自己紹介
私は自己紹介が苦手だ。
「………」
紹介するほど面白い特徴なんてないし、まず人前で話すのが苦手という時点で無理ゲー。
「………」
でも静寂は好き。たとえ周りから痛いくらいの視線を受けていようと関係ない。
黙って佇んでる僕カッコいいと酔いしれてるナルシストがいようと、大丈夫かなとハラハラした様子で見守る幼馴染がいようと、その弟にブチ切れ寸前で睨みつけられていようと、関係ない。
むしろ眠い。昨日遅くまで読書してたが悪かったか。
「………………ねむ」
「寝るんじゃねぇ!もう我慢できねぇよ!昔からお前がそうなのはわかってるけど指名されてんだから、せめて自分の名前くらい名乗れ!」
さっきの沈黙がよほど堪えたのか、ブチ切れ寸前だった赤髪不良こと海斗が顔を真っ赤にして怒鳴った。短気は損気だっていうのに。
「小春は眠いんだよね。こっちにおいで膝枕してあげよう」
「兄貴がそうやって甘やかすからこいつはいつまでもこうなんだよ!」
「むむぅ」
「小春が可哀想だから離してあげるんだ、海斗」
「嫌だね」
笑顔で手招く幼馴染のりっちゃんの甘い誘惑にフラフラと近づく途中で、海斗に捕まってほっぺをつねりあげられる。私より一個年下の後輩のくせに全く先輩を敬う気配がないのは問題だと思います。
兄のりっちゃんと違ってツンデレ気味で優しいことは優しいのだけれど、そう簡単にはデレないから厄介なんだよなぁ。
「べろり」
「うわぁ!!舐めんな!」
海斗は不意打ちに弱い。あと女子供にも弱い。つまり私の勝利は確定的。
顔が真っ赤だぞツンデレ、わかりやすいなツンデレ。
拘束から逃れた私は、即座にりっちゃんの後ろに隠れた。りっちゃんの表情が笑顔を通り越してデレデレになった。
「よしよし、痛かっただろう」
「すんすん、痛かった、すんすん」
「お前、嘘泣きわかりやすすぎだろ」
「りっちゃん大好き、いじわる海斗から守ってすんすん」
「小春は可愛いなー。もちろん守るから安心していいぞ」
「チョロすぎだろ、兄貴」
「さっきから蚊帳の外だけど文句も言わない僕、素敵」
あ、ナル先輩のこと忘れてた。今もキメキメでポーズをとっているのがナル先輩こと成司先輩。顔もスタイルも成績も運動神経もいいのに、自分のことが大好きすぎるナルシストで全くモテない残念な先輩。我が校至高の変人。私はこの先輩に勧誘されて、おままごと部という謎の部活に入った。そして自己紹介を求められ今に至る。
「向坂小春です。よろしくお願いします」
海斗からの視線が痛いので仕方なしに名前を言って頭を下げると、りっちゃんに偉いと頭を撫でられた。りっちゃんは昔から私に甘い。それはもう甘い。実の弟である海斗よりも断然甘やかされている自信がある。そして私はそんなりっちゃんが大好きで兄のように慕っている。
「うむ、よろしくされよう。挨拶を返す僕、麗しい」
「この人、こえーよ」
「りっちゃん、お腹空いた」
「よし、購買に行って小春の好きなものを買おうな」
「ありがとう、大好きりっちゃん」
「なんでも買っちゃうぞー」
「兄貴は孫を溺愛するじいさんみたいになってるし!」
「美しい僕には、美を保つためのドリンクを頂こうかな。松永、チップを」
「はい、成司様。こちらに」
「黒子みたいなやつ現れた!もうツッコミきれねえよ!」
こんな私たちがおままごとしたり、しなかったりするそんな日常の話。
読んでいただいてありがとうございます!それにしても全然自己紹介になってませんね……。