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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Sixth Part. 国から国へ
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172. ルリフィーネの旅 ~再び出会う時②~

 ルリフィーネは会場へと到着し、一般客に混じってコロシアムの観客席へと座る。

 白いメイド衣装と端麗な容姿から周囲の人は彼女の事を噂したが、火竜の国の元国王に仕えていてかつ究極の格闘術を身につけ、水神の国の女王に仕える最高メイドであり、そして機械の世界で生まれた存在だというまでは誰にも気づかれない。

 時折、噂する人らと目が合ったが、ルリフィーネはそっと笑顔を返すだけだった。


 そんなささいなやり取りの中、コロシアム全域は昼間にも関わらず、まるで真夜中のように暗くなってしまう。

 突然の出来事に、がやがやと観客達もざわめきだした時だった。


「強者とは何か?」

 コロシアムの中央、これから猛者達が玉座を目指して戦う円形の石畳の一部だけが明るくなり、そこには本大会の司会進行と審判を務める国の高官が立ち、強い口調でそう一言だけ観客へ問いかける。


「極限まで己が肉体を鍛えぬき、拳一つで大地を叩き割る者か、あるいは研ぎ澄まされた精神によって千の兵を震え上がらせる者か」

 問いかけに答えられず、たくさんの人々が居るにも関わらず静かになっていく中、高官は口調を変えず語り始める。


「真の答えは誰にも解らない。……ですが、これだけは言えるでしょう。これから始まる戦いを生き残った者こそ、その強者に相応しい者であると!!」

 そして高官の語りが終わると、コロシアム内は再び真っ暗になり……。


「さあ、全世界十万の格闘ファンの皆様! お待たせしました! これより火竜の国、国王決定戦を開催します!」

 その一声と共に、今まで暗闇に覆われていた会場は、一気に真昼と同じ明るさとなる。

 それと同時に今まで蓄えられていた観客の熱が爆発し、コロシアム全体を揺るがす程の声となって発露した。


「今回は、勝ちぬけによるトーナメント方式! そして、最後まで生き残った強者が、現国王であるフィレ・テンダーロイン陛下への挑戦権を獲得出来ます!」

 国王決定戦は、その時の国王がルールを作るのが慣習となっている。

 そのルールも様々で、ある時は相手が命尽きるまで戦い続ける時もあったり、またある時はとても重い甲冑を着て戦う時もあった。


「ルールはいたってシンプル! 腰と両手が地面に着けば負け! それ以外ならばたとえ深手を追おうとも戦う意思があるとみなし続行となります! また、魔術以外ならばどんな武器や道具を使用しても問題ありません!」

