なななんさんから。妖怪町のお正月二次創作SS
「翔也さんっ、待って、誰も見ていないですからっ」
「む、無理、無理だろ、柄じゃないっ」
「お願い、一生のお願い!!ここに来るの夢だったのですっ」
今日は新年明けて最初の休日。年中無休に見える妖怪たちもちゃんとお休みがあって、やっと付き合う事が出来たわたしは翔也さんを何とか初デートに誘う事に成功し、翔也さんの天狗の羽でひとっ飛びにこのクローバーのお花畑に連れて来てもらったのですが、いざその場に着いたら、翔也さんが速攻で帰ろうとするのです。
な、なんで?!
「なんで、じゃねーよ!なにこのあははうふふ捕まえて見てごらんなさーいみたいなほよほよのお花畑の中で俺は何をせーちゅーねん、居たたまれんわーーーー!!!ほな、さいなら」
「翔也さん、待って待って、なんだか変な関西人みたいになってます、おかしいっ」
「こんな風景見せられたら頭もおかしくなるわっ!!!!」
見渡す限りの緑の葉に敷き詰められてクローバー。冬とは関係なく妖怪バリアで空調管理バッチリです的な軽くそよ風なんかも吹いている甘い香りたっぷりの雰囲気。
〝翔也さん、よつ葉のクローバー探しましょう?〟
〝翔也さん、花かんむり作っていいです?〟
〝翔也さん、手、繋いで走りませんか、あははうふふあはははは~~〟
「でーーーーーきるかぁぁぁーーー!!!」
「ああ!!翔也さん!!!」
翔也さんはバッサバッサと羽を広げて飛んで行ってしまったのです。
わたしは手を伸ばしてああ~とやっていたのだが天狗の羽に届くはずもなく、一人ぽつんと取り残されてしまいました。
「ああ……ただ一緒によつ葉のクローバーを探したかっただけなのに……」
崩れ落ちるように座ると、あたりは一面の白いシロツメクサとクローバー。
テナグサMEに花かんむりを作っていたらだんだんと眠くなって来てしまいました。
昨日興奮しすぎて寝付けれなかったのです。
「うう……翔也さんのばかぁ……」
一言文句だけを言うとわたしはこてんとクローバーの中で眠ってしまいました。
……ぉい
「……おいっ!」
「ふえぇ?」
「こんな所で寝てんじゃねーよっ」
夢?と薄め開けるとを目の前に山伏の足袋と草履が見えます。
「翔也さん?!」
がばりと起き上がるとふんっと腕を組んだ翔也さんが居ました。顔は、顔は見えません。天狗のお面をかぶっています。
「し、翔也さん?」
「……帰るぞ」
そう言うと、ずぼっとわたしに白い花かんむりを首輪のようにかけ、翔也さんも自分でずぼりとわたしのよりもさらに大きな首輪を首にかけてくれました。
「し、しょ……」
「……かんむりだと、飛んだ時に落ちるだろ、……考えろ。あほ」
「う、うあ……」
「んで? 走ればいいだろ?走ればっ!」
そう言うやいなや私の手を掴んで走り出したかと思うとすぐにがばりと腰を抱いて飛び上がったのです。
「わっわっ」
「しっかり掴まってろ、落ちる」
「ひ、ひゃい」
あっという間に眼下の花畑は小さくなり、翔也さんは西日に向かって羽ばたき始めました。
「し、翔也さん」
「なんだよ」
「ありがとう……」
「……おう」
わたしは嬉しくてぎゅむっと思わず抱きしめると、翔也さんはぐぐぐ、ぐるじい、と苦しみ出して速度が落ちたので、慌てて手を緩めると、馬鹿力め、と怒られてしまいました。
ごめんなさい、と謝りつつそれでも嬉しくて、見上げると、お面の後ろの耳が真っ赤だったから、ああ、わたしと同じ気持ちなんだと思って嬉しくなりました。
「翔也さん、また一緒に来ましょうねっ」
「あ、もう勘弁」
「なんでーーー?!」
叫ぶわたしと山伏天狗はふらふらとなりながらも西日を通って妖怪の村に帰って行きました。
fin
元々は、俺が書いたなななんさんへのレビューのお礼にと、なななんさんがかっぽーに載せていた物でした。
こちらに送っていただくに際して、妖怪町らしさをなんとかひねりだしていただきました。
こちらに送ってくださるのみならず、わざわざ一手間かけていただいて、ありがとうございました。