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第三話

「んん~今日はどんな仕事あるかな~っと」

 まだ昇り始めたばかりの朝日を浴びながらラルダは大きく伸びをした。そして軽快に駆け出した。早朝のランニングがラルダの日課なのだ。

「さて、今日も世界は平和かな~うん?」

 ランニングから帰るとポストに一通の手紙が投函されていた。手に取り裏を見ると、王国騎士団の紋章が描かれていた。

「軍からの手紙?」


 今日も多くの人でにぎわうルドイで、エルドたちはいつものように朝食を食べていた。先日のグロウダイル討伐以来、集まるのは三日ぶりだった。

「お前らそんなに筋肉痛がひどかったのか?」

「僕は二日くらいで治まったよ。部屋にこもってたけど」

「私は昨日までだるくて動く気にならなかった」

「もうちょっと体鍛えるようにしろよ」

「まずはランニングからかな?」

「運動嫌い」

 他愛ない会話をしていると、そこに金髪の女騎士がやってきた。

「おはよう三人とも」

「あ、ラルダさんおはようございます」

「おっす」

「・・・(ぺこり)」

「急なんだけど頼みがあって・・・もう仕事決めちゃってたりする?」

「まだですけど・・・どんな用事ですか?」

「軍からの呼び出しなんだよね」

「軍?」


 エルドたちは、ラルダに連れられて王国騎士団の南方支部へとやってきた。赤レンガで造られた司令部と兵舎が併設された巨大な施設で、多くの兵士達がトレーニングに励んでいた。

