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「バンビちゃん」

俺の運転する車、松一自動車製のburnBee、通称「バンビちゃん」


まだ正式名称も決まらない発売前のプレス向け試乗会で「やらかした」際に付けられた名前だ。


三ヶ月前のモーターショーでこの車を酷評していたテレビキャスターを助手席に縛りつけ、サーキットを「全開」でほんの五周ほど回ったという。


降りてきたキャスターは旋廻Gに耐えるのがやっとだったようで足腰が立たなくなり、オンボード映像と共にニュースで流れ、瞬く間に拡散。


ピットでぶるぶると震え、ようやく立っている姿が中継された際、視聴者から生まれたての小鹿「バンビ」のようだと揶揄された。


それまでそのキャスターは自称プロドライバーを名乗り、ライセンスも保持していると豪語していたのだが、実際は何の資格も持っていなかった。


さらにキャスターが松一のライバル会社から裏金をもらっていたことも発覚。


テレビ局のサイトは炎上。蜂の巣をつついたような騒ぎになった。


「バンビ」とburnとBeeをもじった高度な(ry


エンブレムは炎をバックにしたオオスズメバチがモチーフになっている。


こんな粋な?ネーミングをしたのはその松一を仕切る俺のじーさまらしい。


今走っているのはそのじーさまが所有する山の中。完全な私道だ。


「安全運転」中にも関わらず、助手席の真央はそれこそおしっこちびったかのような顔で黙り込んでいる。


五分ほどで「公道」に出る門が見えてきた。


門を出れば十数分で学童保育施設だ。


ようやく「超安全運転」の速度になった車内で真央が再起動する。


「おうちかえる…。おもちゃもいらない…」


数百年を生きてきたという自称魔王も「バンビちゃん」にはかなわなかった様だ。


---


日が完全に落ちた頃、学童保育施設に着いた。


幸い、真央はもらすまでは至らなかったようだ。


俺は保護者カードを持って受付に向かう。その後ろを真央がふらふらとついてくる。


「ここはどこなのだ」


真っ青な顔をした真央が尋ねる。


「悪い子供を預けてしつけなおす場所だ。真央も預かってもらうかい?」


丁度親に手を引かれ泣きながら出てくる子供とすれ違う。背格好は真央と同じくらいだ。


真央の顔色はさらにデンジャーとなる。


「まぁ冗談だから」


その言葉は届いていないようだ。


---


「ごくろうさまです。おじさまの到着をずっと待っていたようですよ」


当番の先生がにこにこしながら報告してくれた。教室にはまだ数人、子供たちが残っている。


玄関先には仁王立ちになった金髪ついんてーるお嬢様。ピンク色のワンピースが良く似合う。


「べ、別に迎えに来てほしいなんて言ってないんだから!」


上目遣いもなかなか様になっている。


「どう?おじさん?うまくなった?」


「なかなか様になってるじゃないか!」


お嬢様のあたまをなでなでする。


ツンデレを仕込み中なのは秘密だ。いつもお嬢様を人に押し付けて遊びに行く叔母に一泡吹かせる作戦だ。ちなみに旦那は外国人で海外に単身赴任中だ。


ランドセルを持ち、お嬢様と学童保育施設を後にする。


「おじさん、この子はだれなの?お人形さんみたいだね!」


俺の後ろに居た真央に気づいたようだ。


元々色白な上に顔色が優れないものだから、肌の色が陶器のような感じになっている。


「ああ、その人は仕事仲間で真央さんというんだ」


「ふーん。おじさんのこいびとじゃないの?」


「いやいや、そんな」


おまわりさん俺です。


「ああ、今日はお仕事の話をするためにあと二人来ているんだ。夕食の材料もないし、持ち帰りのお弁当で済ませようと思うんだが」


「じゃあ、あたしはおこさまカレーがいいな!」


「了解です、お嬢様」