 だが、そんな自由なルールにも一部例外はある。

 一つは魔術やそれに類する行為の禁止。

 これは魔術による直接攻撃や妨害は勿論だが、身体能力の強化も禁じられている。

 純粋な力と技を用いた真剣勝負を信条としているので、これは当然の取り決めだ。

 もう一つは国王決定戦は、火竜の国の都内にあるコロシアムで行う事。

 この取り決めには背景があり、過去に国王が自身の有利な場所を選び続けて戦いを勝ち続け、玉座を不当に占拠し続けたからである。


「それでは早速始めていきましょう! 第一回戦、出場者段上へ!」

 現行のルールが何故そうなったかは決めた国王以外知らないが、今回は特別なルールではない事に、ルリフィーネ自身は不参加にも関わらずどこか胸を撫で下ろしてしまう。


「余程の事が無ければ、サラマンドラさんがフィレと戦う……」

 ルリフィーネの心中には、驕りや自惚れという感情は無い。

 極竜の闘法を身に着けた闘士は、”勝って当たり前”だからだ。

 それだけ強力で圧倒的な格闘術なのだ。


「でも、やっぱりフィレは生きていた。生還していたって言うの?」

 だからこそ、唯一かつ最大の敵は、同じ流派のフィレだった。

 彼女がこの国に戻り、傷を癒して戦えるようになった。


 しかも、彼女はサラマンドラの国王の全力を見た。

 それは、”彼の暴力に対して確実な対抗策を用意してきている”という事である。


 ルリフィーネは拳をぐっと握り締めた。

 この時、彼女の手の中が、じわりと汗ばんだ。



 大会は順調に、そして特別な事も起こらず進行していく。

 参加する人々も国内の有名な道場の門下生や、在野の格闘家、一見非力そうな女子供、老人と様々だ。

 彼らは持てる全ての力を使い、相手を打ち負かし勝ち進んでいく。


 そんな中、ルリフィーネを驚かせる戦いが始まろうとしていた。


「さあ次の試合! 元国王サラマンドラ対、素性が謎に包まれた寡黙の格闘少女アルパ!」

 なんと、サラマンドラやルリフィーネの師であるシウバと共に生活していた少女が、この大会に参加していたのだ。


「何でお前がここにいる?」

「……」

 まさかアルパが参加しているとは思ってもいなかったため、普段から山のようにどっしりと構えているサラマンドラも驚きを隠せずにいる。


「ジジイの差し金か?」

「……」

 どういう理由でここへ来たかを問いかけたが、元々無口なアルパは当然喋らなかった。


「試合開始!」

 そして、審判の試合が始まる合図と共に、アルパは腰を落としてサラマンドラの方を見据える。


「俺の前に立つって事は、別に倒してもいいって事だよな?」

「……」

 やる気は見せたが、師であるシウバの世話をしてくれている立場であり、再起不能にしたらまず間違いなくシウバから制裁を受ける事が解っていた。

 そもそも、サラマンドラは弱い者いじめを好むような酔狂ではないため、特別な訓練をされていないと思われるアルパに対してどう接すればよいか解らず、終始困惑していた。


 だが、その迷いは杞憂に終わる事となる。

「くっ! てめえ……!」

 戸惑うサラマンドラに対してアルパは、一気に間合いを詰めると、手の平で彼の筋肉が隆々とした腹部を強打すると、アルパの倍近くはあるサラマンドラの巨体が石畳三つ分程後方へ下がったのだ。


「面白いじゃないか、やってやる」

 アルパの一撃でサラマンドラは悟った。

 この少女は、理由こそ不明だが同じ極竜の闘法を身に着けていると。


「ふん!」

 世話役の少女を、一人の闘士と認めたサラマンドラは容赦しなかった。

 速さを伴った、力強い拳を彼女の急所めがけて幾度も振るった。

 しかし、アルパはその全てを腕や足を使って受け止め、受け流していく。


「凄い……、サラマンドラさんと互角に渡り歩いている……」

 まさかこんな展開になるとは、ルリフィーネも予想をしていなかった。

 サラマンドラと同じく、何故アルパがこの場に立っているのかを疑問に思いながらも、二人の戦いを今までで最も集中して見守った。


「そういえば、私が倒れているときは一人で運んでくれましたね」

 二人の攻防を見て、ルリフィーネは少し昔を思い出した。

 川に流れ着き、シウバの小屋まで一人で運んだ。

 アルパの体格は、スノーフィリアやミズカと大して変わらない。

 それのに、そこまで出来るのは何か修行をしていたに違いない。

 今までは黙っていて解らなかったけれども、まさかここまで凄いなんて!


「あの元国王が押されているなんて!」

「いいぞアルパ!」

「やれやれー!」

 他の観客もルリフィーネと同様、この大会はサラマンドラが勝ち抜いてフィレへ挑むと疑わなかった。

 故に、思わぬ展開に白熱し、アルパの善戦っぷりに彼女を応援する者も出てきた。


「痺れるじゃないか。いつの間にそんな重い攻撃を身につけた?」

「……」

 今まで互いを確認し合うように拳を打ち合った。

 その均衡を崩したのは、意外にもサラマンドラの方だった。

 彼はしなやかな尻尾と強靭な足蹴りによって間合いを開けると、今までアルパの攻撃を防いでいた腕をぶらぶらと振って疲労回復に努める。

 この間もアルパは構えを解かず、じっとサラマンドラの方を見ていた。


「どうやら、手を抜ける相手じゃないようだな。いいだろう!」

「あれは!」

「お前にも見せてやる。これが覇王竜の構えだッ!!!」

 そう言うと、サラマンドラの表情が怒り狂った悪魔のように険しく凶悪なものへと変わり、彼自身の体毛が逆立つと同時に、赤黒い波動を周囲にばらまく。

 彼の禍々しい力のせいか、周囲の観客の中には小刻みに震えだす者や、寒がる者まで現れだした。


「ジジイ、悪く思うなよッ! 修羅滅龍撃ッッ!!!」

 そして広げた両手をぐっと強く握り、技の名前を叫ぶと共に利き腕をアルパの方へと突き出すと、今まで体から迸っていた赤黒い波動が竜巻状となってアルパへと襲いかかった!

 あの攻撃を受けて無事ではすまない、アルパがこのままでは危ない!

 そうルリフィーネが思い、最悪彼女を救出する必要があると感じて身を乗り出した瞬間だった。

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