 その脇を通り、エルドたちは司令部にある応接室へと通された。

「意外な繋がりですね、軍との人脈なんて」

「普段は自由労働者の活動してるけど、たまに軍所属の兵隊として働いてんのよ」

「で、ここで何を待てばいいんだ?」

「暇」

「もうすぐ上官が来るから大人しくしてなさい」

 突然扉が開き、金髪オールバックの男がやってきた。見た目は三十半ばと言った感じだが、身に着けている軍服にはいくつもの勲章がつけられていた。

「おはようございます、セドリック准将」

 ラルダは敬礼をしながら上官へと挨拶をした。セドリックも薄く微笑み挨拶を返した。

「うむ、おはようラルダ軍曹。急な頼みで申し訳ない」

「いえ、問題ありません」

「で、君が選んできたのが彼らか」

「はい、まだ若くはありますが実力は十二分と確信しております」

 セドリックはエルドたちを一瞥し、ジェンスのほうを向いて話を始めた。

「君達には我々の仕事の手伝いをしてもらいたく来てもらった次第だ」

「手伝い、と言うのはどういったことでしょうか?」

「少し前から西にあるガヌン山脈にゴブリンの盗賊団が住み着いている。それを壊滅させてきて欲しいのだ」

「そういったことは軍の仕事では?」

「我が国の西側、セヴェニ王国はゴブリンが主要民族だ。そして現在のセヴェニ王国とは友好条約を結んでいる状況、軍隊がゴブリンを捕らえて外交問題にはしたくないのだ」

「犯罪を犯しているなら逮捕できるのでは?」

「現セヴェニ国王は人権派でな。どんな言いがかりをつけてくるかわかったものではない」

「それで僕達にどうしろと?」

「盗賊団を壊滅してきてくれればいい。後始末は我々がする」

「なるほど・・・少し時間をもらってもよろしいですか?」

「もちろんだ。ああ、別に強制ではないから安心したまえ。ただ、断る場合は作戦を口外しないように、一応極秘任務なんでね」


 セドリックは別の業務があると言って部屋を出て行った。

 エルドは不満そうな顔してドアのほうを睨みつけていた。

「あのおっさん、俺やマーシャのほう一切見なかったな」

「失礼」

「准将は見る目がある人だからね。あんた達じゃ話してもダメだと思ったんじゃない?」

「ラルダさん煽らないでくださいよ」

「・・・で、どうする?受けるの?」

「内容自体は難しそうではないけどね」

「報酬がどれくらいもらえるかだな、ラルダ?」

「きっちりしてるわねぇ」

「無償なら別の仕事するし?軍に借りなんか作ってもしょうがないだろ」

「完遂した時点で借りになる」

「一人・・・十万ビード位は欲しいかな、命の危険もあるわけだし」

「・・・受けるならそれ以上で話をつけてあげるわ、どう?」

「「「受ける」」」

 ラルダの交渉の結果、報酬は五十万ビードもらえることになった。加えて失敗したとしても罰則はないが、結果に関わらず一切の保障はしないという条件で固まった。


 エルドたちはすぐに馬車でガヌン山脈近くの町へ向かうことになった。馬車に揺られながら各々持ち物の確認をしていた。

「ねえマーシャ、この間使った火薬って今持ってる?」

「補充してきてる。はい」

「ん、ありがと」

 ジェンスはかばんから袋を取り出し、適当な大きさにちぎった粘土のようなものと火薬を混ぜ合わせて馴染ませ始めた。

「なんだその・・・粘土?みたいなの」

「武器だよ、こんなのしか間に合わなくて」

「火薬なんか混ぜ込んで・・・爆弾でも作ってんのかよ」

「ご名答、これはお手軽粘着爆弾だよ。たぶん前に作ったやつより強力なはずだよ」

「たぶんってお前・・・」

「マーシャは何書いてるの?」

「魔法陣、陣を介してなら魔法もちゃんと使える」

「でも略図で描いた魔法陣って効果薄いぞ?」

「ちゃんと描いてる。ほら」

 マーシャは手にしてた紙切れを裏返してみせた。そこには二重の円、その間に文字が書かれた図形が描かれていた。

「あ、本当だ。魔法文字もちゃんと書き込んである」

「・・・お前全部覚えてんのか?」

「当然。ちゃんと描いた方が強力だし。」

「そんな当たり前のように言えることじゃないけどなぁ」

「こうやって事前に描いておけばすぐに使える」

「ほ~・・・そんなこと考えたことなかったな」

「で、エルドはそれだけ?」

 ジェンスが指差した先にはいつもの鉄パイプが転がされていた。

「剣買うほどの余裕がまだねぇんだよ、悪かったな」

「そんなに高いの?」

「いや~何かと金の使い先があって剣まで回らないんだよな~」

「何に使ってるの?」

「仕送りとか奨学金の返済とかだな」

「家族思いなんだね~」

「まあ無理言って魔法使いになったからな。そのくらいはしねぇと」


 ティスタを出て六時間ほど経ち、目的地であるベガンへ到着した。日が傾き始めていたこともあり、騎士団の駐屯地で休憩を取って、翌朝作戦を開始することになった。

「そんなのんびりしてていいかの?」