途中テイクアウトのお店に寄り、「超安全運転」で家にたどり着いた。


---


「おかえりなさいませ!」


「お…おかえり」


「ただいま、こんばんは!おねーさんたち」


「ただいまかえったでござる」


「…おうちかえりたい」


金髪女神と勇者エリーシャは風呂上りの牛乳を飲みながらガールズトークの最中だったようだ。


金髪さんもエリーシャも俺の服を着てぺたんこ座りしている。


「すいません、お湯をかぶってしまって・・・勝手に着ちゃいましたけど…」


シャワーが暴走したらしい。ちゃんと教えていかなかったから仕方ないか。うちのはあばれんぼうなのだ。


女神が胸元ぱっつんのTeeを引っ張る。某アニメキャラが胸元でむにゅんと伸びている。金髪さんは見た目は良いんだが中身が…


「ああ、良いって」


「それじゃ口に合うかわからんけど、夕飯にしようか」


お嬢様以外は焼肉弁当にした。というか他に無かった。


飲み物も適当に出す。さすがにアルコールはやめておいたが。


そして、一番拒絶しそうだった真央がスプーン片手にいちばんはしゃいでいるという現実。


「に…肉だ。しかも味がついているしやわらかい!私の森にいるマッドホッグのかたい肉とは大違いだ!そして肉の下には味の染みた炊き込まれた穀類というサプライズ!この甘辛い風味と、香草のみじん切りが絶妙な」


おまえはどこのうまいんぼうだよ!


そんな様子を眺めながら、お嬢様はカレーをうまうまし、エリーシャはナイフとフォークでフランス料理でも食べるようなお作法を披露している。


「金髪さん、食べないのか?」


「あの…これってあとからお支払いを」


「ああ、おごりだから気にするな」


「そうなんですか!おにくなんてひさしぶりですうー」


一つ数百円の弁当で喜んでもらえるとは思わなかった。いくらちょろいさんでも攻略はしないほうがいいだろう。


---


うちのお嬢様と真央を風呂に送り込み、金髪さんとエリーシャを交えて作戦会議だ。


「それでさ、あの魔王って倒さないとならないの?」


金髪さんが達成条件のかかれた書類を引っ張り出す。


「勇者により討伐され、魔王の存在が消えた場合としか」


「んー。つまりはエリーシャの世界から魔王が一旦いなくなればいいのかね?」


ほこほこと湯気を出しながらパジャマ姿のお子様二人が現れた。


事情を知らない真央に突然切り出す。


「真央、しばらく一緒に住まないか?」


この子、真っ赤になって俯いているわ!さっきと違う湯気もでてるし、愛の告白じゃないから!


後で強力なとび蹴りを食らいましたが、神器の宿った俺にはきかぬ ぐふう!


その後、客間に三人分ふとんをならべ、客人を寝かしつけたものの、夜中に金髪さんと真央が寝ぼけて俺の布団に入るというお約束をしてくれたのだが。


---


次の日、俺と女神は「戦艦」を経由してエリーシャを元の世界に帰した。タクシー代もかからないし、何より極秘裏に事を進めることが可能だ。


真央の身に着けていたペンダントを討伐の証として持たせた。真央はそんなに大事な物じゃないからと言ってたが、今度街に出たら何か見繕うか。


数日後、金髪女神の業績メーターが一つ上がった。


「勇者エリーシャ・オリバー、魔王討伐に成功」


今まで単独での任務達成率ゼロ更新を続けていたのにいきなりクリアしたので、本部では天変地異の前触れとも言われているようだ。


真央はうちでお嬢様と女児向けアニメを見ている。完全に毒されてるな。


もし何かあれば真央と一緒に「戦艦」に住んでも良いし。何とかなるだろう。


しばらくしてから、例の天界から俺に臨時社員にならないか?というお誘いがきた。

ようやく本題に入れそうです。


---

11/3

typo修正しましま

オオススメバチ→オオスズメバチ

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