第2話 ごり押しですか?
短いですが続きを書いてみました。
帰宅後、必要以上に安静に過ごし早めに就寝。
翌朝…
「ハッ…!?」
期待半分、不安半分で俺はガバッと布団を跳ね上げたが、見えるのは見慣れた天井といつもの自分の部屋。
視界のスミにも全く違和感がない。寝ている間に魔改造されたり、白い部屋に連れて行かれたりといったこともなかったようで。ちょっと残念だけど、モブはモブらしく穏やかで誠に…結構。
昨日のアレ(魔眼?)はいよいよ自分の妄想が行き尽くところまで行ってしまったのか、そういえばマイエンジェルはぶっ倒れた俺を見てどう思ったのか…などツラツラ考えながらいつも通り朝メシを食べ、いつもの電車に乗る。まだ打ち身の影響で多少身体が痛い以外はいつもの日常。
天使様は…いた。いつも通り。そのことに内心温かい気持ちになりつつも、凝視することは避けチラ見観察する。フト視線を感じ、自意識過剰かな?と思いながら目を向けると、天使様と目が合ってしまった。
ウグッと怯んだその瞬間、「ここで目をそらすのも、それはそれで怪しいかもな」と思い直し頑張って見つめ返してみた。
彼女は目があったことに少し驚きつつも控えめな笑顔を残し再び車窓の外へ視線を戻した。何だったのかな。100%の笑顔はどんなだろう。見てみたいなあ…。
彼女の心境がどのようなものだったのかは分からない。さっきの一瞬の交錯を反芻すると、眉の端がやや下がっていたような気がすることからみて「あの巻き込まれてぶっ倒れた男子、一応元気にしてるんだ。」ぐらいの感想かなとは思うけど。
「よく見たら変な顔で思わず笑いがこみあげたが、かなり我慢して耐えた」とか「モブ過ぎて苦笑い」といった感想でなかったことを祈りたい。思わず寝癖がついていないか、社会の窓は空いていないかなど確認してしまう。
その後は特に怪しい輩も登場せず、非常ブレーキ音が鳴り響くような事態もなく、無事に最寄り駅へ到着。天使様への未練は残ったが電車を降り、学校へと向かった。
まあこれが日常だ。毎日モブ殺しのイベントが起きる世の中なんて恐ろし過ぎる。「目立たず穏やかに」が俺の人生訓だし。そんな俺だから、母ちゃんがこないだ買ってきて1階のトイレに貼った「熱い言葉が垂れ流された日めくりカレンダー」は、何枚かめくっただけで胸やけした。
1-Bの教室に入ると、一部の人間が俺へ視線を向けた。おおかた「あいつ昨日休みやったな」程度の関心であり、「どうして休んだんだろう」といった突っ込んだ関心はないだろう。
実際、説明を求められても客観的には電車で倒れただけであり、どう語ってもかっこ悪い。席に着くと、普段から多少は話をする関係であり、心配して昨日メッセージも送ってくれた前の席の男子に声を掛けられた。
「並木、今日来て大丈夫なのか?」
「あ~うん。昨日1日安静にしてたし。」
彼には昨日電車で倒れて救急車で運ばれた旨伝えていたので、そんな無難な会話で済んだ。俺の席近くで僅かに関心があった模様の連中もどこか納得したようで、その後はいつも通りのモブポジションへ復帰できた。
少し寂しいが、これが俺の位置づけ。将来同窓会が開かれ、そこに参加したとしても昨日俺が休んだことは思い出されることさえない些末なエピソードだ。
チャイムと共に今日1限目の現代文が始まり、たまたまこの教科も担当している担任の先生からは「お、来たのか。」程度の反応があったが、それ以外には特に波風も立たず、今日も無難に時間割をこなすことができた。帰り道は念のため寄り道せずまっすぐ家に帰る。
家で学校の宿題をすませ何となくネット小説のランキングを漁っているうち、気付くと再び視界の端に小っさい文字が見えていた。
せっかくモブ道への復帰を受け入れていたのに、再び生じた日常の綻び。「やや文字数が多いけど何て書いてあるんかな?」と昨日の朝のように解読につとめるが、やっぱり見づらい。
字が白で小っさいとか、この運営はユーザーに対し不親切すぎる。眼の中なのか頭の中なのか、どこかよく分からない筋肉を動かしているうちに頭が痛くなってきて、それでもピンピンする文字列にあがいているうちに、母ちゃんが1階から呼ぶ声がする。
「サトシ、ご飯よ~。」
気がそれた瞬間、またもやピントがあったような気がした。思わず口に出して読んでしまう。
「『分…身…起動…(オススメ)』?」
…分身?いやそれより「オススメ」って誰からのオファーなの?
またもや気がそぞろになりながら、夜ご飯を食べる。
「そういえばあんた、身体大丈夫なの?何だか今日おとなしいけど。」
「俺だって別にいつもテンション高い訳じゃない。だいたい母ちゃんに学校のことや友達のことを何でもかんでも喋る男子高校生はそうおらんわ。」
と適当に言葉を返しつつも、さっき読み取れた文字列が気になる。今は視界のスミでピンピンしている。興味はそそられるが、正直ウザい。
いつもより早めに食事を終え、再び自分の部屋へ。「『分身起動』ってどういう意味なんだろう?」と素朴な疑問を抱いた瞬間、これまで目の端でピンピンしていた文字がスマホでよく見る「ホイール」のような表示(白地にグレーの文字になり、表示も大きくなったので見やすくなった)に切り替わり、左眼の視界に展開された。
ホイール状ということは、上下に回して選べるということなのか?と思い立ち、「分身起動」の上下を見てみると「フォント調整」「TIPS」など多数の選択肢が並んでいることが分かる。ホイールを動かしてみたい。とりあえずフォント調整だけでもやらないと、と考え色々試すも、ホイールは動かない。挙句の果てに「オススメ」の文字がブルブル震えてやたらとアピールしてくる。
「他選べないのかよ!」と心の中で突っ込みを入れつつ、ゴリ押ししてくる「分身起動」の文字に注目していると、ホイールの右側に囲みが表示され、「機能を拡張しますか?」というメッセージと「yes/no」というボタンが表示された。
「なんじゃそら?」と突っ込みつつ、まずは「no」のボタンへ意識を向けてみる。RPGの基本だな。素直にストーリーを進めるより、まずは不正解と思われる選択肢の反応を確かめてみたくなる。たまにいきなりBAD ENDになってビビるけど。
「no」というボタンがヘコっと押されたような表示が見えたが、特に何も起こらず、囲みとボタンは表示されたまま。念のためもう一度「no」を選んでみたが、変化はない。いや待て、隠しコマンドか何かが用意されているかもしれない、とゲーマー魂が刺激され合計10回ほどしつこく「no」を押してみたが、変化は訪れなかった。
「はぁ~。面倒な予感しかしない…。」とため息をつきつつ、「yes」を選択。
「じゃ……ん?」
なんかマッタリしたのが出てきやがった。