「山を越える人の大半がこの町を通るわ。で、今はここで駐留してもらってるの」

「つまり被害者はでないと」

「ここを通る人たちはね。さ、あんた達はさっさと休みなさい」

「そうする」


「おいおい、テント一つだけかよ・・・」

 駐屯地の端に立てられた仮設テントは一つしかなかった。それもあまり大きいものではなく、四人ほどしか入れない大きさだった。

 ジェンスとマーシャは何も気にしていないようで、自分達の荷物を置いてスペースを確保していた。エルドもそれに続くように中へ入る。

「荷物置いたらギリギリだね」

「しかも寝袋だけ」

「お前ら男女混合ってことには一切突っ込まないのか」

「だって一つしかないし?」

「何かしてきたら容赦なくこの薬を飲ませる」

 マーシャがビンを取り出して見せた。中には見るからに毒々しい色をした液体が入っていた。

「・・・どんな薬なんだ?」

「この間の麻痺毒を強力にしたやつ。人間なら一ヶ月は動けなくなる」

「おっそろしい薬だな!?」

「何もしなかったらいいだけでしょ、もう・・・気にしすぎだよ」

「そう。この年まで思春期引きずるのは止めたほうがいい」

「うるせぇ、気を遣っただけだ」

「私は気にしないから、二人も気にしないで」

「わかったよ」

「へいへい」


 すっかり日が暮れた頃、夕食の案内にラルダがテントへやってきた。夕食を食べながら明日の作戦を話し合うらしい。

 駐屯所の食堂では一日の仕事や訓練を終えた兵士達であふれかえっていた。

 ジェンスは騒がしさにうんざりしながら席に着いた。

「ご飯くらいゆっくり食べたいなぁ」

「仕方ないでしょ、私達には時間がないんだから」

「というか急な話だよな。結構前から被害はあったんだろ?」

「確かに。前から住み着いたって言ってた」

「何か事情があったりするんですか?」

 ラルダは少しバツが悪そうな顔をして事情を話した。

「・・・被害報告は結構前からあったみたいなの。でも、被害にあった人たちが取り返さなくていいって言ってたらしいのよ」

「なんでですか?」

「盗賊に襲われた時点で返ってくると思ってないみたい。生きてただけで十分だって言ってたみたい。だからって放置していいわけじゃないけどね。でも」

「取り返してこいって人が出たってわけか」

「そう、どっかの貴族が、盗られた腕輪を取り返して来いって言ってきたの」

「なら最初からそういえばいいのに」

「危険な仕事だとわからせておきたかったんじゃないかな」

「確かに盗賊団を潰すって簡単なことじゃないからな」

「あ、やってもらうのは両方よ?腕輪の奪還と盗賊団の壊滅」

「・・・壊滅させてから探していいか?」

「別にいいわよ。じゃあ具体的な作戦を伝えるわよ」


 盗賊団は山の中腹にある廃坑をアジトにしていた。ガヌン山脈周辺は昔、石炭や魔水晶の産出で栄えていた。しかし、徐々に取れる量が減っていき廃坑がいくつもできていた。そして、その一つがアジトにされているのだ。

「まず馬車に乗って一度わざと襲われる。で、盗られたらアジトに繋がってる別の入り口から侵入。そして壊滅、奪還って流れよ」

「襲われる・・・それに繋がってるところから侵入って・・・」

「大丈夫よ。侵入するところは誰も出入りしてないわ」

「・・・僕達が仕事終えたとして、そのあとはどうするんですか?」

「騎士団が何かするって言ってた気がする」

「早い話が逮捕よ。あんた達が侵入してから周囲を騎士団が逃がさないように監視するわ。腕輪さえあれば窃盗で捕まえられるわ」

「つまり俺らは盗賊団さえなんとかできればいいんだな?」

「ええ、個人的な報復って建前で戦ってもらうわ」

「個人的な報復って?」

「盗られたものを取り返そうとするのは普通でしょ?」

「わかるような気もしますけど・・・」

「まあ作戦って言っても襲われるだけよ。アジトでの動きは全部好きにしていいわ」


 夕食を終えたエルドたちはテントに戻り、明日に備え早々に床に就いた。


 翌朝、三人は駐屯所に響くチャイムで目を覚ました。

「朝早すぎだろ・・・」

「まだ眠い・・・」

「軍隊の朝は早いんだね」

 寝ぼけたまま集合場所である山側の町の出入り口へと向かう。そこではラルダをはじめ、何人かの兵士が作戦の準備をしていた。

「遅い!何時まで寝てんのよ!」

「チャイムで起こされたっての・・・」

「寝足りない」

「あんたたちが起きたのは始業のベルよ、起床のチャイムはもっと早くに鳴ってるわ。そんなことより準備はできてる?」

「荷物は持ってきましたよ?」

「じゃあその荷物一旦預かるわ。襲われてから渡しに行くから」

「そうか、全部盗られたら元も子もないか」

「馬車に何積み込んでるの?」

 馬車の荷台にはいくつも木箱が積み上げられていて、他にも絨毯や魔装具が樽に入れられていた。しかしどれもあまりいい状態ではなく、穴が開いていたりシミが着いたりしていた。

