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戦う探偵はいつも不幸  作者: 裃 左右


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3/21

不幸はいつも誰かを巻き込む

「それで、わたくしはマイルズさまに信じてもらえたのですか?」

「正直アンタが本物かはわからないが、もしアンタが偽者だとしたら演技をしてるんじゃなくて、イカレてるとしか思えないような振る舞いだな」

「イカれ……?」

「まともな判断力がある人間とは思えないという話だよ、騙るにしてももっとやりやすい対象がいるはずだからな」

 ミニス嬢は不思議そうに首をかしげた。

 僕はマイルズに抗議する。

「マイルズ、ミニス嬢に失礼じゃないか? 本物と仮定するなら、君の首を簡単に飛ばせる地位だよ?」

「法を遵守させる調停人の言葉とは思えんな」

「……あいにく僕はどこの事務所でも雇ってもらえないような人間だからね」

 資格なんてなまじあるから傷つくんだ。

 いらないプライドは持たないほうが、生きていくのが断然らくだと思う。

「それでご令嬢は俺に何をお望みで?」

「わたくし専用の機密回線で本社に連絡がとりたいのです、ですが機材がありません。 機材さえあれば、わたし自身が調整して使えるように出来ます」

 マイルズは怪訝そうな顔をした。

「よくわからないけど出来ないのか? マイルズ」

 僕は彼に尋ねる。

「……そりゃ俺は軍で思念技師やってたからな、機材自体を整備したり組み立てて使えるようにするのが俺の仕事だ。 金がもらえるなら文句はない。 しかし、思念波の周波数を把握してるのか? それに用意したところで俺が組み立てたガラクタみたいなもんだ、調整はなかなか困難だと思うが?」

「はい、記憶力はいいほうですから」

「そういう問題か?」

「思念技師ほどではないですが、実験機材として扱っていましたから」

「理論を考えるのと実際に微細調整するのは別問題だと思うがね」

 マイルズは驚きを通り越して、あきれた様子だった。

 僕からしたら何の話をしてるのか、さっぱりだ。

「とりあえず話がまとまったようでよかったよ」

「ちょっと待て、事情がさっぱり飲み込めん。 何が起きてる?」

「あー…それは」

 その時、マドモド店の門が乱暴に開かれた。

 とっさにテーブルを倒して、壁にする。

 ミニス嬢をその影へと抱きしめるようにして、引っ張り込んだ。

 銃声と炎が店内を飛び交う、テーブル越しに爆風を感じた。

 飛びちるガラスが炎に照らされて、真っ赤に輝いた。店内に立ち込める煙。

 ミニス嬢をつよく胸へと抱える。

「おいおい…」

 マイルズが頭を抱えながらつぶやく。

「この店、安全じゃなかったのかよ」

「安全神話崩壊だな、時代の流れは時に嘆かわしい光景を生むもんだ」

 そういいながら、マイルズはゴテゴテした銃を取り出しつつ安全装置をはずした。

 僕も同じように護身用の銃を取り出し、いつでも使えるよう触媒つえを袖に隠す。

 だが、一向に銃声や爆風がやまない。

 周囲の客もしぶとい連中が多いらしく武器を構えて物陰に潜んでいた。何人かは今のでやられたらしいが、怒り心頭の表情で一人が反撃を始めるとそれに続いて次々に戦闘に参加、店内はお祭り騒ぎとなる。

 テーブルの影から門を覗くと、野戦用にカモフラージュされた戦闘服を着た屈強な男たちが剣や盾、銃を構えて反撃していた。

 しかし、自分たちで使った炎や爆発の魔術による煙を有効利用され、手痛い反撃を受けている。

「なんだありゃ? 強盗にしちゃ派手だな、仮装にはまだ時期が早いぞ」

「あれはうちの警備部隊ですわ、大半は元傭兵ですね」

「なんだと?」

「わたくしの護衛だった部隊です」

 マイルズは口がふさがらないような様子だった。

 正気に戻ると同時に僕をにらみつける。

 余計なことに巻き込みやがって、と、

 そんなこと言ったってしょうがないじゃないか。

 僕は今、警察局に通報されるか、親御さんに殺されるかの瀬戸際なんだから。

「この店にミニス・ノウェール・ゼブレスがいることはわかっている」

 傭兵隊長らしき男が剣を構えながら、拡声器を使っているのかよく通る声で通告する。

 盾を構える兵士の影から、強烈な電撃を撃ち込む。

 閃光――テーブルから体をわずかに出していた男にかする、そのまま痙攣して倒れこんだ。熊と見間違うような男だったがその一撃で巨体は動かなくなってしまった。

「今すぐ彼女を引き渡せば、これ以上の攻撃はしない!」

 声は店に響くが、誰一人としてその声に応答しない。

 その通告の間に隙があらば、反撃する気満々の連中しかいなかった。中には歯をむき出して笑みを浮かべているものまでいる。

 正直、僕はさっきからこの状況に引いてるんだけど。

「……ああ言ってるけど、最初の攻撃自体殺す気満々だったじゃないか」

 僕がこの店内全員の気持ちを小声で代弁する。

 マイルズが相手の一挙一動を見逃さないようにしつつ、興味なさそうに返答する。

「大方、突然の襲撃に客が全滅するかと思ったら、しぶとく大半生き残って全員戦闘態勢になったのにびびったんだろ」

 見てみれば、あの恰幅のいい店長までも武器を構えている。

 ……あれは散弾銃だろうか。

 なんか正直、引く。

「みなさん頼もしい方ばかりですね、わが社にスカウトしたいくらいですわ」

「だいたいここの店にいる奴は、俺と同じような終戦で職にあぶれたごろつきどもだ。 勝ったほうも負けたほうも、戦いが終われば口減らしだからな」

 マイルズは物陰から冷静に射撃。

 傭兵が盾に身を隠しているにもかかわらず、そこからはみ出している銃を打ち抜いた。

「……軍隊もせちがらいよね」

「まあな、元の社会に適応できないやつらもいるくらいだ」

「こうして武器を常備しないといけない社会なんて不健康だよ」

「武器を持つのは国民の当然の権利だぜ」

 僕は怪物にも会わず、ならず者にも会わず、部屋に引きこもってたいんです。わりとのどかな場所で育ったせいか、僕はこの街の人間とは考えが合わなかった。

 僕は腰につけてある小型のバックパックから、筒を取り出す。

「なんだそりゃ?」

「ただの発炎筒だよ、船用のね」

「はあ?」

 僕はマイルズに放る。

「いいから、これに火をつけて隙を投げ込んでくれ」

「わかったよ、魔術師らしく魔術でも使ったらいいのによ」

「落第生に何を期待してるのさ、だいたい兵器に使える触媒つえなんて持ってないよ」

 マイルズはぼやきながら発炎筒にライターで火をつけて、傭兵たちに向かって投げた。

 真っ赤に強烈なまでに輝く発炎筒が彼らを襲う。

 その光の強さは、水中で使用しても発見できるようなレベルで作られている。実際には水深や天候にもよるんだろうけども。

「ば、爆弾か!?」

「これはなんだ!」 

 響きわたる叫び声。

 その瞬間に生き残った客がいっせいに反撃した。彼ら通り雨のごとく降り注ぐ弾丸。

 僕は混乱のその隙にミニス嬢の手を引っ張り走り出す。

「逃がすかっ!」

 傭兵隊長が僕たちへ剣先を向けようとするも、マイルズと店長が一斉に射撃。

 回避行動をとりながら防護魔術を展開。

「勝手に人をおとりにしてんじゃねえよ!」

 マイルズの叫び声を後に、僕らは脱出口から逃げ出した。


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