第4話 どうやら視界をハックされている
短いですがキリが良いので。
ヤツの登場からどうも気持ちが落ち着かず、かと言ってヤツに色々質問するのも面倒になり、昨日はさっさと風呂に入って寝た。風呂の中でも視界内で飛び回るのは気に障ったけど…。
翌朝、眼を覚ますとティナが「どアップ」で鼻息荒く?言い出した。
(「めいんうぇぽん」を選択しよう。)
心の声だと相変わらずちょっと勢いあるな。
「よく分からんのだが。」
とりあえず返事をすると解説をしてくれる。
(この「リール」を回して、魔眼の主兵装を決めるんだよ。)
という彼女の言葉と共に、視界に文字が色々書いてあるリールが「ボワン!」と登場する。煙が出るエフェクトとか、相変わらず無駄に凝ってるな。でもなんか面白そうだ。こういうのどこかのRPGで見たことあるような…?
リールを見ると、中央に「予見眼」、上側には「心眼」、下側には「千里眼」と書いてある。
「キタコレ~!チートじゃね!」
俺は興奮して叫んでしまう。
「じゃあ…回すね…。」
ティナがつぶやき、リールが回り始める。特に止めるボタンがないのでぼーっと見ていると、止まったのは…「三白眼」…。おいこれ、ただの悪口じゃね?良さげな最高レア美少女を狙って回すと外れのビミョーに使えないオッサンが当たる課金ガチャか。相変わらずここの運営はいい仕事してくれるな!
「さすが…引きが…弱いね…。クフフ…。」
ティナからディスられた。どっちかというとオマエのせいじゃないのか?などとウダウダやっていると
「サトシ~!起きなさい!」
1階から母ちゃんの呼ぶ声がしたので渋々階下へ。なお朝食の際、
「あんた今日、眼つき悪くない?何かあった?」
と母ちゃんから不審がられた。鏡を見ても自分ではよく分からなかったが多分「三白眼」なんだよ今日の俺…。「モブ」から「モブのくせに眼つきも悪い男子」に更に格下げされたような。俺何か悪いことした?
そんな事件にもめげず、天使様をチラ見観察するいつものルーティンをこなし(今日は目が合う事件はなかった。目が合っても俺、三白眼だしな)、いつも通りの退屈な授業へ突入。2時限目は数学。早くも眠い…。昨晩は何だか眠りが浅かったような気がする。それとも三白眼の影響でいつもより眠くなったりするのか。
(敵機襲来!敵機襲来!)
突然のティナの心の声でビクッとなりつつ「何が起きた…?」と周りをゆっくりと見回す。すると、斜め後ろの方からブーンと羽音が聞こえた。いつの間にかスズメバチが教室に入ってきたようだ。怖いなおい。
スズメバチは右後ろを振り向いた俺の視界の中を右から左へ直線に抜けていく。その動きを目で追っていると、ティナは右に向かっていた水平飛行から上昇しつつぐるんと背面飛行に移り、再びぐりんと水平飛行に移る機動を行いながら追っかけていった。
(ドッグファイトみたいだ。)
と思わず感想を言うと、
(まだまだこれからだよ。)
と何だか楽しそうに返事があった。何が「これから」なのかな?と思っていた矢先、
(サイドワインダー発射!)
とティナが空対空ミサイル?を2発ぶっ放した。えっ?どっから出したのそれ…?
俺の困惑をよそに、2本の白い煙を引いて飛ぶ何かがスズメバチを追いかけ、ぶち当たった(ようなエフェクト?)。もちろんスズメバチは撃墜されたりはしなかったが、何か嫌な予感でもしたのか、教室からそのままブーンと出て行った。
何だったんだろう今の一幕。
(おいティナ。俺の視界で遊ぶな。)
とりあえず文句を言っておく。だが
(せっかく、運命値のしょぼい宿主を守ろうと張り切ったのに!)
逆切れされた。
ヤツの動機は兎も角、いよいよ俺の視界の主導権?が怪しく思えてきたな。もう何でもありなんではないだろうか。生理的な恐怖を覚える反面、退屈な授業が鮮やかな空中戦で彩られたことに不思議と爽やかさを感じた。俺の感覚、毒されてきているのかもしれん。
ついでに言うと昼飯の際、前の席の男子から「何か今日眼つきが怖いけど、どうしたの?」と聞かれた。やはり他人からは三白眼に見えるらしい。これが「めいんうぇぽん」って…不良ならまだしもモブには何の役にも立たないような。いつまでこの効果って続くんだろ。
ティナは前の席の男子の発言のあと、クフフと笑っていた。てめ~。
インメルマン・ターンでしたね。ティナはなぜか戦闘機が好きなようです。