「中身は町で出た廃材とか破損品よ。その場で確認されたらまずいけどね」

「馬はいいんですか?盗られたらまずいんじゃないですか?」

「一応今までは馬は見逃されてるのよね。大方エサとかが面倒だからだろうけど」

「食べたりしないの?」

「口に合わないんじゃね?」

「さ、物の心配はそのぐらいにしてさっさと乗って頂戴。そろそろ出発の時間よ」


 ベガンを出発した一行はガヌン山脈に沿ってできた街道を進んでいた。街道と言ってもきちんと整備されているわけではなく、獣道のように度重なる行商によって踏み固められてできた道だ。道幅は広いが路面の状態はあまりよくない。

 エルドは周囲を見回しながら御者を務めていた。

「周りは一面森か、こりゃ盗賊家業も捗るわな」

「人もあんまりこないだろうしね」

 街道沿いには人がいる気配がまるでなく、周りは完全に森に囲まれている。時折野生の動物が姿を見せる程度で人と出会うことはまったくなかった

「うん?どうしたのマーシャ?」

 ジェンスが積み込まれた樽の中を漁っていたマーシャに声をかける。マーシャは樽の中からピストル型の魔装具をいくつか取り出した。

「ねぇジェンス、これ直せる?」

「魔装銃か・・・銃身は・・・大丈夫かな。魔水晶がダメになってるみたいだから替えがあれば使えるね」

「この中に使えるやつある?」

「そうだね・・・これはまだ使えるかな?」

「何してんのか知らねぇけど、そろそろ現場近くだから手早く済ませろよ」

「これくらいならすぐ終わるよ。・・・よし、これで一応使えるかな」

「ありがと」

「ただ、市販品のボロだから威力は期待しちゃダメだよ」

 突如コートを纏った人影が森の中から飛び出し馬車を取り囲んだ。馬車の正面にいた人物はサーベルをエルドに突きつけ捲くし立て、続くように全体から声が上がった。声は野太く男のものだとわかった。

 しかしエルドたちは男達が何を言っているのか理解できなかった。

(盗賊団か!?何言ってのか全然わかんねぇ!)

「エルド、予定通り馬車降りて逃げるよ!」

「お、おう!」

 三人は馬車から一斉に飛び降り森の奥へと一目散に逃げ出した。一瞬、男の一人が追いかけようとしたが他の男に制止され、三人は無事逃げ切ることができた。

「これで第一段階終了か」

「次は反撃だね。あ、さっきの銃は・・・」

「大丈夫、持ってきてる」


 盗賊団の襲撃から逃れた三人は騎士団と合流していた。馬車を見張っていた騎士団の報告によると、襲ってきたのはゴブリンの盗賊団で間違いないようだ。今は積荷を全てアジトへ持ち帰っている頃だろう。

 ラルダに連れられて予定通り北側の廃坑の入り口へと向かう。

「三人とも特に怪我はなさそうね」

「意外とあっさり見逃してくれたからな」

「女にすら手を出さないってのは予想外だったわね」

「ゴブリンにも好みとかあるんじゃないですか?いたっ!」

 ジェンスが背中をさすりながら振り返るとマーシャが魔装銃を向けていた。はめ込まれた魔水晶からは魔力の残滓が漏れて、発射後であることを主張していた。

「確かに威力は低い」

「馬鹿やってないでさっさと行くわよ」


 やってきた廃坑の入り口には見張りもおらず、内部も明かり一つついていなかった。床には軽く塵や埃が積もっており、長らく誰もやってきていないのが見て取れた。

「中の地図とかってないんですか?」

「もちろんあるわよ。ただ随分昔のだから、落盤とかで通路が塞がってるかもしれないわ」

「そんなに昔の坑道なのか」

「ここの鉱業は百年くらい前に廃れてる」

「整備なんてしてないし、地盤がいきなり崩れたりするかもしれないから気をつけなさい。あとこれ、突入合図用の魔道具。地面に叩きつけるだけで使えるわ」

「わかりました。じゃあ行こうか」


 落ちていた木材を松明代わりにして廃坑の奥へと進んでゆく。こちら側へは本当に誰も来ていないのか、昔使われていたであろう採掘道具が朽ちた状態でいくつも転がっていた。

 廃坑はいくつも枝分かれしていてあちこちに繋がっていた。しかしラルダが言ったとおりその一部は瓦礫によって塞がれていた。見取り図で通れるルートを確認しながらジェンスが指示を出して進んでいた。

