積極的に行こう
俺はホワイトさんに言われるまで、「戦艦」の複製を作るという考えは浮かばなかった。
思い込みというのはおそろしい。
剣は何も無いところから複製できたが、こんな図体のでかいものを大量に作れるとは思いもよらなかった。
その辺が人間の発想力の限界というものであるとも、あのじいさまは言ってた。
サイズなど関係なかったのだ。
あの恥ずかしい名前の神器も、俺に刺さる前はティースプーンサイズだったのだ。
聞いてしまった以上は仕方ない。
しかし、たかが七キロメートル、されど七キロメートル。運用に当たってはすこし手に余る。
例の混沌を振りまく仕事に際し、それ自体には戦闘能力の無い小回りの利く船を作ることにした。もちろん許可は取った。
「戦艦」の横っ腹にある数百メートルサイズの格納庫扉が音も無く開き(空気が無いからな!)巨大なシップクレーン数本が外に突き出す。
全長百メートル、太さ三十メートルほどの円筒型補給艦「ミレニアムコンドル」が真空中に投げ出された。
巨大な茶筒である。
補給艦には戦闘機を数機ぶら下げることが出来るが、今日はテストということでLSA-777が一機がくっついている。
「ミレニアムコンドル、指定空域に向けて発進しまーす!」
ちなみに操縦は委員長AIの補佐をしている、ちょっと胸の大きいピンク髪のAIが担当する。
ローティーン向け雑誌のすこし背伸びした感じのモデルといえば通じるだろうか。やぼったいかわいさなのだ。
俺と金髪さん、そして真央とヤボカワAIさんを乗せたミレニアムコンドルは混沌を振りまくための下調べを兼ねたテスト飛行に出た。
メインモニタに映る星映がぐにゃりと渦を描き、空間を移動する。
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「指定空域の惑星に接近。スルーフィード1番機、デタッチ完了。全児童飛行モードで惑星大気圏内に進入しまーす」
全児童は変換ミスではない。すべて児童AIが操縦するのだ。まずは無人機による偵察飛行。
センサーによる人工物観測ではじき出された推定総人口は十億人程度。文明レベルは現在の「地球」よりすこし進んでいるようだ。
驚いたことに、星の外から侵入する敵への備えは無いに等しい。
国家間の対立や国内情勢などによる戦争の脅威も無く、エネルギーも食料も必要な分量が供給され、訪れる天変地異に対抗する優れた術もあり、人口も安定していて星の外に出る必要も無く、生き急ぐ必要の無い世界。
しかし、「天界」から見れば脅威なのである。
もうやるだけやりつくした世界、あとは滅びるだけなのだ。
このまま文明が滅びてしまうと、エネルギー収支に乱れが生じ、近隣の「空間」に悪影響が出るという。
ぶっちゃけてしまうと人々の「足掻いてでも生きようとする力」が「天界」の支えになっているのだ。
そんな設定は最後の最後で暴露されるべき!と思うだろう。
俺もそう思っているが、金髪さんがぽろっと言ってしまったのだ。ライトブラウンさんは直したばかりの化粧が冷や汗で落ちてしまった。
ホワイトさんの苦笑いが何を意味していたのかは推し量れなかった。それ以上の理由があるということだろう。
そんな裏設定の一つを踏まえたうえで、この安定しきった世界にインクを垂らして、ちょっと黒くしてみようというのが今回の主目的。
「それじゃ実際にこの世界を見るとしよう」
惑星特有の風土病などの危険?神器を内蔵した俺に ふえっくしょん!
俺自身がウイルスを持ち込むのはまずいので、銀色のにくいやつに変身する。
違う意味で混沌とした世界になってしまうからだ。
そういえば前回、真央のいた世界には銀色スーツのまま降り立っていた。描写しなかったのは恥ずかしいからだ!
金髪さんは一応女神だし、まぁいいだろう。真央は補給艦でヤボカワさんと待っててください。
俺たちは転送装置を使い、拠点となる教会へと降り立つ。
しかし、そこには神などいなかった!
ミレニアムコンドルは敵の極太レーザーで轟沈する、いわゆるやられ艦がモデルです。(謎