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ゆきひめ ~六花天成譚詩曲~  作者: いのれん
Omnibus Part 始まりから転機へ
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140. スノーフィリアの旅 ~霧篭りの大賢者編③~

「うがー!」

 村の入り口から、モンスターが現れる!

 モンスターは口を開け、両手を振るい、一直線に大賢者の少年の方へと突っ込んでくる!!!


「来たな、また返り討ちにしてやるっ!」

 大賢者の少年は、呪文を唱える準備をする!


「相手のレベルは33か。ならこの程度でいいか。爆発地獄連撃!」

 ズババババ!!!

 ドゴゴゴオオオンン!!!!


「ギャウウウ!」

 ドドドドドドド!

 大賢者の少年の魔術を受けても、モンスターはまだ突撃をやめない!


「HPを読み間違えたか。ならばこれならどうだ! 滅魔真剣!」

 ザザザザザザ!!!

 キィーン!!!!

 ズバババ!!!!!


「グガガガーーー!!!!」

「これでとどめっ! はぁぁっ!!!」

 シュィィィイイン!!

 ピキィーン!!

 シャキィィィン!!!!


 モンスターは地に伏せた。


「ググググゥゥ」

「助けて欲しいのか?」

「だが駄目だッ!」

 グシャアァァ!!


 モンスターは死んだ。


「キャー凄い!」

「流石は大賢者様! 凄すぎますぅ~!」

「あんな化け物を簡単に倒してしまうとは流石だ」

「えっ、僕また凄い事しちゃいましたか?」

 村の外から現れた”モンスター”と呼ばれる怪物は、大賢者の少年によっていとも容易く倒されてしまった。

 あのまま放っておけば、”モンスター”の手で村は滅茶苦茶になっていたのは、ユキ達でも十分理解出来た。


「な、なにこれ……」

「……いろいろとおかしいですね」

 しかし、そうであったとしても……。

 この出来事の顛末はまるで、”大賢者の少年の引き立て役として登場し、無残な最期を遂げた”としか思えなかった。


 二人はそんな茶番を見て、ただ呆然としてしまっていた。

 そしてこの村に来てから、不自然にあの大賢者の少年が凄いという事しか見せられていないという事に気づいた。


「こんなのってないよ!」

 あまりにも理不尽で都合よすぎる展開が、逆に理不尽な気がしてならないユキは、村人達にチヤホヤされている少年を見たまま叫び、やりきれない気持ちを発散させようとした。


「はぁ、頭が頭痛ね……」

「サクヤも移ってるし……」

「……失礼」

 サクヤもこのどうしようもない状況に対して酷く頭を痛めながら、一つ咳払いをした後に自身が発した言葉がおかしい事を少し視線をユキから逸らしながら訂正した。


「とりあえず、ルリフィーネを連れて宿へ戻りましょう」

「うん」

 このままこの場所に居ても、何の益も無い。

 そう察した二人は、大賢者を称える集団の中からルリフィーネを無理矢理ひっぱり、村の宿へと戻っていった。



 ――その日の夜。

 宿で夜の食事を済ませた一行は、今後の身の振り方について話していた。


「どういう原理かは解らないけれど、ここに居たらおかしくなってしまうわ」

「そうだね」

「日が昇ったらすぐにここを出ましょう。それでいいかしら?」

「うん」

 その正体が魔術か、それとも全く別の術なのか。

 ”大賢者の少年が無意味に活躍してしまい、周囲を魅了してしまう”未知の力の前に、恐怖すら感じていた二人は、早々にこの村を脱出する事を確認し合う。


「今日はもう休みましょう」

「ルリもおやすみ」

「……はい、おやすみなさいませ」

 そして各々は夜の外出も控え、水浴びもしないまま床へ付いた。

 この時もルリフィーネは、どこか虚ろでほうけていた。



 村人もユキやサクヤも寝静まった夜。

 村の宿から、人影が一つ外へ出て行く。


 人影はゆらりゆらりと歩いていき、やがてある家へと辿りつくと、何の躊躇いも無く中へと入っていった。


「……君なら来てくれると思ってたよ。確か、ルリって呼ばれてたね」

 人影の正体は、ユキの専属使用人であるルリフィーネだった。

 大賢者の少年がそう言うと、ルリフィーネは一つだけ静かに弱々しく頷き、息づかいが少し荒くされたまま腰で結ってたエプロンのリボンを解いていく。


「ルリ、本当にいいのかい?」

 エプロンを脱ぎ終えたルリフィーネは、まるで今の自身の心を表すかのように口を少しだけ開けたまま少年の質問にもう一度頷くと、純白のメイド衣装をするりするりと脱いでいった。


「実は、僕も君の事を一目見たときから気になっていたんだ」

 そして衣装と同じ色の下着だけの姿となったルリフィーネを、今まで窓際に立っていた少年はゆっくりと近寄っていき……。


「これからは、ずっと一緒……」

「大賢者さま……」

 月明かりが差す珠玉の素肌を露にしたルリフィーネを、そっと強く抱きしめる。

 ルリフィーネは頬を赤らめ、ユキにすら見せた事の無い表情と姿のまま、少年の永久の愛情を全身で受け止めようとした。

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