雇われ執事と坊ちゃま
約一年ぶりの更新です。
「シラカワ様!」
執事姿のホワイトさんにメイド長のディアがぺこりと挨拶を。こっちではシラカワって名乗ってるのか。
そのホワイトさん、いつものもじゃもじゃひげではなく、きちんと切りそろえた「ザ・ダンディ」な雰囲気になっている。
うちの委員長AIに引っ張られすぎて抜けてしまったか!と思ったがそうではないようだ。
ちなみに本人かどうかというのは、こちらに向けてくる殺気で分かる。あのじいさま、会うたびにこっちを試すようなことをしてくるのは勘弁してほしい。金髪さんもへにょへにょになっているし。いや、へにょってるのは元からか。
「ご無沙汰しております真央様」
ホワイトさんが右腕を胸の辺りにつけ、腰を折るのを見た真央はおめめをぱちくりしている。
おくちのまわりにジャムをつけたまま。
「だ、誰じゃ、おぬしは!」
俺も今言おうと思ったんだ。先を越されてしまった。
「これはこれは。改めて自己紹介を…当宮殿の雇われ執事、シラカワと申します。真央様がご存じないのも無理からぬ事。まだお小さいころに一度ご尊顔を拝見させて頂き…」
つまりはおしめつけてた頃か。と口には出さないのに真央の視線がぐさぐさと刺さってくる。今でも似合いそうだけどな。
かぼぱんもおしめもかわらんぞ。もこもこしてるし。
二度目のお辞儀をし終わると、どこから引っ張り出したのか漆塗りの玉手箱のようなものを手にしたホワイトさん。開けると老化ガスではなく永遠の愛が飛び出すといわれる。
「引っ越し祝い…というわけではありませんが、「こちら」で生活するのに必要なものをそろえましたので、お改めください」
大テーブルに置かれた箱の紐を解くと…。
「ぽん!」とか「ばきゃーん!」とか、特に爆発などは起こらなかった。
出てきたのは、ぱんぱんに膨れた地元の市役所ロゴの入った封筒と、これまた地元の信用金庫の物らしい預金通帳、それに印鑑?
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「なるほど、戸籍…」
「コセキでございますか?」
下級魔人のディアが首をかしげ、灰色のおしっぽ様もゆらゆらと。うーむ。触りたい。
真央とメイド達の身分を示すものが用意されていたのだ。
どうやったのか分からないが、この城が「合法的な建造物」だと証明する各種書類も入っている。
「うら若き乙女が宮殿内に篭りっぱなしというわけには行かないでしょう」
そういや、ディアさん達って見た目年齢…なワケナイヨネ。
「身体的な特徴は…」
角やらおしっぽやら巨大山脈やら…いや、山脈はいいのか。
外に出るにしても…と考えたところで、俺の精神体に突き刺さっている「神器」からデータが流れてきた。
「俺の出番って事か。ホワイトさん」
「はて、ホワイトとは?わたくしめはシラカワ。ただの使用人ですぞ、坊ちゃま」
「坊ちゃま?」