのか”が気になってしまい、疑惑の視線を投げかけた。


「き、気分が変わっただけだい! じゃあね!」

 そんな冷たい視線に耐えられなくなった少年は、三歩程度後ずさりをしながらそう言うと、全力で走っていってしまう。


「行ってみましょう」

 少年の急な心変わりが気になる一行だったが、有力な情報である事には変わりなかった。

「うん」

「了解~」

 その情報が嘘であったとしても、本当であったとしても、確かめる以外に選択肢は無かったため、一行は南の町へ向かう事を決める。

 この時ユキは、自分でも意識せずに雪宝石のペンダントをぎゅっと握っていた。

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