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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Seventh Part. 日常から御祭へ
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191. 天使の思い出 ~黒い祈りに立ち向かう者達~

 ユキの目の前には二人の天使が居た。


 一人は栗色の長い髪に白いドレスを着た、穏やかで優しげな天使。

 もう一人は、その天使の逆の印象を他者に与える、黒いドレスの天使。


「あなたは全ての破壊を望んだ、だから私が生まれた、私は秩序も法も自由も平等も命も思いも……、壊せるモノは何でも壊す。そうね、……と言うべきなのかしら?」

「私はあの時、自分の弱さで狂気に身を委ねてしまいました。その結果、あなたと言う恐ろしい存在が生まれたのです。ここであなたを、……自身の狂気を超えなければこの先の未来は無い!」

 二体の天使がそれぞれの思いを発露されると、お互いに持っていた剣で戦いを始める。

 お互いの力はほぼ互角……のようにみえた。


「全てを穿つ貫通の神光、ピアシングオブディバイニティ!」

 そんな二体の拮抗していた戦いに、もう一人の天使が割り込む。

 彼女は他の二体と比べて小柄で、金髪のセミロングと小柄な体つきから、子供っぽい印象が強い。

 だが、彼女の攻撃はその愛らしい見た目とは裏腹にあまりにも速く、鋭く、そして莫大なエネルギーを伴っており、さながら空に流れる星のように移動して距離を縮めると、突きたてた剣で黒いドレスの天使を貫いた。


「どうして解らないの? 私には何も効かないの。私は恐怖、見るものによって悪霊、邪龍、もう一人の自分、憧れの誰か……。そう、それはあなたが恐れている存在」

 しかし、黒いドレスの天使は平然とした顔のまま、白いドレスの天使の方を向き、胸に手を当てて目を閉じた。


「私の姿が自分自身に見えるのならば、それは自分を恐れているという事。それもあなたがとびっきり絶望した時に生まれたのだから、今のあなたじゃ敵わない」

 ユキは愕然とした。

 なんと、天使の少女の攻撃が、黒いドレスの天使の体をすり抜けたのだ。


 何故天使が二体がかりで挑むのか。

 その訳を理解したユキは、固唾を飲んでこの明確な逆境を見守った。


「それでも、立ち向かわなければならない。向き合わなければいけない。もう私は逃げない! 私は……を守ってみせる!」

 それでも、白いドレスの天使との少女の天使は、一切諦めていなかった。

 まるで親子のように寄り添い、互いを慕いあった。

 二体がどんな経緯で知り合い、今この状況に至ったかは、今のユキには解らない。

 しかし、彼女達が深い絆で繋がれているという事は解った。


「私は全てを拒み続ける! 誰にも私は理解されないし私も理解はしない! 何もかも全部全部全部壊れてしまえ!」

 黒いドレスの天使が、狂気に満ちた表情でそう叫ぶと同時に、二体の天使は攻撃を仕掛ける。

 白いドレスの天使は、先端に翼飾りのついた長杖を取り出すと、黄金色の輝きをばらまきながら杖へ力を籠めて解き放った。

 天使の少女は白銀色の光をその身に纏うと、細く尖った剣を突きたてながら、敵に向かって凄まじい勢いと力を伴って落下した。


 そんな二体の強大な力を、黒いドレスの天使は両手を広げて迎え撃つ。

 各々の力がぶつかると、世界は目が瞑ってしまう程の輝きに包まれてしまい、ユキは意識を失った。



「ん……。あれ?」

 ユキは再び気がつく。

 目の前には、今まで戦っていた天使達ではなく、ルリフィーネとマリネが居た。


「おはようユキちゃん」

「眠っていたのですよ。お体の具合は大丈夫ですか?」

 どうやら夢から覚めたらしい。

 そう思いながらユキは、瞼の重くなっている目を何度かこすると……。


「うん、大丈夫。心配かけてごめんね」

 二人を不安にさせないよう、笑顔を見せた。


 今ユキは、王室専用の船ではなく、平民達が使用する定期便に乗っている。

 それは国賓として迎えられれば園遊会や、高い役職に就く者へ挨拶をしなければならず、三日という短い日程では、その様な事をしていては絶対に間に合わない。

 故に、動きやすい身分を装ったのだ。


「ねえルリ」

「はい」

「私、何か言ってなかった?」

 ユキは夢で見た内容を、無意識のうちに呟いていないか確認する。


「いいえ、どうかなされましたか?」

「ううん、それならいいの」

 ユキが見た夢。

 それはまやかしや空想なんかではない。

 実際、過去に起きた出来事を見ている。

 夢と言うよりは過去の回想、天使達の記憶の片鱗だと言うのは、誰が証明したわけでもないまま理解出来た。


 だが、どうしてこのタイミングなのか?

 何故あの内容をなのか?

 詳しい事までは解らないまま。

 ただ、幾度かに及ぶ変身の影響だろうという事は、漠然と感じていた。


 ユキは、ルリフィーネに相談しようと思った。

 だが、夢の内容があまりにも突拍子がなく、ユキ自身もどう説明すればいいか解らなかった為、今はまだ自身の胸にしまっておく事を決めながらも、船の窓から見える海鳥達が飛び交う青き水平を眺めた。

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