「えっと・・・次の角を左かな?」

「さっきから壁に何貼り付けてるの?」

 ジェンスはかばんから何かを取り出して、適当な間隔で壁に貼り付けていた。

「途中で作ってた粘土爆弾だよ」

「遠隔で使えるもんなのか?」

「もちろん使えるよ。そういう道具だし」

「その挿してるやつは何?」

「魔力を受け取るための道具だよ。飛ばした魔力に反応させるんだ」

「そんな道具もあんのか・・・っと行き止まりだな」

 角を曲がった先は瓦礫で進めなくなっていた。通路全体が瓦礫で埋まっていて人が通れるような隙間すらなかった。

「しかたない、じゃあ別の通路から・・・」

 そのとき元来た方向からコツコツと複数の足音が聞こえてきた。足音は徐々に近づいて来ていた。

 素早く反対側に移りエルドが通路を見張り、あとの二人が通路の先を見に行く。

「まずいな、こっちに来てるぞ」

 するとすぐに二人は引き返してきた。

「残念、このルートはダメだったみたい」

「どういうことだよ」

「こっち側も瓦礫で塞がってたよ。直線しか道はなさそうだよ」

「・・・はぁ、どうしようもねぇな」


「ぐぇ!この・・・」

「反抗しないでよ。大人しくしてて」

 三人は結局やってきた人物に捕まってしまった。今は縄で縛られ小部屋に閉じ込められていた。もちろん荷物は奪われており丸腰の状態だ。

 部屋の外は開けた空間で盗賊団が食堂として利用していた。そこではゴブリンたちが侵入者を捕まえたからか宴会をしていた。見張りは一人だが扉の近くにいてすぐに部屋を飛び出せるようにしている。

「どうやって逃げる?」

「荷物が向こうの部屋に置かれてるのは見たぞ」

「あとはゴブリンたちをどうやって部屋から追い出すかだね」

 どうやらゴブリンは人間とは言語が違うようだ。ゴブリンたちが何を言っているのかまったくわからなかった。しかしそれはゴブリンたちも同じだった。おかげで脱出の方法を相談することができている。

「まあここから逃げるだけなら何とかなるんだけどね」

「そうなの?」

「縄は焼き切るでしょ?追い出しは粘土爆弾を使えば多分いけるよ」

「なんだ、ならさっさとやろうぜ」

「来た道は多分瓦礫で埋まっちゃうから別の道からしか出られなくなるんだよね」

「なるほど、回り込まれたら挟まれる」

「そう、それを回避しようと思うと・・・」

「全員ぶっ倒せってことか・・・上等じゃねぇか」

「というか、もともとここを壊滅させるって仕事」

「二人ともやる気だね。じゃあ起爆させるからちょっと待ってね」


 ラルダが率いている騎士団は森に潜み、廃坑の出入り口を監視していた。

「軍曹、彼らは大丈夫でしょうか・・・たった三人で・・・」

「心配なのはわかるけど待つしかないわよ」

 そのとき、周囲にドゴォォンと轟音が響き渡った。同時に三人が通った出入り口から大量の砂煙と瓦礫が噴出した。

「ば、爆発!?一体何が・・・」

「全隊に通達、今すぐ突入して!」

(あいつら何考えてんのよ!?)


