104. 突撃、研究施設
私とセーラちゃん、ミズカとマリネさんは隠れ家の近くにある、研究施設の跡地へと向かう事になった。
既に使われていないみたいだから何も無いとは思う。
だけど、それでも少なかれ収穫があればいいんだけどねえ。
そう思いながら、他愛のない会話をしつつ街道を歩いていく。
その道中にて。
「はぁ~、やっと外出れた。あのアジト、狭いし臭うし嫌なんだよね」
確かに新世界のアジト内は空気が淀んでいるし、ぱっと見た感じ男の人が多いような気はした。
私は小さい時からずっと男だらけの場所に居たから特別気にならないけど、ミズカのような年頃の子は気になるみたいだね。
「男ばかりだからね。仕方ないわよ」
確かにその通りなんだけど、それを性別上男性のマリネさんが言うのは不思議な感じがする。
……突っ込むのは野暮そうだから、黙っておこう。
「ねね、ホタルさん」
「違う」
「えっ?」
新世界のアジト内に居た、魔術師風の少女ミズカはとても可愛い。
ユキの時程……ではなにしろかなり胸キュンだ。
「ホタルお姉さまと呼びなさいっ!」
だから私は、ユキと同じ様に呼ばせようとした。
やっぱり可愛い子にはそう呼ばれたいよね。
そういう風に思うと、ふとラプラタ様と初めて出会った時に思わず避けてしまった事を思い出す。
今考えると、同属の匂いを嗅ぎ取ったというか。
するのは好きだけど、されるのは苦手というか。
「えー、うー、うーん。……ホタル……お姉さま」
そんな過去の記憶に浸っている中、ミズカは戸惑いながら顔を赤くして、私をお姉さまと言う。
はぁ、やっぱ可愛い。
この初々しさと恥じらいが堪らないよね。
「そういう趣味があるのね」
「ユキにも言わせている。ふっふん」
「楽しそうね?」
正直、楽しい。
最初ユキに言わせた時は、からかい半分だったけれど。
あの純粋無垢で可愛い顔のユキにお姉さまと言われ続けてから、どうも癖になっちゃったみたい。
「話は変わるけど、あなたの悪魔の力……、かなり凄いね」
「ほー、見ただけで解るの?」
まー、組織の兵隊を簡単にやっつけれたし、凄いといえば凄いのかも?
「ほら、鳥肌立ってるもの。ホタル”お姉さま”の周り、エーテルの濃度相当高い証拠だよ」
「そういうもんなんだ」
うーん。
別にマリネさんが私を呼ぶときはお姉さまつけなくてもいいかなと、”彼女”の白い肌がぶつぶつになっている様子を見ながら思った。
「それにしても、風精の国の宮廷魔術師長って何者だろう?」
「魔術の研究資料とか読んでいると彼女の名前が結構出てくるから、その手の権威なんだろうとは思っていた。でもまさかねえ……」
「権威なんだろうって何か他人行儀。マリネと同じ分野の人だから詳しく知ってると思った」
「学会の発表を遠くから見る程度で、直接話した事ないもの。あー、あの人凄いなーって感じ」
「いやいや、マリネだって凄いじゃん?」
「ミズカ、そう言ってくれると嬉しいわ」
科学が他の国よりも進歩している所の一番偉い人だから、かなり凄いんだろうなーとは、私も漠然と感じていた。
「私も正直、よく解らないかな! あははっ……」
だけど、ここまでとは思っていなかった。
悪魔化には適正はあるらしいけれども、それを差し引いても普通の人間をこんな風にしちゃうなんて。
私が昔、冗談でラプラタ様は悪魔って言ったけれど……。
人間とは思えない才能の持ち主って事だね、悪魔じみているって感じかな?
「マリネと良い友達になりそうじゃない? お互いに理系女子みたい?」
「そうねえ、是非一度話をしてみたいわね」
……マリネさんが女子というところには突っ込まないのかしら?
まあ研究者同士、話の通じるところはあるんだろうねえ。
少なくとも、私よりか話のレベルが合いそうだ。
そんな会話をしながらも一行は、すっかり冷えこんだ水神の国の大地を歩いてゆく。
道中、周りが寒がっている事以外は順調に進む事が出来た。
その結果、朝出発してかつ途中の村で休憩と食事を済ませても、日が暮れる前には目的地である研究施設の跡地へとたどり着くことが出来た。
「着いたわね」
普通の民家、どこにでもある雑貨屋、見慣れた修道院。
いたって普通の町だ。
研究施設があるなんてとても信じられないし、どこにもそれらしき建物は無さそうだけども……。
「ねえ、普通に町だよね?」
「なあマリネさん。そこそこ人居るけれど、本当にこんなところにあるの?」
既に使われていないであろう研究施設はこの町の中にあるらしく、私の視線の先には普通に生活を営んでいる人々の姿が見える。
勿論、町の人達は研究施設があるなんて知らない感じだ。
「そりゃあ、秘密裏にやってたわけだから、国も隠そうとするわよね。とりあえず宿をとって、住民が寝静まったら向かうわ」
「はーい」
「うん」
私は半信半疑のまま、とりあえずマリネさんの指示に従い宿をとった。
観光資源もなさそうな、ごく平凡かつ都からも離れた町のせいか、宿は私たち以外のお客は居なかった。
まあ、そっちの方が都合がいいんだけどもね。
そして、夜が更けて住民が寝静まった時。
「さあ、行くわよ」
新世界のメンバーは支度を終えると、いよいよ研究施設の跡地へと向かう。
宿に到着してから町の中を軽く散策してみたけれど、これといって怪しいところは見られなかった。
本当にあるのか、こんな場所に。
「ここよ」
到着した先は、はずれにある森の中の何の変哲も無い小屋だった。
マリネさんに言われなければ、農具や工具を置く為の場所だと思って特別気にもしない。
「これが研究施設?」
「うーん……」
こんなとこで何が出来るの?
やっぱり信じられないぞ。
それとも、組織が使っていた研究施設って聞いて私が勝手に凄いものを想像していただけか?
そう思っていた時だった。
「うわあっ!?」
マリネさんはカバンの中から、何やら細かい飾りのついた器具を取り出して操作すると、小屋の側にあった石畳が地響きと共に開いていく。
「さ、下へ行くわよ」
「こんな場所が隠されてたなんて……」
まさか地下にあるとはなー。
でもどうしてマリネさんは、扉を開けれたんだろう?
さっき使ってた道具が何か関係あるんかね。
兎も角、先に道が出来たし、奥へ入ってみますか。