 突然の爆発によって大部屋は大騒ぎになり宴会は中止になった。そしてほとんどのゴブリンが武器を持って坑道へと走っていった。どうやら敵襲にあったと思っているらしい。

「あとは見張りだけだな」

「大丈夫だよっと、縄もちょうどいいや」

 ジェンスは縄を焼き切り、靴の裏に貼り付けていた粘土爆弾を縄の切れ端につけ、見張りに投げつけた。見張りは爆風で壁に叩きつけられ気を失った。

「何時そんなところに仕込んだんだよ」

「もちろん馬車でだよ。予備くらいはちゃんと仕込んどかないと」

「大部屋には誰もいない。今のうち」

 部屋の隅に三人の持ち物がまとめて放り投げられていた。廃坑の見取り図だけ盗られていたが、価値がないと思われたのか他の中身はほとんど無事だった。

 部屋を見回すと今までの盗品が一箇所に固められていた。その中に例の腕輪も紛れ込んでいた。

「扱い雑すぎだろ・・・さて、これからどうする?逃げるなら今だぞ」

「見取り図なしじゃ帰れないと思うよ?」

「ここで帰ってきたやつを迎え撃つ」

 通路へ出ていた数人のゴブリンたちが大部屋へと戻ってきた。三人を見るとすぐに武器を構えて襲い掛かってきた

「こい!」


 北側の入り口は爆発によって瓦礫で完全に埋まってしまい、廃坑内にすら入れなくなっていた。

 騎士団は南側の入り口から突入し、エルドたちの援護に向かっていた。しかし南側の坑道も一部が瓦礫で塞がれており自由に動くことはできなかった。

「ああもうややこしい!見取り図ないの?」

「元々見取り図は軍曹があの少年達に渡した一枚しか残ってなかったんですよ」

「嘘でしょ!?なんでそんな大事なこと早く言わないのよ!」

 そのとき廃坑の奥のほうからする小さな爆発音をラルダは聞き取れた。

「あっちから音がするわ!全員ついてきなさい!」


「ほら二人とも伏せて、もう一回いくよ」

「ちょっと待て!まだコイツが」

「さっさと離れて」

 マーシャがゴブリンを撃ち、エルドの身を自由にする。二人がゴブリンたちから距離をとって身を伏せると、ジェンスは千切った粘土爆弾をいくつかばら撒き炎を飛ばして起爆する。熱と衝撃波がゴブリンたちを襲い何人もの意識を奪った。

 エルドたちも爆風に巻き込まれて壁まで吹き飛ばされた。体についた塵を払いながら体勢を立て直す。

「いたた・・・」

「ったく、もう部屋の中めちゃくちゃじゃねぇか」

「そりゃあの威力だしね。これはいい実験になったね」

「そんなのに巻き込むんじゃねぇっての」

「腕輪以外の盗品もめちゃくちゃ」

「いらないって言ってたんだし大丈夫でしょ」

「んなこと言ってたか?」


 粉塵が晴れて部屋の様子が見えるようになってくる。天井や壁は大きく崩れ、置かれていたテーブルや椅子は粉々になって散らばっていた。その奥ではゴブリンたちが倒れていた。そのほとんどが動けないような状態で呻いていた。

「これで全部片付いたのかな?」

「さあ、何人いるか知らない」

「・・・いや、一人でかいのがいたような」

 直後、エルドの体が二メートルほど吹き飛ばされた。大部屋に通じる別の通路から大柄のゴブリンが姿を現した。他のゴブリンより一回り以上巨大な体をしていた。

「この人がここのボスかな?」

「エルド大丈夫?」

「くっ・・・この程度でくたばりゃしねぇよ」

「じゃあもうちょっと頑張ってよ」

 ゴブリンがジェンスのほうへと詰め寄り、拳を振り下ろす。

 ジェンスは横に跳んで攻撃をかわす。地面には拳の跡がくっきりと残されていた。

「やば・・・みんな、当たらないように気をつけて!」

 ゴブリンから距離をとってかく乱しながら、隙を突く作戦をとることにした。

 ゴブリンも三人を目で追いながら気を張り巡らしていた。

「ここ!」

 エルドが付加魔法をかけたパイプをゴブリンに叩きつける。ゴブリンはその太い腕でパイプを受け止めはじき返し、そのままエルド方へ体を向ける。

「エルド!」

(くっ、もうなくなりそうだ)

 小さく千切った粘土爆弾を二人の間に投げ、起爆させる。爆風でエルドの体が後ろに吹き飛ばされたが、ゴブリンも怯んで動きを止めた。

 ゴブリンは今度はジェンスを標的にした。するとその後ろから

「後ろがら空き」

 マーシャが後ろに回りこみ魔装銃を構える。その銃口の前に雷の魔法陣を描いた紙をかざして引き金を引く。打ち出された魔弾は魔法陣を通り電撃の塊になってゴブリンに命中した。電撃を浴びたゴブリンはその場に膝を突いた。

 しかしゴブリンは倒れることなくそのまま手元の瓦礫をジェンスに投げつけ反撃にでた。

「おっと危ない」

 ジェンスは走りながら飛んでくる瓦礫を避け、瓦礫の山に身を隠す。

 ゴブリンはマーシャに狙いを変え突進した。魔法銃で動きを止めようと応戦するが、その巨体はジャンク品の魔法銃程度の威力では止まらなかった。

 そして魔法銃が動かなくなった。

(まず・・・)

「だああああああ!」

 すんでのところで、ゴブリンとマーシャの間にエルドが割り込みその体を受け止めた。しかしエルドが全力で踏ん張るもその体はじりじりと後ろに下げられていた。

「こ、の野郎・・・なんつうパワーだよ・・・」

「ぐぅぅ・・・・」

 ゴブリンは低い声で唸りながら体を推し進める。

 じりじり押される状況にエルドは焦りを感じ始めていた。

(このままじゃ壁に叩きつけられる!)

 そう思ったときマーシャが前へ出てゴブリンの体に何かを当てた。

「飛んでけっ!」

 するとゴブリンの巨体が浮き上がり猛烈な勢いで反対側の壁へと叩きつけられた。

 マーシャが当てたのは風の魔法陣が描かれた紙だった。それを重ね合わせ巨体を吹き飛ばすほどの突風を発生させたのだ。

 ずり落ち、床に座り込んだゴブリンの周りには赤黒い粘土が転がっていた。

「残り少しだし君に全部上げるよ。受け取ってね」

 ゴブリンの体を爆炎と衝撃が包み込み、その体は横に倒れて動かなくなった。


 ゴブリン盗賊団壊滅の三日後、ティスタに帰ったエルドたちは再び騎士団南方支部へと呼び出された。

 前回と同じ部屋に通され、そこではセドリックが待っていた。

「まずは今回の件の礼を言おう。非常に助かった。感謝している」

「いやいや、そんな大げさっすよ」

「腕輪奪還に盗賊団壊滅、正直君達には荷が重いんじゃないかと思っていたが・・・どうやら見くびっていたようだ」

「まあ不安に思って当然だと思うっすよ?」

「・・・ところでエルド君、他の二人はどうしたのかね?」

 部屋にはエルドとセドリックの二人だけで、ジェンスとマーシャは来ていなかった。

「ジェンスは小道具を使いすぎたとかで準備、マーシャは疲れたからまだ動きたくないそうで。馬車って案外体休まりませんからねぇ」

「・・・まあよかろう。騎士団でもない君達に厳しくする理由がない」

「ところで今日は何の用っすか?」

「まず、これが今回の報酬だ。三人で五十万だったな」

「おお!どもっす!へへへ」

「・・・それと今回の件で君達の活動に支障が出ないようにできたと言う話だ」

「え、まじっすか!かなり派手に暴れたのに!?」

「むしろアレだけ派手に暴れたからとも言えるがね。騎士団が爆発の調査で廃坑に入ると内部でゴブリンたちが倒れていたので保護した、と言う名目で捕らえることができた」

「そっからどうするんすか?」

「不法入国で調べ上げる予定だ。そこからは司法の役割だがね」

「ほ~・・・ま、小難しいことはいいか。じゃあ帰りますんで」

「ああ、これからも精進したまえ」

「失礼しました」

 こうしてエルドたちはガヌン山脈に根付く大きな仕事を終えた。


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